宇多田ヒカル『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』主題歌が今胸に響く理由 あらゆる人々の寂しさを受け止める“願いの歌”

 「Beautiful World」。直訳すると「美しい世界」。シンプルで真っ直ぐな言葉だ。それだけ切り取ってしまえば、何のひねりもない、ごく普通のありふれた表現だし、ともすれば陳腐にも聞こえる。しかし、そこに何かしらの意味や文脈が加わることで、それは人生を豊かにするための示唆に富んだ、奥ゆかしい響きを持つ言葉に生まれ変わる。宇多田ヒカルの楽曲「Beautiful World」と、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズとの関係性は、まさにその好例と言える。

宇多田ヒカル「Beautiful World」

 いまさら説明するまでもないかもしれないが、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズとは、90年代に社会現象を巻き起こしたTVアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』(1995年)を、その生みの親である庵野秀明が自ら総監督となって指揮を執り、キャラクターや大まかな設定は踏襲しながらも、新しい作品として再構築を試みた、全4部作の劇場作品のことだ。今年6月27日には、第4作となる『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の全国上映が決定していたが、先日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を受けて公開延期を発表。残念ながらシリーズの完結は先に見送られることになった。

 だが、同作を手がけるアニメ制作会社、カラーの公式YouTubeチャンネルでは、今回の事態を受けて、過去のシリーズ3作品の無料配信を開始。現在、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』(2007年)、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』(2009年)、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』(2012年)を、4月29日までの期間限定で公開している。

Utada Hikaru「Beautiful World」 Directed by Tsurumaki Kazuya

 それらの動画は4月20日に公開されるや、瞬く間に数百万回単位の再生回数を記録。その勢いのすごさからも、いかに『エヴァ』がたくさんの人々に支持されているのかが伝わってくる。かく言う筆者も、この機会に劇場版3作品を観直したわけだが、そこで改めて感じたのが、「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」シリーズにおける、宇多田ヒカルが歌うテーマソングの重要性。作品のテーマ性とのリンクを感じさせながらも、直截的な表現は含まない絶妙な距離感の歌詞。それでいて物語の余韻を何倍にも増幅してくれる、宇多田特有の切ないフレーバーを有した歌声は、今や『エヴァ』には欠かせないものになっている。そのなかでも、『:序』と『:破』の2作品を彩った名曲が、先述の「Beautiful World」というわけだ。

 そもそも宇多田は『エヴァ』の楽曲を担当する前から、同作品のファンとして知られていた。2006年に雑誌『週刊プレイボーイ』の特集「エヴァンゲリオン10年目の真実」に掲載された宇多田のインタビューを読んだ庵野監督らスタッフが、宇多田に新劇場版のテーマソングをオファーしたことにより生まれたのが、2007年8月に彼女の19枚目のシングル表題曲として発表された「Beautiful World」だった。

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