THE PINBALLS 古川貴之×『IWGP』原作者 石田衣良 特別対談 バンドマンと小説家が語り合う、表現の本質論

THE PINBALLS古川貴之×石田衣良 特別対談

幅広い層に受けて入れてもらうには“ダサさ”も必要

石田衣良

ーーオープニング主題歌の「ニードルノット」は、どんなイメージで書いた曲なんでしょうか。

古川:池袋って名前、よく考えると意味がわからないじゃないですか。池の袋って。そういうイメージからですね。下の道路の上に首都高が通っているみたいに、この作品に描かれている池袋と、同じ場所を走っているんだけど全然違う、みたいなイメージを作りたくて、そのよくわからない自分のイメージを言語化していったっていう感覚でしたね。

石田:いつも詞を書くのが先なんですか?

古川:詞が先ですね。でも、「ニードルノット」は歌詞はどうでもよかったんですよ。感覚的なイメージ、池袋を異世界の街みたいな感じでイメージしてました。針の塔、バベルの塔みたいな感じで。

ーー音に乗る言葉って、もちろん小説の言葉とは全然違うものだと思うですけれども、石田さんから見て歌詞や歌の言葉というのはどう感じるものですか?

石田:やっぱり歌の言葉って、普段僕たちが使ってる言葉よりも一段密度がぎゅっとしていたり、別な見方をしていないとダメなものなんですよね。なかなか普通の会話体とかでは歌にならない。そういう意味では、今回のオープニングもそうですけど、THE PINBALLSの曲はみんな、そうやって1段磨いたあとがありますよね。「失われた宇宙」とか「毒蛇のロックンロール」とか「真夏のシューメイカー」とか、みんなかっこよかったですね。

古川:ありがとうございます!

石田:ただ、これ僕も一緒なんですけど、かっこよすぎるのはよくないんですよ(笑)。もっと広い層に受け入れてもらうためには、汗の臭いとダサイ男気みたいなものが必要なんですよね。なので……どうしたらいいんでしょうね、僕たちは。本当悩みますよね。

古川:おっしゃっていること、すごくわかります。『池袋ウエストゲートパーク』も、マコトがかっこいいのって、オシャレだからとかではなく、やっぱり熱さだったり優しさだったりするじゃないですか。僕も優先順位で言ったら、かっこよさは低いかな。マコトみたいに最後まで友達のことを思ってくれるような人にかっこいいなって思いますけどね。

THE PINBALLSの透明感は何を書いても下品にならない

THE PINBALLS 古川貴之

石田:THE PINBALLSは、男性ファンがやっぱ圧倒的に多い?

古川:そうですね。

石田:それで思ったんですけど、『娼年』(石田の小説)みたいなことをちょっとやってみたらいいんじゃないですか? 詞がとがってるので、うんとエロいことも、セックスそのものをずばりで描いても、そんなに下品にならないと思う。ベッドシーン90分を3分にするみたいなので、また違った人が聞きに来ると思うんだけどな。

古川:ああ……。僕、ちょっとセックスとか、性についてあんまり積極的に語りたくないタイプではあるんですよね。そこは悩みではあって。なんか本当に人に刺激を与えるものって、もう全裸でバーッて自分を出しても出し切れない、それでも伝わらなかったりするじゃないですか。

石田:でもそこはもうあんまり考えなくていいんじゃないかな。作品として作り上げる中で、自分の性のありかたみたいなものは別に考えなくてもいいので、外側に彫刻みたいに作り上げていくものだと思って書くと、あとはもう腕と技なので。THE PINBALLSには何か透明感があるので、何を書いてもそんなに下品にならないタイプだと思うんですよ。

古川:初めてこういうアドバイスいただきました。よくこういう場面ってあって、「こうしたら売れるよ」とか、「もっとお前らこうしろよ」みたいなことって言われるんですけど、初めてですね。面白い。

ーーそういう領域を避けてきたわけではないんですか?

古川:いや、避けてると思いますね。どっちかっていうと、自分はもともとが汚いものなので、内面とかが。だからやっぱり美しいものを作りたいって思うんですよね。それが自分にないものだから。

石田:そういうのも楽しいんですよ。自分の中にある、知らないエロスが出てくる。小説を書くときは毎回そうなんです。男になり女になり、おじいさんや子供になるっていうことの繰り返しなので。もう本当に、自分なんかなくしちゃっていいんだよなっていう気はするんですよね。作者、作り手が思っている自分のイメージみたいなものって、その音楽を聴く人とか本を読む人にとっては正直余計なものでしかないじゃないですか。そういうところはもう「捨てちゃえばいいのに」と思うんですけどね。

ーーとくにロックは、そこを切り離すのが難しかったりするのかもしれないですね。

石田:まずは内々で書いてみればいいんじゃない? 作ってバンドのメンバーに聴いてもらって、ありかなしかで。あるいは親しい女の子に聴いてもらってもいいと思うんですけど。

古川:その人たちが「これはお前じゃない」って思うようなものまで、やってみるっていうのは面白そうですね。

石田:うん。自分が思っている自分って、ものすごく小さいじゃないですか。今の僕たちって、どんどんいらないものを削ぎ落として自分を純粋にしようとするんですけど、そうすると、出来上がってくる塊が、ダイヤモンドじゃないけど本当に小さくなっちゃう。それよりはもうちょっとガチッとした塊を残したいですよね。なので削らないっていう手もあるかなという気がします。

古川:なんか本当に……素晴らしいアドバイスです。

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