ももいろクローバーZの歴史を紐解く 最終回:より具現化された「いま、会えるアイドル」のコンセプト

ももいろクローバーZ『田中将大』
ももいろクローバーZ『田中将大』

 メジャーアイドルのなかでもトップ人気を誇りながら、その地位に甘んじることなく常に人々の好奇心を刺激し、全力でおもしろいことを追求し続けている、ももいろクローバーZ。そんなももクロのヒストリーを紐解きながら、あらためてグループの魅力を掘り当てていく、この短期連載。最終回は、新型コロナウイルスのなかでの活動と今後のグループへの期待について記したい(第1回〜第5回はこちら)。

百田夏菜子出演『すくってごらん』で描かれたもの

 2021年3月、百田夏菜子が出演した1本の映画が公開された。大谷紀子原作、真壁幸紀監督の『すくってごらん』だ。田舎町に左遷されたエリート銀行マン・香芝(尾上松也)が、地元名物の金魚すくいを通して再生していく物語。百田が演じたのは、吉乃という金魚すくい店を営む魅惑的な美女。彼女のやわらかな雰囲気は、出世街道から転げてヤサぐれた香芝の気持ちに変化をもたらしていく。一方で吉乃自身も、実はピアノの名手でありながら、さまざまな事情により殻に閉じこもって生きていたことが分かる。

 この映画は金魚すくいというテーマに引っ掛け、自分自身と向き合えず心の弱さを抱えた人物たちが、いかにして救われていくかが描かれていた。それはこのコロナ禍、生き進めることへの不安が膨らむ現実のなかで、それでも何とか望みを持ってやっていこうというメッセージを感じさせた。香芝、吉乃をはじめとするみんながどこか心を閉ざしている部分も、新型コロナで制限された私たちの生活に重ねて観ることができた。吉乃が、蔵のなかでこっそりピアノを弾いている場面が特に印象的だった。

 ももクロも、新型コロナの影響をもちろん受けた。2020年4月、福島で『ももクロ春の一大事2020 笑顔のチカラ つなげるオモイ in 楢葉・広野・浪江 三町合同大会』を開催する予定だったが中止に。『春の一大事』は近年、地方自治体と手を組んでおこなわれてきた恒例イベントだ。2017年は埼玉県富士見市、2018年は滋賀県東近江市、2019年は富山県黒部市、そして2020年は福島県楢葉町・広野町・浪江町。開催にあたって開催地は町をあげて協力し、ももクロ側は一切の出演料を受け取らず、肖像も貸す。

 マネージャーの川上アキラは自著『ももクロ改 4人と新たに目指す未来』(2018年)のなかで、2014年の国立競技場での公演の際、百田が聖火台に立ち“みんなに笑顔を届けることにはゴールはない”との宣言に触れ、「ももクロの活動はすべて「誰かに笑顔を届ける」ことを目的にしています。自治体と一緒にライブを開くことで、モノノフだけでなく、地元の人たちも笑顔にできるかもしれない。そう考えたのです」と地方をまわる意図を語っている。

 『ももクロ改』内のメンバーによる座談会では、2018年東近江市でのライブで、メンバーが通路を何度も行き来するなど観客に近づく演出のことが話題にあがった。高城は「私たちも自分の意思でいろんなところに行って、お客さんをより近くに感じられたしね(中略)地元の人たちとお客さんと私たちと、ライブに関わったみんなで手作りしている感じで。事前に現地へ行ったときに地元の方と交流があったり、スタッフのお弁当も地元のものだったりとか、東近江市とすごく近い場所に私たちもいるんですよね」と振り返っていた。これはあくまで東近江市でのライブについての言葉だったが、しかしももクロの活動全体をあらわす核のようなコメントだと思った。同著ではさらに高城が、2018年の東京ドームでの結成10周年ライブへの意気込みについて「できるだけみんなの近くに行けるような仕掛けも考えたいですね。過去のドームツアーでは気球に乗ってみたけど、トロッコとか、どんな形でもいいから会場の奥のほうまで行ってみたいですね」と展望を口にしていた。そう、彼女たちはファンを近くに感じるために自分の意思で会いに行っていたのだ。

 ももクロの活動のスケールはとてつもなく大きくなった。取り巻く環境にも違いが出てきた。しかし2008年に路上ライブでスタートし、2009年にワゴン車で全国をツアーへ出発したときから今まで、彼女たちは何も変わっていなかった。ずっとずっと「いま、会えるアイドル」であり続けていた。川上は常々「ももクロの活動にゴールはない」と言い続けてきた。たとえメンバーが結婚しようがそこで終わらせるつもりはなく、日本全国のおじいちゃん、おばあちゃんでも知るような存在を目指していくと語っていた。そのために自分たちでいろんな人、いろんな場所へ会いに行っていた。

 2017年4月から翌年11月にかけて47都道府県をまわったツアー『ももいろクローバーZ ジャパンツアー「青春」』はその象徴で、雑誌『OVERTURE』(2018年12月号)で玉井詩織は「その場所に行ってみないとわからないことってたくさんあるから。ものすごく『行ってみてわかったこと』を経験できたかな」と話していた。2018年といえば、5月22日、23日にももクロは結成10周年を記念した東京ドームでのワンマンライブ『ももいろクローバーZ 10th Anniversary The Diamond Four -in 桃響導夢-』を成功させた。このときの百田のMCにも“みんなにもっと笑顔を届けられるように、みんなともっとたくさんの景色が見られるように、歩いていけたらいいなと思います”とあったように、結成10年にして「いま、会えるアイドル」のコンセプトがより具体化された感があった。

 しかし2020年、新型コロナの世界的な感染拡大で会いに行くことができなくなった。前述の『春の一大事2020』はじめ、メンバーのソロコンサート、西武ドームでの公演などさまざまな公演が延期・中止となった。メジャーデビューからちょうど10年のメモリアルイヤーは、とてもじゃないが祝福ムードではなくなった。



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