『毅の“カタリタガリ”』第1回

SUPER★DRAGON 古川毅、音楽を語りまくる新連載『カタリタガリ』スタート! シーンを動かした4人のボーカリスト

■美空ひばり「戦後にデビューされていることが、コロナ禍と重なった」

 まずは美空ひばりさんです。僕は2000年生まれの二十歳なので、ひばりさんがご存命の頃のことは知りません。しかし、映像を観たりCDを聴いたりしているだけでも、あまりに大きな存在感に圧倒されました。日本一の歌い手、宇宙レベルの母、誤解を恐れずに言うならば、語れなくても挙げざるを得ないほどの方です。

 「愛燦燦」や「川の流れのように」といった国民的な曲は普通に生活していて耳に入ってくることもあって大好きですし、海外のスタンダードをカバーしている作品を聴いたこともあるんですけど、英語が得意ではないとはとても思えないほどに、まったく違和感がなくて、ジャズ/ブルースと歌謡曲の繋がりも見えてくる。あと、美空ひばりさんが、戦後にデビューされていることが、コロナ禍と重なった部分もありました。伝え聞いた話と想像でしかありませんが、それまでの価値観がひっくり返って絶望と希望が入り混じっていたであろう時代に、まだ少女だったひばりさんの歌う「悲しき口笛」などがどう響き、そこからなぜ国民的なスターになっていったのか。すごく興味深いので、引き続き掘り下げていこうと思っています。

■玉置浩二「歌の上手さは舌根と呼気の状態、両者の連動性に比例する」

 続いては玉置浩二さん。もともとすごく好きで直接的な影響を受けている方なんですけど、コロナ禍で外出の自粛を余儀なくされた、去年の3月から5月あたりは特によく聴いていました。気持ちが落ち込んで、どんどん内向きになっていって、自分自身どうしていいのかわからなくてぐちゃぐちゃになった気持ちをほどいてくれたのが、玉置さんの「Lion」という曲だったんです。作詞は松井五郎さんで、難しい言葉は使っていないしメッセージもすごくわかりやすい。一言で言えば普遍的、すなわち歌う人が違えばありふれた言葉だと捉えられてしまう可能性もある。でも、玉置さんの声ならば響くことを見越したというか、信じきっている詞だと思います。とにかく、自分の選択を信じて歩いて行こうって、心の底から思えました。

 玉置さんの声は、うしろに下がることがなくて、そのなかに奥行きがあって、メッセージというか、まるで人間性そのものが迫ってきている感じがするんです。だからこその説得力。まさに僕が理想とする歌がそこにあります。ボイストレーニングの先生とも、よく玉置さんの歌声について話していて、先生はすごくロジカルな方で、玉置さんの歌声についても解説してくださいます。

 玉置さんは、空間的な声の響きや渋さをアップデートし続けている。口とか顎の使い方とあわせて、喉の奥から出ているような声がよくものまねされていますけど、その本質は、まず舌根が上がっているかどうか。そして呼気。日本人って基本的に母音が硬くなりがちなんですけど、歌のうまい人は柔らかい。英語圏に良いボーカリストが多いのは、言語そのものの特性、母音の響きや口の動きと呼気の滑らかな関係性が歌に向いていることも一因だそうです。だから、口を大きく開けて一音一音を発すると、丁寧に向き合っているはずなのに、母音が強くなりすぎて、上手く歌えないということが起こる。でも、口をしっかり開けて歌っていても上手い人はいますよね? 玉置さんにもそういう場面はありますが、それは舌根が上がっているから。歌の上手さは舌根と呼気の状態、そして両者の連動性に比例すると、教えてもらいました。

 あとは呼吸法。歌をうまく歌うには腹式呼吸が必要だと言いますけど、ほんとうに正しくできているのかどうか。どんなトレーニングもそうですけど、歌唱力も、呼吸に限らず歌をうまく歌うために適した体を作るということなので、変に自己流で矯正したり学び方を間違ったりすると、かなりやっかいなことになる。僕も実はここ2年くらい喉を悪くしていて、だから無理なく良い先生に学ぶことをおすすめします。

Lion

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