Sports Team、Fontaines D.C.、IDLES......UKチャート賑わすロックバンド ヒットの鍵は“インディコミュニティの活性化”
2010年代はUSインディの時代だった。あるいはコペンハーゲン。インディのギターミュージックを好む僕らのような音楽ファンは、海の向こうの音楽をその時々で判断し感じて受け入れ、そしてちょっと考えて......みたいなことを繰り返し続けていた。悪くいえばミーハー的に、よく言えばフラットに、イギリスもアメリカもデンマークもスウェーデンも等しくだ。でもだからこそ、そこで何が起きているのかと無責任に感じ考えることができるのかもしれない。言葉と距離の壁はネット時代において少し薄くなり、「何かが起きている」という空気や匂いがより強く伝わるようになった(地続きのリアルではないが、だからこそ解釈が生まれるものだと思う)。
そして2020年の今、UKロック、ことさらロンドンのギターバンドの音楽が再び盛り上がっている。兆しは2016年にShameがデビューした時からあった。ウィンドミル・ブリクストンを中心としたいわゆるサウスロンドンのシーン、Goat GirlやSorry、HMLTD、black midiといった素晴らしいバンドたちの登場だ。
しかし、音楽的な魅力やシーンにおいての重要度に比べて、セールス面がその盛り上がりについてくることは必ずしもなかった。優れたものが売れるとは限らない、わかる人だけがわかればいい......そんなひねくれた定型文を使いたくなる時期を通り過ぎ、こんなものだよねと諦めの境地にも入っていたが、今年に入ってその状況が変わってきた。6月に全英アルバムチャートでレディー・ガガと争い、Sports Teamのデビューアルバムが僅差で2位になったのだ。それを皮切りに8月にはFontaines D.C.の2ndアルバムが同じく2位に、そして10月にはIDLESの3rdアルバムがついに首位を獲得したのである。
これらの3バンドはいったい何が優れていたのだろうか? 確かに素晴らしいバンドではあるけれど、先のサウスロンドン・シーンのバンドと比べて明確な違いがあるとも思えない。「優れているから売れた」というのは確かにそうなのだろうが(実際に3バンドともめちゃくちゃいいアルバムだった)、「売れるのは音楽的に優れている以上のものがあるからなのでは?」と、この件で考えさせられた。
売れる、売れる......という言葉をつい使ってしまいがちだが、実のところ何が“売れる”を意味するのだろうか? これまではレコードやCDなどフィジカル作品の販売数を指すことが一般的であったが、現行のUKオフィシャルチャートの集計ルールでは1000ストリーミングがフィジカル1枚分と同等の価値として扱われる。このストリーミングの数字はアルバムトラックの合計値であり、おおざっぱに言うと10曲入りのアルバムが100回聴かれた場合、レコード1枚が売れたのと同じだけのポイントを獲得するというものだ。つまりその差は100倍近い。
これこそがこの話のポイントだ。Sports TeamとFontaines D.C.がそれぞれ戦ったレディー・ガガ、テイラー・スウィフトのTwitterのフォロワー数を見て欲しい。2020年の10月現在でレディー・ガガ、テイラー・スウィフトには8千万人以上のフォロワーがいる。
それに対してSports Teamは1万、Fontaines D.C.は約4万フォロワーだ、そこには圧倒的な差がある。8千倍あるいは2千倍の差。フォロワーみんなが新しいアルバムを聴いているとは限らないが、それにしたってこれでチャートで勝負になるのはありえない話のように思える。つまり、ストリーミングで聴かれた回数ではなく、フィジカルで勝負したことが鍵になったというわけだ。
この数字からもわかるようにSports TeamがTwitter上で勝手に戦いを挑み、素敵なイベントにしてしまったレディー・ガガとのチャートバトルは、「みんなが聴いているアーティスト 対 俺たちのバンド」の戦いだったのだ。サッカーのFA杯において、カテゴリーが下のクラブのジャイアントキリングが大盛り上がりするように、Sports Teamの戦いはインディの判官贔屓でもって受け入れられた。俺たちのSports Teamが巨大な相手に一発かますーーそれはFEETのような後輩バンドからルイス・キャパルディ、果ては一国の大臣までもが応援する大きな盛り上がりとなり、アルバムの音楽性と共にブリットポップ期を彷彿させるような現象となった(「Oasis 対 Blur、俺たちはOasisだったってわけだ」と、Blurみたいなアルバムを作ったバンドは言う)。