“2020年代型茅ヶ崎サウンド”鳴らすSPiCYSOL、メジャーデビュー伝えた渋谷CLUB QUATTRO公演

SPiCYSOLによる2020年代型茅ヶ崎サウンド

 海と燃費の悪そうなUS製ワゴン車、もしくは恋人への素直で日常的、時にセクシーな想いーーSPiCYSOLのことをてっきり生粋の湘南ボーイズだと思い込んでいた。それぐらいサーフミュージックとシティポップのハイブリッドが自然だからだと思うのだが、実際に彼らが生活の拠点を茅ヶ崎に移したのは2020年。だが、ライブでのいい意味でのマイペースぶりや、音楽性のハイブリッド感を再確認するにつけ、彼らこそが2020年代型茅ヶ崎バンドだと確信した。

SPiCYSOL

 大先輩であるサザンオールスターズや、直近ではSuchmosのような、既存の価値観をひっくり返すようないい意味での毒気は感じないのだが、コロナ禍において仕事環境がリモートに移行し、都内に居住する意味を失った人々と同じく、彼らも都内に拘泥する必要がなくなったのだ。そこで茅ヶ崎に移住し、都内と比較するとゆったりしたタイム感の中で音楽の種を育み、人懐こい街の暮らしを堪能。出身地ではないものの、これからの茅ヶ崎を代表するバンド/アーティストとして活動していきたいと、地元紙でも明言している。デビュー時には撮らなかった茅ヶ崎サザンCというロケーションでの今のアーティスト写真は、この地を代表する意思とライフスタイルの提示を兼ねているように思えた。新たな茅ヶ崎バンドを歓迎したいのはSPiCYSOLがいい意味で疲弊する都心から離れた嗅覚を持っていること、また代々、茅ヶ崎で成功したのが強い胃袋を持つ雑食消化力を持ち、理屈より感覚で音楽を楽しむ大衆を獲得してきたバンドだからでもある。

 2月25日に約7年のインディーズでの活動を経て、4月7日に1stEP『ONE-EP』でメジャーデビューすることを発表した彼ら。ライブ当日から収録曲である「ONLY ONE」が先行配信されているという、話題満載、第二章へすでに足を踏み入れた状況である。そんな中、東名阪のクアトロツアーのファイナル公演が渋谷CLUB QUATTROで開催。人数制限の元での有観客ライブに加え、バンドのオフィシャルYouTubeチャンネル、またスペースシャワーLINE LIVE公式アカウントでは無料配信も実施され、総数3万人がライブを見た。

AKUN

 筆者は配信での観覧だったので、メンバー各々の楽曲へのアレンジの関与、プレイがより具体的に感じられたのだが、特にAKUN(Gt/Cho)のホワイトブルースをルーツに持つ泣きのソロやハードなサウンドと、PETE(Tp/Key/Cho)のエレクトロニックな色彩を加えるセンスの対比がユニークに映った。もちろん二人ともファンクに代表される16ビートは共通項として持ち合わせているし、どの楽曲も原型はシンプルなのだと思う。だが、例えば3曲目に披露した「It’s Time」のPETEのトランペット一管ながら広がりを感じるエフェクト処理と、間奏でのAKUNのロックギタリスト然としたフレージングやリフ、EDMポップスっぽさとサーフロックが融合されたフレーバーはこの二人の拮抗する個性の融合があってこそだろう。オーガニックなサーフロックをアップデートしてきたSPiCYSOLの強みだ。無論、その融合をナチュラルに聴かせるのことができるのは想いをまっすぐ届けられるKENNY(Vo/Gt)の嫌味のない上手さが大前提にある。

KAZUMA

 ライブアレンジを持ってきたという「Coral」はフロント3人のアカペラのサビ始まりで、ホーリーなムードのこの曲をいっそう盛り上げる。Aメロは裏拍がレゲエ調のピアノリフ、間奏のトランペットソロはどこか「G線上のアリア」を思わせ、さらにアメリカンロック調のギターソロへ。なぜこれだけ異なるテイストが1曲の中で成立するのかと、文字にすると不思議なのだが、メンバー全員の志向を細分化するのではなく、好きな感覚をまず大掴みにし、そこにモダンなエッセンスや生音の音圧で聴かせたい勝負のフレーズを加えていくと、結果としてSPiCYSOLの曲になる、そんな印象なのだ。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「ライブ評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる