藤田麻衣子、不安や葛藤を越えて作り上げたライブでの心の共振 東名阪ツアーファイナル公演レポート
後半には、140曲ほどのレパートリーから特に季節を感じる4曲で構成された「春夏秋冬メドレー2020」も。「水風船」、「高鳴る」、「この白い雪と」、「卒業」と、どれも違った表情だが、ドマイナーだったり、ドラマチックだったり、ミュージカル的なスケール感だったり、華やかさという点で共通する曲ばかり。サウンドの彩りにも富んでいて、聴き応えのある濃密なコーナーだった。「卒業」の最後の「♪ラーラ、ラーラ」のコール&レスポンスでは、「心の中で、大きな声で歌って」と、藤田は会場とカメラの向こうの観客を煽った。すると、観客が歌うべきレスポンス部分でバンドがブレイク。同時に客席がパッと明るくなり、「♪ラーラ、ラーラ」の小節分の静寂が流れた。傍観者的に見ればなんとも奇妙な光景だ。でも、そこには確かな心の共振があった。声を出さなくともひとつになれる。ステージに立つ者も観る者もそう実感した宝物のような瞬間。今回のライブで一番印象的かつ象徴的なシーンと言えるだろう。
「最終日まで開催できて本当によかったなと思います」と、不安だった日々や、協力してくれた人たちへの感謝、開催できた喜びを訥々と語り始めた藤田。「だから終わっちゃうのが寂しくて……」と言った途端、堰を切ったように思いが溢れたのか、突然しゃくり上げるほどに泣いた。新しいアルバムを出してからのこの半年間は、それこそ、シンガーソングライターとしての存在意義を自問自答する毎日だったかもしれない。新しい形でのライブには、我々の想像もできない不安や葛藤があっただろうし、重責にあえいでもいただろう。ライブ終盤、ようやく少しホッとしての涙。もちろん、すぐに思い直したように笑顔になった藤田は、「みなさんの明日からがさらに幸せなものになりますように」と、「あなたは幸せになる」で本編ラストを力強く締めくくった。
長く大きな拍手に応えてのアンコールでは、この日配信された新曲「臆病な恋の歌」を弾き語りで披露。デビュー15周年を迎える来年に向けて、「あえて恋愛にこだわって曲を作った」のは、藤田麻衣子の一番の強みである恋愛ソングという原点から「新しい章」をスタートさせたかったからなのかも。ミラーボールが回る中、健気な女の子の気持ちをとことん切なく歌った藤田は、やり切った爽快な笑顔でステージを歩き、会場の一人ひとりに手を振った。そして最後の最後、故郷である名古屋を応援する新たなプロジェクトに書き下ろした「きみのあした」の一節を、マイクなしのアカペラで熱唱。「♪フレー、フレー、きみのあした……フレー、フレー、みんなのあした」というその生声は、観る者の心にとてつもないエネルギーをチャージしてくれた。大丈夫、進んでいける、と、きっとみんな根拠なく未来を思えたに違いない。
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■「臆病な恋の歌」配信情報
ストリーミングサービス、およびiTunes Store・レコチョク・moraなど主要ダウンロードサイトに て配信中
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