リュックと添い寝ごはん、自由奔放な演奏で魅せた“2020年の締めくくり” ライブへの自信も漲らせたツアーファイナルをレポート
自由奔放、絶妙なバランスといえば、MCも本当にそんな感じなのがこのバンド。衣装のオーバーオールのこと(松本のアイデアでみんなで買ったらしい)とか、宮澤が髪を染めた話とか、ゆるゆると話している空気は軽音楽部の部室みたいだ。彼らはここまでこうやってバンドやってきたんだろうなと思う。その空気の真ん中に音楽があって、それをみんなで優しく支えている、そんな感じなのだ。めちゃくちゃインパクトのあることを言ったり、強い想いを吐露したりというタイプの音楽でもバンドでもないが、だからこそ、彼らの音楽は聴く者の心にじんわりと染み込むように入っていく。いつの間にかWWWにはとても暖かな雰囲気が漂っている。
そんななか、ステージの松本の前にキーボードが置かれる。披露するのは「23」だ。ムーディでレトロなこの曲が、メンバーのコーラスも相まってそれまでとは違う一面を届けてくれる。そして、しっとりとした弾き語りから一気に燃え上がるようにスピードアップする恋の歌「渚とサンダルと」、さらにポップに弾ける日常賛歌「PLAY」へ。続けて鳴らされたのは堂免のベースリフと「好きに踊って!」という松本の言葉から入った「グッバイトレイン」。シャッフルビートとかき鳴らされるコードに、自然と身体が動き出す。気持ちよさそうに肩を揺らす人がフロアで続出である。
そして本編のラスト1曲として鳴らされたのが、彼らのはじまりを刻んだ1曲「ノーマル」だった。ひときわ眩いライトが文字通り明日を照らすように輝く。フロアから巻き起こる手拍子に急き立てられるようにエイトビートがどんどんテンションを高めていく。松本は歌いながら「ありがとう!」と叫び、堂免は最後の力をすべて出し切るように身体を激しく動かしながらベースを弾く。宮澤はスティックを振りながら最高の笑顔を浮かべていく。ぬんのギターソロからブレイク、そして大サビへ。最後まで階段を上り詰めるように伸びやかに広がっていたメロディは、最高の爽快感と共に終わりを告げた。
アンコールではまず松本ひとりステージに登場し、アコギ弾き語りで「ほたるのうた」を披露。歌い終えると袖からニヤニヤしながら拍手をしつつメンバーが登場する。「どの気持ちで言ってる?」と松本が突っ込むと、堂免は「心にきた!」と褒めたたえてみせる。相変わらず阿吽の呼吸のやり取りをはさみつつ、松本がフロアに語りかける。「いろいろ落ち着いたらまた集まって、笑い合いながらライブしましょう」。そう約束すると、どこまでも遠くに届けとばかりに「海を越えて」が演奏された。そして最後は「あたらしい朝」。弾むようなリズム、メンバーによるコーラス、ちょっと懐かしくて優しいコード。〈明日が不安になるけど/今日は楽しくて〉という歌詞に今の気持ちを乗せて、松本は最後まで軽やかに歌いきった。
■小川智宏
元『ROCKIN’ON JAPAN』副編集長。現在はキュレーションアプリ「antenna*」編集長を務めるかたわら、音楽ライターとして雑誌・webメディアなどで幅広く執筆。