『bond』インタビュー
Rin音とのコラボも話題の19歳シンガーソングライター asmi 1stアルバム『bond』を語る人生初インタビュー
昨年10月に1stシングル「osanpo」でデビューし、ラッパーのRin音、トラックメイカーのHenriiと共作した「earth meal」が、公開から2カ月でYouTubeにて80万回再生を突破。さらに才能発掘プロジェクト『十代白書2020』ではグランプリを獲得し、若年層の熱心な音楽リスナーから熱い注目を浴びている大阪出身のシンガーソングライター、asmi。彼女の待望のデビューアルバム『bond』がリリースされた。
Rin音の朋友、Shun MarunoやTaro Ishidaら、気鋭のトラックメーカーによる音数を極力抑えたチルでオーガニックなサウンドスケープと、キュートかつジャジーなasmiの歌声が心地よく混じり合う。何気ない日常を切り取りながらも時折覗かせる彼女の「孤独」や「死生観」が、歌詞の世界に深みを与えているのが印象的だ。ギターも作曲も、本格的に始めてからまだ1年だという現在19歳のasmi。本作『bond』には、そんな彼女にしか描けない瞬間がたっぷりと詰め込まれている。
本稿は、彼女にとって生まれて初めてのインタビューである。曲を作り始めたきっかけや、アルバム『bond』の制作エピソード、歌詞に込めたメッセージなどについて、緊張しつつも丁寧に答えてくれた。(黒田隆憲)
「『声がいいよ』と言われたことが嬉しくて。音楽をやると決めました」
ーーasmiさんは、どんなきっかけで音楽に目覚めたんですか?
asmi:お姉ちゃんが趣味で歌を歌っていて。私、お姉ちゃんのことがめっちゃ好きやったから、一緒にYUIさんや片平里菜さん、aikoさんとかを聴いているうちに私もどんどん好きになっていきました。高校生になって軽音楽部に入ってからは、自主的に掘り下げるようになっていきましたね。
ーー自主的に掘るようになってからは、どんな音楽を聴いてました?
asmi:ジャニーズが好きでした。特に関ジャニ∞が大好きで、当時は好きなアイドルが歌ってたから好きやったけど、自分が音楽をやるようになってからジャニーズの曲を改めて聴いたら、その凄さというか、自分がやっている音楽とはレベルが違うなって分かって。
ーーそこで培ったポップセンスが、今のasmiさんの音楽性にも影響を与えているかもしれないですよね。
asmi:そう思います。あとはSHISHAMOとチャットモンチーも好きでした。聴くときは結構、歌詞を重視していて。SHISHAMOやチャットモンチーは女の子の気持ちを分かりやすく代弁してくれているので、そこに共感したんやと思います。高校を卒業して今は専門学校へ通ってるんですけど、そこでLUCKY TAPESとかシティポップス系に出会って、ジャニーズ以外の男性ボーカルも聴くようになっていきましたね。
ーー曲を書くときに、例えば映画や本など音楽以外のところからもインスパイアされますか?
asmi:本は好きで昔からよく読んでいるし、インスピレーションを受けることは多いですね。ジャンルでいうと、恋愛小説とホラーサスペンス(笑)。今思ったんですけど、「anpan」という曲で〈君の顔をanpanにして食べたい ampan manにして食べたい〉とか、ちょっとグロテスクな表現があるのは、ホラーサスペンスの影響もあるかもしれないです。
ーー確かに、asmiさんの歌詞は「かわいい」と「グロテスク」が同居した世界観ですよね。具体的にはどんな作品が好きなんですか?
asmi:ホラーサスペンスは五十嵐貴久さんの『リカ』や、誉田哲也さんの『ケモノの城』とか。かなりグロテスクなのが好きですね。映画も、以前はキュンキュン系の作品ばかり観ていたんですけど、最近は怖いものばっかり観ているかも(笑)。ちなみに恋愛小説は、島本理生さんの『ナラタージュ』が一番好きです。高校で卒業研究というか、論文を書く課題があったんですけど、その時は『ナラタージュ』を取り上げたんですよね。あと、穂村弘さんがいろんな人の短歌を紹介している『短歌ください』もめっちゃ読みました。短歌や古文も好きなんです。
ーー先ほど専門学校へ通っているとおっしゃっていましたが、高校卒業したときには音楽の道へ進むことを決めていた?
asmi:実は高3の10月くらいまでは、大学へ行くつもりだったんです。当時私はピアノとボーカルの2人組ユニットを組んでいて、ライブハウスとかにちょっとだけ出たりしていたんですけど、そのときにたまたま専門学校の人が私の歌を聴いて「音楽やってみたら?」と言ってくださったんですよね。
高校の軽音楽部では、声量があって歌い上げるボーカルが「上手い」とされていて、私は「上手いボーカリスト」ではなかったんです。中学の頃も「声、作ってるやろ」とか言われたこともあったし(笑)、そもそも自分の声に自信がなかった。でも、いわゆる音楽業界の人に「声がいいよ」と言われたことが本当に嬉しくて。その時はすでに大学の推薦が決まっていたんですけど、専門学校へ行って音楽をやると決めました。いろんな人にめっちゃ怒られましたけど(笑)。
ーーそりゃそうですよね(笑)。ご両親も反対したのでは?
asmi:泣きながら夜中の3時くらいまで説教されました。今は応援してくれてますけどね、優しい親でよかった(笑)。
ーーその頃はすでにオリジナル曲も書いていました?
asmi:いえ、曲を書き始めたのは高校を卒業して専門学校に入ってからです。ギターを始めたのが去年1月で、曲を書き始めたのは7月ごろなんです。
ーーえっ、まだ1年しか経ってないんですか!? すでにInstagramなどで弾き語りを披露してますよね。
asmi:いや、でも難しいこととか全然できなくて!(笑)。学校で習ったこととか試しながら、練習のつもりで配信しているんです。
「自分が作った曲を好きになってもらえることが一番の喜び」
ーー驚きました。ちなみに専門学校では何を学んでいるのですか?
asmi:今は主に“セルフマネージメント”みたいなことを学んでいます。「自分をどう売り込んでいくか?」みたいな。1年生の時は「音響」「映像」「デザイン」も学んでいて。自分たちでアーティスト活動をしていく上で必要なことを少しずつ教えてもらっていますね。
ーー曲作りも専門学校で学んだ?
asmi:いや、学校では曲作りに関してはそんなに教えてもらっているわけではなくて。機材の使い方や録音の仕方などを学んでいます。
ーーいつもどうやって曲を作っているのですか?
asmi:実体験も入れつつ妄想を膨らませて(笑)、ギターを弾きながらメロディに言葉を乗せています。
ーーバンドでやっていこうとは思わなかった?
asmi:思わなかったですね。なんか、自信がなかったというか。「無理やろな」と思っていました。何をするにも一人の方が好きなんですよね。
ーーでも、バンドよりも弾き語りの方がごまかしが効かないというか。そこへの怖さみたいなものはないですか?
asmi:いや、めっちゃ緊張しますよ。今もずっと緊張してて(笑)。ビビりながら頑張ってます。
ーーそれでも人前に出て歌いたいと思うのはどうして?
asmi:結構、自己中というか(笑)。今は自分の声が好きなので、歌っていて気持ちいいし、褒めてもらえたら嬉しいし……。何より、自分が作った曲を聴いて好きになってもらえることが一番の喜びなんですよね。
ーー今の事務所ROOFTOPに所属することになったのは、クボタカイのライブでスタッフにデモテープを渡したのがきっかけだったそうですね。
asmi:はい。私はkojikojiさんが高3の頃から大好きだったんです。確かInstagramで「#弾き語り」で検索していたときに、kojikojiさんのアカウントにたどり着いたのだと思うんですけど、そこからずっとフォローさせてもらってて。クボタくんも、kojikojiさんとコラボしていたのがきっかけで知って好きになったんですよね。
ーーなるほど。確かに今回のデビューアルバム『bond』を聴くと、メロディや歌詞のリズムなどにヒップホップからの影響を感じますよね。
asmi:そういう部分を今回は出していきたかったので嬉しいです。あと、サウンド面で意識していたのは佐藤千亜妃さん。高校生の頃からきのこ帝国が大好きで、ソロになってからもずっと好きやったし参考にさせてもらいました。
ーーヒップホップとバンドサウンドの中間のようなトラックは、どのように作っていきましたか?
asmi:まず私が作ったデモを、トラックメーカーのShun MarunoさんやTaro Ishidaさんにお渡しして、アレンジしてもらったトラックに自分でギターやボーカルを乗せていきました。そういう作業は全て自分の部屋で行っています。
ーーさっき古文や短歌が好きだとおっしゃっていましたが、例えば「moon」という曲の、〈幼気な朝月夜 満月に祈る〉や、〈相容れぬ玉響 立待月に祈る〉みたいな言い回しとか、日本語の美しい響きにも興味があるのかなと思いました。
asmi:その通りで、辞書とかから響きの良さそうな言葉を探して歌詞に入れています。同じように、本の中の気に入った表現からインスパイアされて、それを歌詞の中に入れることもありますね。
ーーちなみにこの曲は、かなり官能的というかエロティックな内容ですよね。
asmi:大阪に「CIRCUS Osaka」というクラブがあって、それまで私はクラブって行ったことがなかったんですし、今もまだ「CIRCUS Osaka」しか知らないんですけど、「こういうところで流れる音楽って素敵やな」と思って書いたのが「moon」なんです。歌詞は完全に妄想の世界ですね(笑)。