松浦亜弥は、なぜ国民的アイドルに? ネガティブな世の中で生まれた“救世主・あやや”の存在
宇多丸氏、近田春夫氏らも絶賛するパフォーマンス
歌、ダンスなどパフォーマンス力の高さも触れておかなくてはならない。『音楽誌が書かないJポップ批評 19』のビバ彦氏(モーヲタ)と宝泉薫氏(著述家)の対談のなかで、ビバ彦氏が松浦について「パフォーマーとしては古典的ですよね。歌ってダンスする人の普通のやり方」と指摘し、宝泉薫氏は「スタッフは単純に自信を持っていたんじゃないかと思うんですよ。とにかくパフォーマンスを見せて楽曲を聞かせておけばきっと浸透すると」と分析している。
同書の宇多丸氏、掟ポルシェ氏の両ミュージシャンによる対談でも、宇多丸氏が「松浦ってすごく職人的なんだよね。インタビューに顕著だけど、歌の内容より歌い方、技術論の話ばっかりしてる」、「ミュージシャンシップが強い」、「松浦の歌って、アイドルの上限ですよね。それを超えるとアイドルとして見れなくなっちゃうレベル」と絶賛。その歌は美空ひばり、松田聖子クラスだと言い、「歌謡史に名を残せるレベル」としている。 書籍『松浦亜弥 素顔のメモリアル』(2002年)では、同級生が松浦とのメールのやりとりについてコメントしており、朝から晩まで体調管理に気を使っていることや、歌唱力アップのために腹筋を強くし、また全国規模のツアー活動に挑むために筋トレで体を鍛えていることなどが明かされている。
ちなみにその同級生は、彼女の頑張りを見て「亜弥が頑張っている姿を見ると、こっちも負けてられないなって、気持ちにさせられますね」と活力を与えられているという。松浦は、ファンだけではなく、友人たちにも元気を与えていたのだ。 松浦は努力家で勉強熱心。デビュー時、映画『パール・ハーバー』(2001年)や『A.I.』(2001年)など話題作をたくさん鑑賞して、「自分が出演したらどんな演技をするか」と役者としての自分のイメージトレーニングにも励んでいたという。
ミュージシャンで音楽評論家の近田春夫氏が「松田聖子以来の大物」と称したこともあったが、実際に松浦は藤本美貴と「勉強のために松田聖子さんの武道館コンサートを観に行った」と明かしている。「アイドル・松浦亜弥」を探ると、そういったストイックなエピソードがたくさん出てくる。 映画『あの頃。』公開にあわせて、松浦亜弥は何か動きを見せるのだろうか。もう一度、彼女のステージに魅了されたいと願うアイドルファンは多いはずだ。
■田辺ユウキ
大阪を拠点に、情報誌&サイト編集者を経て2010年にライターとして独立。映画・映像評論を中心にテレビ、アイドル、書籍、スポーツなど地上から地下まで広く考察。バンタン大阪校の映像論講師も担当。Twitter