yama、Adoらに続く新世代スターが誕生? 小説×音楽×イラストが連動したメディアミックスプロジェクト『FGA』の全貌
『FGA』を作り上げる世代を超えたクリエイター陣
『FGA』にはクリエイターとして豪華メンバーが参加している。作曲/サウンドプロデュースを担当するのは、映画『サマーウォーズ』や『踊る大捜査線』シリーズといった作品の楽曲に加えて、サザンオールスターズ、CHAGE and ASKA、玉置浩二、中森明菜、久宝留理子、KAN、鈴木雅之、福山雅治のレコードにアレンジャープロデューサーとして参加してきた松本晃彦氏。ビジュアルを担当するのは、気鋭のイラストレーター・ざしきわらし氏。また、プロデューサーはワムハウスの髙橋雄⼀氏が、フリーで活動する⼩笠原学氏が松本氏と共にサウンドプロデュースを担当。両者はそれぞれ、マネージャー/オンステージのシンセプログラマーとしてCHAGE&ASKAを支えた人物でもあり、世代を超えて様々な面々が集まった。
「当時の音楽ビジネスでの経験値は、その人たちしか持っていないものですし、今のスピードの速い音楽業界と、今よりも音楽が社会的に影響力を持っていた時代に、音楽で奇跡を起こしてきた人たちが交わったら、きっと面白いことができるんじゃないかと考えました。松本さんにお願いするアイデアは小笠原さんから出てきたものでしたが、僕自身はまだはじまったばかりのプロジェクトで松本さんにお声がけできるとは思っていなかったですし、海外在住の方なので物理的にも会えないと思っていました。ところがある日、打ち合わせに小笠原さんが遅刻してきて、「今誰に会ったと思う?」と聞くので不思議に思ったら、『サマーウォーズ』のライブのために一時帰国したところ、コロナ禍の渡航制限で自宅に帰れなくなっていた松本さんに、たまたまケーキ屋さんで会ったそうで。そのうえ、小笠原さんはその場で『FGA』のことを伝え、松本さんも「やる!」と言ってくださったんです。僕はもともと松本さんのファンでしたし、これをきっかけに一気に歯車が動きはじめた気がします。
一方、ざしきわらしさんも、もともと僕自身が彼のイラストのファンでした。ざしきわらしさんの描く女の子は魅力的な美少女でありながら、媚びていない魅力があり、「いつか、ざしきわらしさんの描く女の子を主役に何かできないか」とずっと思っていたので、プロジェクトを立ち上げたときに、おのずと名前が挙がりました。そもそも、今回の小説『re-rendaring dawn』は、スチームパンク的な世界観で、大きなマスクをつけた女の子がいる、ざしきわらしさんの一枚のイラストから構想を広げたものです。本人によると、コロナ禍よりも随分前に描いたイラストだったそうですが、その絵を見て、もし近未来にこんな風景があったら面白いな、と考えたのが、物語を発想するきっかけになりました」
“固定観念”を持たないエンタメコンテンツ作りを
そうして紡がれるのは、どこかコロナ禍以降の現実の世界ともリンクするような、サイバーパンク的な世界観。未知のウイルスが蔓延した世界で、マスク型デバイスに連動した「ARP(アープ)」というAIシステムと、そのAIガイドサービス「iv(イヴ)」などをテーマに、近未来的な世界での様々な人々の生き方や、他人との距離についての物語が綴られていく。
「コロナ禍で今までと一番変わったことって、人と人との距離感だと思うんです。ソーシャルディスタンスを守らなければいけないという物理的な距離感から、『人と会うことでウイルスをうつしてしまうかもしれない/もらってしまうかもしれない』という心理的な距離感まで、色んなことがどんどん離れてしまう部分が少なからずあると思っていて。そういうテーマを、ただ終末論的な雰囲気で描くのではなく、いいことも悪いことも事実として受け止めながら、『生の体験ができなくなったときに、人はどう感じて、どう動くのか』という今の状況にも繋がることを、大切に描きたいと思っていました。ライブに行けたり、人とご飯を食べて笑っていたこと、そうやって当たり前のようにできていたことが、急にできなくなったことで、改めてその大切さを実感するような、その気持ちを丁寧に描けたら、と思っているんです。そのうえで、人類にとっての未知のウィルスと、人を救うためのコンピューターウィルスがひとつの時代の中でどう共存できるかを書きたいと思っています」
とはいえ、このプロジェクトの最も面白いところは、参加メンバーがお互いが影響を与え合うものにするために、意図的に物語のあらすじを決めきっていないことだろう。今後決定するオーディション結果や、参加クリエイターと生み出す相乗効果によって、楽曲やその歌詞のみならず、物語の内容までが大きく変わる可能性がある。
「(取材時点で)公開されている第17話以降の話は、実はまだ書いていません。もちろん、物語の中で立ち寄るべき重要なポイントは決めていますが、『FGA』では、プロジェクトの世界の中で起こっていることと、今僕らが暮らすリアルの世界で起こっていることが絡み合って進んでいく物語にしていきたいと思っています。僕の書いた小説を読んで、松本さんは音楽をつくってくださいますし、ざしきわらしさんも、『じゃあ、こんなイラストがいいな』と絵を描いてくれる形になっているので、そこで生まれたものや、今後このプロジェクトにかかわってくれるヴォーカリストの方などに僕が出会うことで、当初書こうとしていた物語の内容が変わっていく余白を残しておきたいと思っているんです。
そして、そうやって作品が出来上がっていく過程までも、エンターテインメントにしていけたら、と思っています。ヴォーカリストが決まったら、その人に合わせて松本さんがアレンジをしていくので、曲自体もどんどん変わっていくでしょう。そうして作品ができていくまでの苦労や、色々な人が集まって楽しんでやっている様子についても、どこかで見せられたら、と。まだ形になっていない粘土をみんなでこねくり回すように、いい意味で固定観念を持たないことを大切にしていきたいと思っているところです」
『FGA』は今後も「Vol.002」「Vol.003」と継続的に続いていく予定。今回は小説と音楽を中心に据えたものになっているものの、「Vol.002」以降に関しては、その前提自体も大きく変わる可能性があるという。そのときどきに応じて、新たに出会った才能と、その魅力を最大限に生かしたエンターテインメントを模索する――。フレキシブルな形でプロジェクト自体を変化させられるのは、他のどのメディアミックスプロジェクトとも異なる特徴と言えそうだ。
「僕らは自分たちで映像製作も、ライブ演出も主導できる会社ですし、小説家がプロデューサーをかねて内側にいるプロジェクトでもあるので、すでにできあがった物語から音楽をつくります、という方法とは違って、臨機応変に何でも組み込むことができるんです。もちろん、すべてを自分たちでやるわけではありませんが、そういったことを踏まえつつ、アニメ化やマンガ化、ゲーム化なども想定しながら、新しいエンターテインメントを模索したいと思っています。音楽の在り方が急激に変わる中で、昨日まで自宅で演奏していた人が、一夜にしてグラミー賞を獲得するようなことも夢ではなくなりました。『FGA』も、その一端を担えるようなプロジェクトとして、色々なミュージシャンやクリエイターが集まる場所にしたいと思っています。音楽だけではなく、どんなものでもいいですが、今まで割と近くにはいたけれども、接点がなかった遠いお隣さんのようなものが集まれる場所にもなれたらいいな、と。ネットを使うことで、ワールドワイドに、言語の壁を越えて、様々なエンターテインメントが繋がるようなコミュニティをつくることができたら、とても嬉しく思います」
『FGA』からどんな物語が生まれるのだろうか。今後の展開を楽しみにしたい。
■杉山 仁
乙女座B型。07年より音楽ライターとして活動を始め、『Hard To Explain』~『CROSSBEAT』編集部を経て、現在はフリーランスのライター/編集者として活動中。2015年より、音楽サイト『CARELESS CRITIC』もはじめました。こちらもチェックしてもらえると嬉しいです。
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