フレデリック、特大の遊び場を作りあげた初の日本武道館公演 新曲2曲も初披露
フレデリック初の日本武道館公演『FREDERHYTHM ARENA 2021〜ぼくらのASOVIVA〜』。ライブ開催を発表した日=昨年2月の横浜アリーナ公演以降の1年間、フレデリックは“遊ぶ”というワードを継続して掲げてきた。この日はその締め括りにあたるライブで、武道館を特製の遊び場に変えてしまおうというテーマの下で開催。メンバーの背後にある巨大LEDには演出映像が現れ、縦横奥へとレーザーがビュンビュン行き交い、ステージを縁取るように電飾が光っている。さらに盛り上がりが最高潮に達した頃に演奏された「オンリーワンダー」ではカラフルな紙吹雪も舞う。しかしそれでも20曲中16曲目。フルスロットル、出し惜しみせず全力でエンターテインメントをやろうという意気込みを感じた。
こう感じるのは何度目か分からないが、やっぱりライブがすごいバンドだ。初めに演奏された曲は「Wake Me Up」。2番Aメロ後の激しさが増していたり、ボーカルと楽器隊の対比を際立たせた構造になっている箇所があったりと、音源にない要素が目立ち、“ライブ化け”と言いたくなるほどの仕上がりになっていた。その後もこの日ならではのアレンジで曲間を繋げながら、3~4曲を一気に届ける構成でライブは進行。アコースティック編成での演奏(通称:FAB!!)もこのバンドの豊かな表現力を堪能できるポイントだった。FAB!!で今回演奏されたのは「ミッドナイトグライダー」と「うわさのケムリの女の子」で、どちらも原曲からテンポダウン。特に前者はメロディの抑揚を活かした繊細な雰囲気に変わり(〈ヒュールリヒュルリラ〉という歌詞の語感とも合っている)、大人びた空気を纏っていた。
「“聴いてください”より“楽しんでください”、“楽しんでください”より“踊ってください”です」と話した三原健司(Vo/Gt)。フレデリックが鳴らすダンスミュージックというジャンルは観客との相互作用もライブに大いに関係する要素である(し、彼ら自身もそれを大事にしてきた)が、火種がちゃんとバンドにあるか否かで、観客がその身を委ねられるかどうかも変わってくる。観客を楽しませ踊らせるエンターテインメントの真ん中にあったのは、あくまでバンドによる骨太な演奏。だからこそ冒頭に書いたような派手な演出も不似合いに感じなかったのだろう。
アリーナ席の観客と目を合わせ、配信用のカメラに視線を送り、スタンド席の観客を見上げながら目を輝かせている4人。その表情からは喜びが滲み出ていたし、三原康司(Ba)が「感慨深い」と目を潤ませたことから、「康司の曲がここまで連れてきてくれたんですよ」(健司)、「泣く泣く、そんなん」(康司)というやりとりが発生した場面もあった。こちらから見る限りでは緊張している様子はあまりなく、MCに入ると空気が弛緩する感じも普段通り。赤頭隆児(Gt)は独特な振る舞いでメンバーのことも笑顔にさせているが、反面、演奏中は渋いフレージングで場内の視線を一身に集める。
そんななか、健司は観客として武道館を訪れた自身の経験を元に、「ライブでは目の前の景色とその曲やバンドにまつわる自分だけの思い出を重ねることができる」「武道館は思い出を浮かび上がらせる力が特に強い場所」という持論を展開。「だから、あなただけのフレデリックの遊び場を作っていきましょう」という言葉に誘われ、想いを馳せていた観客も少なくなかったことだろう。
筆者の視点から見ていたものについて話すと、シュールな映像(公園の遊具で遊ぶ大量のフラミンゴのグラフィックなど)をバックに「ふしだらフラミンゴ」や「他所のピラニア」を演奏する姿を見て、SEに合わせて無表情で手拍子していた頃のライブを思い出していた。寓話のような親しみやすさと不穏さ、一度知ったら引き返せなくなりそうだけど、だからこそ好奇心をそそられるあの雰囲気は、当初からあった彼らの個性であり、それが武道館で鳴っていることが痛快でしょうがない。一方、高橋武(Dr)が時折挿し込むジャズドラム的な手捌きなど、年月を経て進化した部分も。変わらずに変わっていき、ここまで辿り着いたバンドのことを思い、感慨深い気持ちにさせられた場面だった。