森朋之の「本日、フラゲ日!」vol.190
女王蜂、milet、大橋トリオ、ちゃんみな、緑黄色社会……豊かな表現力を備えた歌声に注目
前作『十』からわずか9カ月でリリースされる女王蜂のニューアルバム、デビュー1年で新世代の女性ボーカリストを代表する存在となったmiletのニューシングルなど5作品をピックアップ。豊かな表現力を備えたシンガーたちの新たな作品をじっくりと味わってほしい。
iTunesチャートで1位を獲得した前作『十』(2019年5月)からわずか9カ月で届けられた女王蜂のアルバム『BL』は、傷や穢れに溢れた過去の記憶、そして、官能と反徳、決して消えることがない憂いと共に生きる現在までを繋ぐ一大叙事詩。前作からのつながりも色濃く感じられ、女王蜂のクリエイティビティが(おそらくは結成以来、最高潮に)盛り上がっていることが実感できる。すべての中心を担うアヴちゃんの歌もすごい。生と性、運命と偶然を全身で引き受けながら、“自分らしさ“なんて言葉が吹き飛んでしまうほどの存在感を放ち、濃密にしてしなやかなグルーヴとともに聴く者の心と身体を揺らしまくるボーカルは、完全に唯一無二だ。トラップ、ロック、ファンク、民謡までを肉体的に結合させるサウンドも強烈。
昨年3月に『inside you EP』でデビュー。エキゾチックな声質、壮大なスケール感を備えたボーカリゼーションによって、瞬く間に知名度を上げたmiletの5thEP『Prover / Tell me』。「Prover」は、オルタナR&B的なトラックのなかで、神聖な響きをたたえた旋律がゆったりと広がるミディアムチューン。曲が進むにつれて徐々に高揚感を増していき、“終わらない世界に立ち向かう“というメッセージを高らかに歌い上げている。「Tell me」はふくよかなキックを軸に、ストリングス、ピアノが絡み合うサウンド、そして、オーガニックなメロディが一つになったナンバー。EDMとフォークロアが融合した音像は、現在の世界的な潮流ともつながっている。表面的な派手さに頼らず、世界基準のトラックと歌の表現力で勝負を挑むスタンスも素晴らしい。
前作『THUNDERBIRD』に続き、良質のアナログサウンドを追求した大橋トリオのニューアルバム『This is music too』。タイトなバンドグルーヴを軸にした有機的なロックチューン「LOTUS」、70年代のソウルファンクを想起させる「ポラリス」など、生楽器を中心としたサウンドだからこそ良さが際立つ楽曲が並ぶ。豊かな中低域を活かしたボーカルも、キャリアを重ねるにつれて深みを増している。インタビューなどでは“自分の声に向いている曲には制限がある“という趣旨の発言をしているが、この声がないと成立しない曲が存在することも確か。緻密に構築されたコードワーク、洗練されたメロディ、そして、心地よい響きをたたえたボーカルが一つになった、タイムレスなポップスをゆったりと堪能してほしい。