宇多田ヒカル、三浦大知、King Gnu……“絶妙なバランス”で構築されたサウンドの意匠を読む

King Gnu「泡」
King Gnu「泡」

 映画『太陽は動かない』の主題歌として、公開と同日の3月5日に配信リリースされたKing Gnu「泡」。いわゆるプリズマイザー的なボーカルエフェクトをフィーチャーし、2010年代初頭のポストダブステップを思わせるような浮遊感が全体を貫く1曲だ。

 あらためて言うまでもないが、King Gnuはツインボーカルであり、その歌声のコントラストそれ自体も魅力であれば、そうしたコントラストを楽曲のなかに配置してストーリーテリングに活かすことにも長けたバンドだ。では「泡」ではどのように配置されているのか? という観点から聴いていくと興味深い。

 「泡」は基本的に、センターに井口理のボーカルを配置して、常田大希の大きく変調されたボーカルを周囲に大量に配置する構図になっている。歌い出しで言えば、左チャンネルに常田、センターに井口、右チャンネルにおそらくまた別の常田。左チャンネルの常田はハーモニーを奏で、右チャンネルの常田はおそらく単旋律。そもそもプリズマイザーというエフェクトからして、ひとつの声に複数の声を憑依させる性質を持っている。それが過剰なまでに重なっていく。

 かつ、プリズマイザーやオートチューンをかけることで、声に独特のテクスチャーが加わる。この曲では、それによって声がいつしか、大きくフィーチャーされているノコギリ波のシンプルなシンセのサウンドに同化していくような瞬間がある。声が声でなくなるような、声でなかったものが声に姿を変えるような、そうしたモーフィングが起こる。それを突き詰めていくと、もはや声が「誰かの声」ですらなくなるようにも思える。

 実際には、この曲がそうした非人称性にまで突入することはほぼほぼない。それだけふたりのキャラクターが強いということだ。けれども、対照的な声をスマートに配置するこれまでのドラマツルギーとは異なる方向性を感じさせるところがあって、期待してしまう1曲だ。

King Gnu - 泡

■imdkm
1989年生まれ。山形県出身。ライター、批評家。ダンスミュージックを愛好し制作もする立場から、現代のポップミュージックについて考察する。著書に『リズムから考えるJ-POP史』(blueprint、2019年)。ウェブサイト:imdkm.com

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