乃木坂46 堀未央奈が見せたアイドルとしての生き様 大貫真之介が辿る「バレッタ」から現在までの軌跡
以前のインタビューで、観賞したという松岡茉優主演の映画『勝手にふるえてろ』について話を振った際、堀はこう答えている。
「妄想をメンバーに話すことも多いんですけど、だからといって現実の世界が嫌いなわけじゃなくて、妄想と現実が混じり合ったような世界が好きなんです。ジブリ映画にもそんなロマンチックな描写があるじゃないですか」(『EX大衆』2018年7月号)
堀は、2013年10月に加入から5カ月でセンターに抜擢されてから「生き様」を「物語」に変えてきた。
7枚目シングル曲「バレッタ」でセンターに選ばれた時は、『乃木坂って、どこ?』(テレビ東京系)の放送前(同日)に代々木第一体育館のライブで選抜発表が行われ、1万2000人のファンを前に決意を語った。現在までファンを前にした唯一の選抜発表だ。
「バレッタ」の間奏部分では、先輩メンバーたちが手を掻き乱すなか、堀が歩いていく振り付けがあるのだが、まるで「嫉妬の森」を抜け出していくようにも見える。
12枚目シングルで表題曲メンバーに選ばれなかった時は、ドキュメンタリー映画『悲しみの忘れ方』のラストライブで、「自分ではない自分」との葛藤から「乃木坂を辞めるか、髪を切るか」悩んでいたことが母親視点のナレーションで語られた後、髪を切って笑顔で駆けていく堀の姿が映し出された。
12枚目シングルのアンダーライブ(4thシーズン)の千秋楽で、アンダーセンターを務めた堀は「アイドルをやっててよかった」と口にし、自ら『悲しみの忘れ方』を完結させるのだった。
そして、14枚目シングル『ハルジオンが咲く頃』では、卒業するセンターの深川麻衣が、曲の最後に堀の手をとって前に歩いていく振りがある。深川のインタビューによると「これからのことを頼んだよ」というバトンタッチの意味があったようだ。「ハルジオンが咲く頃」のMVは山戸結希が監督している。
近年の堀は、グループでは前線に立ちながら同期や後輩を「『守りたい』と思うようになった」と語るようになっていた。その一方で、個人としては山戸結希や山岸聖太といった監督との出会いから演技を追求していきたい気持ちが強くなったようだ。
堀は755で「背伸びしたお洒落すぎる世界観よりも乃木坂特有のシンプルさや品がある独特な世界観のほうが好きなのかもしれないなー」と書いたことがある。その真意を聞くと、堀はこう答えた。
「乃木坂に魅力を感じたのはその唯一無二感というか、繊細で芸術的な作品が多いところでした。楽曲だけでなく衣装もMVもそう。一見マイナスに感じるようなメンバーの個性でも、グループ自体の不思議な魅力で逆に輝かせてくれるし、実際、乃木坂に入った後も『このグループに入ってよかった』と思えたんです」「乃木坂の素朴でまっすぐなのに個性がある唯一無二なところは引き継がれていってほしい」(『EX大衆』2019年6月号)
乃木坂46の唯一無二な魅力を体現してきたメンバーこそ堀だったのではないだろうか。乃木坂46から離れた堀未央奈が「唯一無二の表現」で映像の世界を席巻する日がいまから楽しみだ。
■大貫真之介(おおぬき しんのすけ)
フリーの編集・ライター。アイドルを中心に、サブカルチャー全般を多くの雑誌に寄稿。『EX大衆』、『月刊エンタメ』、『日経エンタテインメント!』、『OVERTURE』などで坂道シリーズの記事を執筆。