小岩井ことり、声優×DAW女×DJで開拓する独自の道 「機械はむしろ、人間よりも身近にいたものでした」
DJをテーマにしたアニメやゲーム、キャストによるライブを展開しているブシロードのメディアミックスプロジェクト『D4DJ』のスマートフォン用リズムアプリゲーム「D4DJ Groovy Mix」(通称:グルミク)のメインストーリー新章「D4 FES. STORY」が配信が開始。小岩井ことりがキャストボイスを務める新キャラクターの海原ミチルが登場し、3月1日には小岩井がボーカルに加え、自身で編曲まで手がけた「POP TEAM EPIC」のカバーが実装された。
本業は声優ながらも、DAW女でもある彼女は、他アーティストへの楽曲提供も行い、2019年からはDJ活動をスタート。昨年はイヤフォンの商品企画に参画し、ASMR音声レーベルも設立した。音楽家×声優である特性が最大限に活かされるであろう「グルミク」に参加することになった彼女の音楽活動に焦点を絞って話を聞いた。(永堀アツオ)【最終ページに読者プレゼント情報あり】
声優の勉強をするために始めたDTM
ーー今回は、声優ではなく、音楽家としてのお話をお伺いしたいと思ってます。最初に、音楽に興味を持ったきっかけからお伺いできますか。
小岩井ことり(以下、小岩井):物心がついた時から、家族で歌いながら何かを伝えるということをよくやっていたんですよ。作曲とはいえないお遊びの範疇ですけど、歌で喧嘩したりしてて。弟に歌でディスられて、こっちも歌でディスり返したりしてました(笑)。
ーーあははは。それはもはや、家庭内ミュージカルですよね。
小岩井:ふふふ。そんな風に遊びで作曲はやっていたんですけど、ちゃんと音楽の理論を学んだのは、中高で吹奏楽部に入ってからですね。
ーー吹部に入ったのはどうしてでしたか?
小岩井:新入生歓迎会で見て、カッコいいと思ったのがきっかけでした。なぜかわからないですけど、両親も『吹奏楽部がいい』って言ってて。
ーーご両親も音楽をやってたんですか。
小岩井:どうなんだろ。家にエレクトーンがあって、お姉ちゃんはずっとエレクトーンをやってましたね。私は少しだけピアノ教室に通ったことはあるんですけど、ちゃんと習いには行ってなくて。……あ、お母さん、ギターもピアノも弾いてるな(笑)。でも、聞いたことないんですよね、なんでできるのか。
ーー次に会う時までにお母さんにインタビューしといてください。
小岩井:はい(笑)。私自身は、小学校の時は休み時間に音楽室に行って、ピアノを教わったりはしてましたね。今思えば好きだったのかな。休み時間に行って、教えてもらってました。そのおかげで、多少なら弾けるかなという感じですね。
ーー中学から始めた吹部はどうでした?
小岩井:ユーフォニアムを吹いていたんですけど、すごく楽しかったし、いい経験をさせてもらいました。音楽好きな人が多かったのは当たり前なんですけど、その中でも、自分から音楽への興味を掘り下げていける人がすごく多くて。昼休みも、同じ部活の子で集まって、曲を作って遊んだりとかしていたし、パートごとに自分たちで曲を作って、発表会をやったりしてたんですね。
ーー自分たちで作曲するのは珍しいですね。
小岩井:ですよね。指揮者をやってた子が音楽に詳しくて。いろいろ教えてくれたおかげで、みんなの知識も増えたのかなって気がします。それに、作曲するなんてとっても難しいことだと思っていたけど、コードを理解して作れば、意外とできるんだなってことがわかって、すごく楽しかったです。
ーーレッスンに通ったりはしてないんですよね。
小岩井:そうですね。音楽の専門学校に行ったわけでもないですし。音楽理論の本を読んだり、友達に聞いたりとか。あとはインターネットが発達してきた頃だったので、いろんな情報を噛み砕いて教えてくれるサイトが多かったんですよ。そのおかげで、とっかかりとしては入っていけたのかなって思います。
ーー本格的にご自身で作曲を始めたのは?
小岩井:実際に作り出したのは、声優デビューしたての頃で、2012年くらいですね。声優の勉強をするために、DTM周りの機材、DAWとマイクがいるなと思って揃えていって。体験版みたいなDAWでも、ある程度までは作曲ができるので、「お、やってみるか」と思って。いろいろやって、形にしていった感じですかね。
ーーそこなんですけど、声優の勉強をしようと思って、DTMの機材を揃えるという発想になるのが不思議なんですよね。
小岩井:そうなんですよね。のちに人に話して、「あ、独特なんだな」って知りました(苦笑)。それこそ、単発や短期間のレッスンなどは受けたことがあるのですが他の皆さんのように数年しっかり専門学校に通って勉強したわけではなく、先に現場に出てしまったので、何もできないし、困った、わかんないという場面にぶち当たって。じゃあ、どうやって勉強しようと思った時に、スタジオと同じようなものをなるべく買ってみて、同じような環境で録って、声を分析してみよう思ってたんです。スペアナ(スペクトラム・アナライザ)で周波数帯を見て、ピッチモニターでピッチの動きを見て、波形でダイナミクスを見て、真似をしてみようと思って、練習したのがスタートですね。
ーー……繰り返しになりますけど、声優さんは波形を見て練習しないですよね。
小岩井:逆に私には、それしかアプローチ方法がわからなくて。何回か単発でのボイトレやアクセントの勉強に行ったりはしてたんですけど、ボイトレに行くと、すごく抽象的な表現が多くて、それが私にはとっても難しかったんですね。勉強も数学や物理が好きで、たぶん理系なんですよ。だから、正解とされるものを解析して、それに近づける方が、自分にとってはアプローチしやすかったんですね。例えば、『頭のてっぺんから声を出すように』って言われても私にはピンとこなくて。それよりは、解剖学的アプローチと周波数的アプローチで攻めようと思いました。
ーーすごい発想ですよね。機材に対する心理的なハードルはなかったんですか。
小岩井:私、本当に幼少期から、パソコンとともに人生を歩んできてて。人としゃべった量より、パソコンで打ち込んだ言葉の量の方が多いかもしれない。
ーー(笑)。
小岩井:ずっと小さい頃からパソコンと一緒に歩んできたんですよ。子供の頃からノートパソコンを買ってもらって。ネットゲームをやりたくなったんですけど、買い与えてもらったパソコンでは当然、スペックが足りないので、外付けでだんだん豪華にしていって。機械はむしろ、人間よりも身近にいたものでした。