ひらめ「ポケットからきゅんです!」なぜ社会現象に? 聴く者を惹きつける楽曲のツボ、アーティスト性を考察

ひらめ「ポケットからきゅんです!」

 2020年の音楽シーンは、コロナ禍の影響もありランキング動向に大きな変化が生まれた。その流れで台頭したのが、瑛人「香水」、Rin音「snow jam」、りりあ。「浮気されたけどまだ好きって曲。」など、動画投稿アプリTikTok発の人気曲だ。

 TikTokは、TikTokerと呼ばれる人気インフルエンサーが動画内で楽曲を使用したり、カバーしたりすることでミーム化、いわゆる二次創作作品がバズりやすい構造を持つ。しかも、カバーされた楽曲のタイトルが表示され、かつオリジナル楽曲を軸にカバーされた楽曲を一覧表示できることから連鎖が起こりやすい。カバーといっても“カップル動画”、“ダンス動画”、“弾き語りカバー”などたくさんの種類がある。表現の自由度も高く千差万別のおもしろさだ。

 リスナーはひとたび楽曲のファンになると、他の人気TikTokerによる表現ではどう歌われているのか? 誰がカバーしているのか? そして、人気曲であればあるほどタイムライン上で楽曲に出くわすうちに元曲が気になりYouTubeやInstagram、LINE MUSIC、Spotifyなどストリーミングサービスでチェックするようになり、YouTubeでの再生回数増や、LINE MUSIC「ソングTOP100」ランキングや「Spotify Japan急上昇チャート」プレイリスト、「Billboard JAPAN TikTok週間楽曲ランキング」としてヒットが可視化されることによってバズが生まれていく。

 こうして新たなコンテンツとの出会いの場が切り開かれたのは、2020年、新型コロナウイルスの影響によってフェスが行えず、ライブもままならないカオスの音楽シーンに訪れたひとつの光明だ。

 冒頭で触れた瑛人(エイト)「香水」、Rin音(リンネ)「snow jam」、りりあ。「浮気されたけどまだ好きって曲。」など、“3文字系シンガー”(※名前の読み方がたまたま3文字だった!)の躍進にも昨今関心が高まっている。彼らはTikTok発で拡散され、温かみあるアコースティックな香りを漂わせ、人に寄り添った優しさを解き放つ共通項を持っている。

 そんな“3文字系シンガー”の中でも本稿で注目したいのが、6月8日にTikTokへ投稿されヒットした“15秒のシンデレラ”と評される、ひらめ「ポケットからきゅんです!」だ。15秒とはTikTokで表示される一般的な収録タイムを指す。瑛人の「香水」が1年で10万人の関連動画がアップされたのに対して、「ポケットからきゅんです!」は2カ月で225万人が関連動画をアップ。本作は、Billboard JAPAN「TikTok週間楽曲ランキング」(6月15日~6月21日集計)で初登場2位に。しかも、その後、12週連続でTOP5内をキープ。リスナーによる音源化希望の声が殺到し、つい先日LINE MUSICで8月14日に先行配信され上位にランクイン。8月28日には、SpotifyやApple Musicなど各ストリーミングサービスで配信がスタートしたばかりだ。

ひらめ🐠「ポケットからきゅんです!」

 満を持してのオリジナルバージョンのリリースによって、これまで「ポケットからきゅんです!」の15秒バージョンしか知らなかったリスナーが、楽曲の新たな魅力を発見し、より深みにハマっているようだ。すでに25万人以上が関連動画をTikTokにアップしている。〈ポケットからきゅんです!〉というキャッチーなフレーズと、親しみやすいハートフルな楽曲の世界観、真似しやすい指ハートを使ったポーズが中高生を中心に受けている。アンダー22ageの間で「ポケットからきゅんです!」の認知は90%以上、ティーンの間で流行したもののベスト5にもランクイン。動画投稿後、たった2カ月で関連動画の総再生回数が3億回を超えたというのだから新時代を感じざるをえない。ちなみに楽曲に登場する「きゅんです」は、ティーン世代を中心に圧倒的知名度を誇り、「ぴえん」、「密です」などとともに今年の流行語大賞へのノミネートが期待されるひとつになっている状況だ。

 いまや「ポケットからきゅんです!」の楽曲認知は若者やネット界隈にとどまらず、ディーン・フジオカや、3時のヒロインら著名人が動画をアップするなど、大きなムーブメントになりつつある。そして、7月10日放送、めざましテレビにて「TikTok発のブレイク・ヒットソングを独自取材」として紹介され、より人気が加速してきた。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アーティスト分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる