“歌の力”が試された2020年ーー論客4名が語る、コロナ下のアイドルシーンで生まれた大きな変化

アイドル論客4名が語る、コロナ下の変化

NiziUが巻き起こした新しい現象

超ときめき♡宣伝部 / トゥモロー最強説!! -MUSIC VIDEO-

ーー5位は超ときめき♡宣伝部の「トゥモロー最強説!!」ですが、とき宣がこんな上位に来るのは記憶にないです。

ガリバー:初めてですよね。これも、こんな状況だから明るく騒ぎたいというのでこの曲が象徴されていたんだろうなと感じます。ライブ活動が制限されている中で、スタダ(STARDUST planet)のファンが横のつながりで各グループの楽曲にオンラインで触れる機会が増えたことも影響しているのではないでしょうか。昔のももクロ(ももいろクローバーZ)じゃないですけど、そういう弾けたエッセンスが凝縮された曲なのかなと思いますね。これを待ってたぐらいの感じ。

岡島:作詞、作曲、編曲はMUTEKI DEAD SNAKE。アンジュルムの「ドンデンガエシ」(宇宙慧名義)の作曲の人です。

ピロスエ:なるほどね。「ドンデンガエシ」はストレートなロック曲で、“ハロプロらしさ”という点から言えば少し異質なんだけど、特に若いファン層にウケている印象があるので、そういう意味で合点がいきますね。

ガリバー:「ドンデンガエシ」の人って言われると驚きますね。

MELLOW MELLOW「最高傑作」Music Video

ーー6位は『アイドル楽曲大賞』の常連でもある、MELLOW MELLOW「最高傑作」。小西康陽の提供曲です。

ピロスエ:僕とか宗像さんはピチカート・ファイヴをリアルタイムで聴いていた世代だから小西康陽に対してハードルがはてしなく上がってるというか、小西さんならもっとすごい曲ができるだろうっていう過度な期待があるんですよ。「最高傑作」というタイトルで、楽曲が本当に“最高傑作”だったらそれは最高のユーモアですけど、そこまでは行ってないかなと……(笑)。でも、6位だったのでちゃんと評価されてるんだなと思いました。

 21位の「メインストリートは朝7時」も同じシングルに収録なんですよね。こっちのほうが先行配信で、宮野弦士が作曲してるんですけど、間奏でコーネリアスの「THE SUN IS MY ENEMY/太陽は僕の敵」で使われていたホーンのフレーズをそのまま再利用してるんですよ。つまり、Aztecaの「Someday We'll Get By」を孫引きしてるんですね。イントロのハイハットはフリッパーズギター「恋とマシンガン」っぽくもあるし、渋谷系おじさんにちょっかいかけてる。それと小西曲が同じシングルに収録されているのが、意味わかんなくて面白いですよね。

ガリバー:それ、何人に伝わってるんですか(笑)。

宗像:小西のクセが強すぎて、何が“最高傑作”だって言ってたんですけど、今年の『TIFオンライン』でMELLOW MELLOWのLoft Stageを生で観たんですね。最高だなと思って。現地に行ってたんですよ。大して良くないと思っていた曲を生で観て最高と思える機会って、今年極端になかったじゃないですか。自分の中で生で観て評価変わるって、今年唯一ですよ。小西さんの良さが私の不勉強により当初は分かりませんでしたっていうね。俺たちに足りないのは現場だという話です。

岡島:主催のイベントにMELLOW MELLOWに出てもらったんです。コロナ禍でライブ数を減らしている中で久しぶりに出てもらって。宗像さんがおっしゃるように、生で聴いてもよかったですね。

sora tob sakana/untie(Full)

ーー惜しまれつつも解散したsora tob sakanaが、7位と9位に入っています。

岡島:7位「untie」と9位「信号」は両方ラストアルバム『deep blue』に入ってる楽曲です。風間玲マライカさんが抜けてしまって、音源として残していなかった3人バージョンを歌い直している。10曲目の「ribbon」からラストの「untie」に続いていて、結ばれていたメンバーたちが解けていくという解散の意味が重ねられているんです。最後のアルバムということで今年1票入れるとしたらここに集まりやすかった。とは言え、新曲として入っていた「信号」も捨てがたいので9位に入っているという結果になったのかなと思います。ラストライブでは、持ち曲の50曲を全曲やっていたんですよね。基本的にバンドセットで、4時間を掛けて。楽曲への執念というか、強く熱い思いを感じます。「untie」は3分5秒の曲なんですけど、メンバーの歌声が1分44秒までで、それ以降はずっとインストだけが流れているんですよ。ライブでやること、終わっていくことをイメージして書かれたんだろうなと。輪唱のように歌われていて、ゆっくり解けていくような綺麗な感じで終わっていく楽曲です。

宗像:『deep blue』の中で、複雑さという意味では「信号」がおサカナっぽい感じではあるんだけど、「untie」みたいな曲が入ってきたのは象徴的で、解放されていく3人みたいな歌声ですね。

岡島:『アイドル楽曲大賞』常連だったんですけど、来年からはいないんですよね……。プロデューサーだった照井(順政)さんはアニメ『呪術廻戦』の劇伴をやっていたりして、またアイドルのプロデュースをやってほしいなとは思うんですけどね。

わーすた(WASUTA)「清濁あわせていただくにゃー」(Seidaku awasete itadaku nya)Music Video

ーー8位はわーすたの「清濁あわせていただくにゃー」でした。

岡島:UNISON SQUARE GARDENの田淵智也さんが作っている楽曲。みんなアイドルが猫の格好をするのが好きだなという印象です(笑)。インディーズのランキングも含めて。

ガリバー:わーすたは、この曲に始まったことではないですし、今も当初のコンセプトを継続できている。iDOL Street所属のアイドルが減っているという事だけでなく、 avexとしては会社の行く末も不透明な中で、元気にやってるなと思います。今年、神宿が大きく路線を変えた楽曲を出していたのには衝撃を受けたんですけど、わーすたはあくまで基本路線は踏襲しつつ、それをメンバーの成長に合わせて少し大人っぽくするという、堅実な継続の姿勢がいいなと思いますね。

宗像:わーすたの長所は変わらないところ?

ガリバー:楽曲は、少し大人っぽくはなっているけどこれまでの路線から特別何か奇をてらった事をしているかというとそういうイメージもないですけど、iDOL Streetの中では長くやっているというところに、結局みんなわーすたに戻っていくじゃないですけど、こうやってランクインし続けているんだろうなという気がしますね。

岡島:わーすたは「The World Standard」の略称ですが、今年は海外にあまり行けなかったのかな?

ガリバー:2020年の頭にタイには行っていましたね。

岡島:コンセプト的にも海外どころかライブが難しいなら、もうネットでできることをやるしかないというところで、厳しかったんだろうなという気はしますね。

NiziU 『Make you happy』 M/V

ーー10位には社会現象を巻き起こしたNiziUの「Make you happy」がランクインです。

ピロスエ:MVが1.9億回再生で、K-POP文脈は現代の音楽を語る上で欠かせないところですし、大ヒットしているとか関係なくすごくいい曲だと思うので、10位に入ってきたのは健全だと思います。

ガリバー:IZ*ONEは、K-POPの文脈を活かしながら、NiziU的なポジションを本来狙っていたと思うんですよね。それが、票の操作問題もあったりして、なかなか思うように活動できなかったところで、J.Y. Parkというスタープロデューサーが日本にやってくるという形になった。日本の大御所プロデューサーは、秋元康、つんく♂、小室哲哉のように固定されすぎちゃっていて、もちろん新世代のプロデューサーもたくさんいるんですけど、メディアに大々的に出てくるニュープレイヤーがいない中で、日本の女の子たちを優しく、現役のアーティストとして説得力をもって導いている様が鮮烈に映った。その背景なしにこの曲は語れないですし、あの番組を観ていたらこの曲に思い入れを抱くのは当然の流れです。K-POPのプロデューサーが違和感なく、熱狂を持って歓迎されたというのは新しい現象だったなと思います。

岡島:Perfume、AKB48以降のアイドルシーンの活況は「ライブ」「現場」が根幹となり、発展して行きました。しかし今年はその根幹が封じられてしまった。在宅で楽しめるアイドルが強いとなると、いかに地上波などのメディア展開にお金をかけられるかということになっていくと思うんですよね。そうしたライブアイドルブーム以前の平成的な大資本によるメディア型アイドルの展開に、グローバルに活躍するクリエーターの座組、TikTokなどSNSを駆使したネット戦略、などを更に新しくプラスした形。状況を逆手に取ったわけでもなく、コロナ禍でなくとも成功していたでしょう。それに女の子も可愛く、パフォーマンスもすごいとなると、従来の日本のアイドルファンもみんなハマっても仕方ない(笑)ですし、CDをリリースしていない段階で『NHK紅白歌合戦』(NHK総合)の出場を決めた、今年を象徴するグループの一組だなと思います。新人の中ではひとり勝ちとも呼べる状況でした。

ガリバー:誤解されがちなんですけど、NiziUも、オーディション番組のNizi Projectも新しいことをやっていないんですよね。やってることは『ASAYAN』(テレビ東京)とかAKB48グループのオーディションの延長線上でしかなくて、画期的なことがシステムとして発明されたわけではない。女の子たちが憧れる先、評価されたい人が、日本人ではなくK-POPで活躍する人だったというのは面白い、アイドル界に限らず若い人たちにとっての音楽業界全体の本質じゃないかなと思います。

宗像:「Make you happy」って、ポップなものを作ることに対して迷いがないんですよね。日韓のカルチャー的ストーリーに、ポップなものを乗せるのはシンプル故に強度が高い。

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