『REAMP』インタビュー
ヒトリエが語る、3人体制初アルバム『REAMP』完成までの歩み 「音楽は一緒に過ごした月日から得たものでできている」
ヒトリエの新たな始まりとなるアルバムである。2019年、バンドのリーダーだったwowakaが急逝するという大きな悲しみに直面してなお、歩みを止めなかったシノダ(Vo/Gt)、イガラシ(Ba)、ゆーまお(Dr)の3人が、ここまでどんな思いで音を鳴らしてきたのか、そしてここからどう進んでいくのか。新体制による1stアルバム(とあえて呼ぶ)『REAMP』はそのドキュメントだ。3人それぞれが作曲し、シノダがすべての歌詞を書いた全10曲。ここにはこの3人だからこそ鳴らせた、この3人でなければ鳴らせないグルーブとメロディと言葉がある。悲しみは消えないけれど、バンドはそれすらも背負って進む。タフで感動的なアルバムへの物語を、3人に語ってもらった。(小川智宏)
「ヒトリエの名前を背負って曲を書くのは戸惑いが強かった」(イガラシ)
ーー2019年にwowakaくんが亡くなって、3人体制でバンドを続けるという決断をして。でも『REAMP』というアルバムとしては、しっかり未来に向かっている作品になったと思うんですけど、そこからここまでどういう心の動きの中で活動してきましたか?
ゆーまお:3人で続けようとか、シノダが歌おうとか、曲を作ろうとか、ツアーをやろうとか、そういうことを決定する瞬間というのはもちろんたくさんあって。そういう小さな段階を経て、今アルバムを出すという段階に来た……という感覚なんですよね。なんというか、流れるままに今、ここにはたどり着けたっていう感じなんです。やっとこういうことができる状態に僕たちは今いるっていう。
シノダ:アルバムを作る以上、やっぱり考えなきゃいけないことはいっぱいあって。4人の頃の『HOWLS』がすごくいいアルバムで、作ったときの手応えも覚えているんですけど、ここから3人になってまたアルバムを作る以上は、『HOWLS』の延長線上で4人だった頃のあの感じを取り戻そうっていうのは非生産的だなと思って。それよりもこの3人の音で、『HOWLS』よりいいアルバムを作らなきゃって思ったんですよね。
ーー実際、音像的にも4人だったヒトリエの音圧や音の密度を3人で表現しようというのではなくて、3人だからこその隙間とかバランスで作っている感じはしますよね。
シノダ:まあ、うちのバンドって、そもそも埋めすぎだなと思っていたんです(笑)。「もうちょっと余裕があってもいいじゃん」っていうところもありまして。
ーーはははは。イガラシくんはどういう気持ちでこのアルバムに向かっていったんですか?
イガラシ:個人的にはとっても......混乱ですよね。自分が作曲した曲は特にですけど、「なんでこんなことやってんだろうなあ」って。それでもやっぱり作っているのは今の自分なので、未来に向かったものになってるとおっしゃっていただけて良かったし、でも、そりゃそうだよなって今言われて思いますね。
ーー「なんでこんなことやってんだろう」というのは、どういう意味において?
イガラシ:このバンドって、wowakaが「自分の曲を自分の声で歌うバンドがやりたい」ということで僕ら3人を集めて始めたバンドであって、それが大きな目的だったんですよ。自分がこのバンドでベースを弾いている目的もそこにあったし、彼の曲をバンドとしてどういう形で世に出そうかっていうものだったわけで、そうじゃない状態で作るというのは......もともと作曲意欲があるわけじゃないし、その自分がヒトリエという名前を背負って曲を書こうとしている状態というのは、やっぱり戸惑いが強かったです。
ーーそれでも作ろうと思えたのはどうして?
イガラシ:2019年に3人でツアーを回ったんですけど、あのときも何かに整理がついていたわけじゃないし、とにかく「今まで作ってきた音楽が演奏されなくなるなんて嫌だな」という一心で始まっていて。でも、もちろん活動していく中で今まで届いてない人にも聴いてほしいなっていう気持ちはやっぱりあるわけで、それが解散しないだけの活動ではないというのはわかるし、そこに向き合わないといけないなって。バンドやるって、ただずっと続けるだけのことを指すわけじゃないよなって思うので、そういう意味では自然と作る方に向かえたんだと思います。
ーー3人とも曲を書こうというのは、最初からそういう雰囲気だったんですか?
ゆーまお:3人で書こうっていう雰囲気は初めからありました。何にせよ書こう、頑張ろうみたいな......。
イガラシ:やってみよう、だよね(笑)。
ーーシノダくんは、曲を作る部分に対してはどうだったんですか?
シノダ:曲自体は前々から書きたいなと思っていた節があるので、それで『HOWLS』では1曲書くことになって(wowakaと共作の「Idol Junkfeed」)。そうやって徐々に曲を書けるようになってったらいいなと思っていたんですけど、まさかこんな形でやることになるとはね。
ーー完全なメインソングライターですからね。
シノダ:そうなってくると逆に困りますよね。じゃあ、このバンドを引っ張っていく曲って何だっていうことを悩みすぎて、よくわからない方向に突っ走ってた感じもありました。もうギターの曲とかいいだろうって、最初はすげえチルアウトする曲とかローテンポの曲を量産してたんですけど、どんどんメンバーのレスポンスが悪くなっていくんですよ(笑)。最初は曲をLINEグループに送ると「お疲れ!」みたいなのが返ってきたんですけど、最終的になんの反応もない曲とかが発生し出して、「あ......これは俺、今停滞してるな」ってわかる。じゃあ何やったらいいのよ、みたいな感じで最後の20曲目にできたのが「curved edge」だったんです。
イガラシ:うん。この曲ができて「曲作り終わった」と思いました。みんなもしっくりきてたし、逆に自分は最初に出すのはこれ以外考えられないなと思ってました。
「自分が書く曲もみんなが弾いてくれることで、ヒトリエになる」(ゆーまお)
ーーアルバム全体のレコーディングのプロセスはどうでしたか?
イガラシ:曲作りのプロセスはやっぱり全然違ったから、試行錯誤の繰り返しで。だからベーシストっていう段階になると途端に安心しましたね。レコーディングスタジオに行ってあとベース弾くだけと思ったら(笑)。そこだけは、今までの活動を通しての礎があってよかった、ベースが弾けてよかったなと思いました。
ーー今回はリフで押す曲よりもグルーブで聴かせる曲が多いから、ベーシストとしては気持ちよかったんじゃないですか?
イガラシ:そうですね。ベーシスト目線で見るなら、何の曇りもなく超気に入ってますね、アルバム(笑)。不安とかマジでないです。
シノダ:はははははは! たしかにベースアルバムとしてはとんでもない情報量だと思いますね。
ーーそのイガラシくん作曲の「イメージ」は、それまでの荒れ狂った海がパッと凪ぐみたいな曲で。
イガラシ:凪いでますよね。だから、ベーシストが書いた曲だという情報が先行して、めちゃくちゃベースが派手な曲を想像されてたら嫌だなって思います。バキバキのゴリゴリのやつとかじゃないよっていう。
ーーただ、アルバムの中ですごく重要なポジションを担っている曲だと思う。
イガラシ:それは2人の力ですよ、よくしてもらってるわけだから。その経験自体が初めてでした。
ーーでも、そこは3人お互い様って感じですよね。
ゆーまお:本当にそうです。「YUBIKIRI」はみんなにフレーズを結構投げたんですよ。ギターは弾けないんで、ギターはもうお任せ。ベースもルートだけで作って「好きにしてください」って感じだったんです。それでやっていくうちに、どんどん「ヒトリエなんだな」みたいな実感が持てて。自信なかったんですよ。自分が書く曲はみんなが求めるヒトリエではないことをわかっていたんで。でも、それをみんなが弾いてくれることで……自分の音も然りなんですけど、ヒトリエになるんだなと思って。
ーーまさにヒトリエに「なる」っていうアルバムですよね。だって、いわゆるヒトリエっぽい曲は1曲もないじゃないですか。でも、これがヒトリエなんだっていう。
イガラシ:うん。「いわゆる」はないですよね。
ゆーまお:そういうことをしてもwowakaはたぶん喜ばない。いい顔してくれないことを俺たちはわかってるんで。別に避けたというほどでもないですけど、初めからそういうことをする気はなかったかもしれないですね。自分たちから出てくるメロディやらアイデアで勝負しないと、やっぱりあいつに悪いんで。
シノダ:wowakaらしさっていうより、自分たちの音楽っていうのは、一緒に過ごした月日から得たものでできていますから。それをそのままストレートに、改めて自分たちの音楽で表現してみるっていう。それがヒトリエ的というか、ヒトリエってそういうバンドなんじゃないの、みたいな。