宇多田ヒカル、三浦大知、King Gnu……“絶妙なバランス”で構築されたサウンドの意匠を読む

 映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』の主題歌として「One Last Kiss」を発表し、すぐさま話題になった宇多田ヒカル。重要コラボレーターのひとりNao’ymtとのタッグで新曲「Backwards」をリリースした三浦大知。こちらも映画主題歌として「泡」をリリースし、持ち味の「声」の扱いを深化させたKing Gnu。三者三様の楽曲の魅力を、それぞれ深堀りしていきたい。

宇多田ヒカル『One Last Kiss』

 宇多田ヒカル「One Last Kiss」は、2020年のシングル2作(「Time」「誰にも言わない」)に続く新曲であり、宇多田ヒカルの独特なリズム感覚とニュアンスの豊かな歌唱が耳を惹きつける一曲だ。

 リリース前、共同プロデュースにPC Musicでの活動で知られるA.G.Cookが参加しているらしい、という話が『シン・エヴァンゲリオン』を見た人たちから漏れ聞こえてきたときには驚いた。たとえば直近の仕事で言えば、A.G.Cookが共同プロデュースを手掛けたJónsi『Shiver』(2020年)は、Jónsiの楽曲の世界をいっそうドラマチックに演出するクセの強いサウンドが印象的だった。また、自身のソロ作『7G』や『Apple』(共に2020年)で発揮された露悪気味な大胆さも念頭にあった。宇多田ヒカルと組んだらどうなるのよ、とはらはらするのも仕方ない。

 しかし、「One Last Kiss」はA.G.Cook色はそこまで強くない。クレジットなしでは気づかないかもしれない。ダイナミックに仰々しく展開するよりも、じわじわと反復しつつクライマックスへと盛り上がっていく。ただ、後景にあったけばけばしいシンセの質感がぐっとせりだし、さらにはボーカル・カットアップも登場する中盤からの展開は、ちょっと毛色の違う、A.G.Cookのテイストが出ているようにも思う。そのバランスが絶妙だ。

 宇多田ヒカルの声と言葉をあくまでセンターに据えつつ、宇多田ひとりではあまり取り組まなさそうなサウンドをフックに絶妙なカタルシスをつくりだす。イヤフォンよりは、そう、映画館の音響で聴いてみたくなる。

宇多田ヒカル『One Last Kiss』
三浦大知『Backwards』(CD)

 三浦大知「Backwards」は、久しぶりのNao’ymt参加楽曲。疾走感あふれるエイトビートに80’s調のシンセリフ。The Weeknd「Blinding Lights」をどうしても連想してしまうが、いかにも流行りに乗ったという印象を受けないのは、同じくNao’ymtとタッグを組んだ近作「Be Myself」や「Blizzard」などの延長線上にある楽曲として説得力があるからだろう。

 そもそもこの曲、「Blinding Lights」とはある意味対極の楽曲とさえ言える。「Blinding Lights」のキモは徹底的に反復を貫く(スネアとキックのパターンはびっくりするほど変わらない!)シンプルなビートにある。展開も最小限で、歌メロやフレーズのつくりも耳に残りやすく設計されている。

 一方の「Backwards」。キャッチーなフレーズを組み合わせて耳に残るポップソングをつくるというのではなく、細かい展開やさまざまなメロディ、サウンドがしっかりと噛み合うことで、全体がひとつのシーンをつくりだしている。コーラスとコーラスのあいだをビートでつなぐのではなく、あえて大きなブレイクが設けられていることで、まるで3幕構成の演劇のようにも思える。ステージが視えるのだ。

 もうひとつ、Nao’ymtの作家性と関わるポイントに、残響(リバーブ)やエコーといった成分の使い方がある。「Backwards」を聴いていて驚くのは、これほど緊密に絡み合うサウンドのなかに豊かな残響や過激とも思える深いエコーが馴染んでいることだ。特に3分29秒ごろからのブリッジ的な部分でボーカルにかかっているエコーと、それが全体として織りなすテクスチャはユニーク。1曲を通じてそうした残響の部分を緻密にコントロールする、その凄みには気圧されてしまう。Nao’ymtが最近リリースしているシングル群もあわせて聴いてみると面白いだろう。

三浦大知 (Daichi Miura) / Backwards -Music Video-