【全3回】トラップミュージック史(2)アトランタ、フロリダのムーブメントで変化したサウンドの定義

FutureのブレイクとDrakeのサポート

Future『Pluto』
Future『Pluto』

 新たなトラップスターが次々と生まれていく中、トラップを生むきっかけとなったDungeon Family周辺からもまた、T.I.に続く大スターが誕生した。

 今や現代を代表する“トラッパー”となったFutureは、Dungeon Familyの中核的プロデュースチーム、Organized NoizeのRico Wadeの甥だ。2011年にリリースした「Tony Montana」のヒットと、Gucci Maneとのタッグで発表したミックステープ『Free Bricks』で注目を集めたFutureは、翌年1stアルバム『Pluto』をリリースする。同作収録の「Turn On The Lights」は、Gorilla Zoeが2008年にリリースした「Lost」と並ぶ現代のアトランタスタイルの先駆け的な曲だ。オートチューンを使って歌うようなフロウを聴かせる同曲は、後進のトラッパーに大きな影響を与えた。

Future『Pluto』
Gorilla Zoe「Lost」

 またFutureの活躍は、その後の歌うストリート派ラッパーの登場も促した。2012年にはアトランタのラッパー・Rich Homie Quanが「Type Of Way」をヒットさせ、Lil Wayneを生んだルイジアナからもKevin Gatesがミックステープ『Make ‘Em Believe』で注目を浴びた。Futureのブレイクのきっかけの一つとなった「Tony Montana」には、Lil Wayne率いる<Young Money>所属のカナダのラッパー、Drakeが参加している。ラップも歌も器用にこなすDrakeは、優れたセンスを持つトレンドセッター的なラップスターだ。2011年時点ではすでに1stアルバム『Thank Me Later』をリリースし、人気ラッパーの仲間入りを果たしていた人気ラッパー・Drakeの参加も、Futureのブレイクの要因の一つになった。

Drake『Thank Me Later』

 カナダ出身のイメージが強いDrakeだが、実は生まれはメンフィスだ。両親の離婚により母の地元であるトロントに幼い頃に移住したが、夏休みには父が暮らすメンフィスに身を寄せていた。そのため、Three 6 MafiaやKingpin Skinny Pimpといったメンフィスのヒップホップを好んで聴いていたという。Drakeは後にアトランタのヒップホップグループが発表したシングルのリミックスに参加し、生まれ故郷のフロウを全米に蔓延させるきっかけを作ることとなる。

Gucci Mane系譜のトラッパー・Migosの登場

 アトランタの3人組ヒップホップグループ・Migosは、Young JeezyというよりGucci Maneの系譜にあるトラップを聴かせるグループだ。2013年に発表した楽曲「Versace」はZaytovenをプロデューサーに起用し、D-Moe「A Dose Of Dope」と同じ三連符のフロウを使った曲だった。このフロウにメンフィスの匂いを感じたのか、Drakeはいち早く同曲に反応。リミックスに参加し、彼らをヒットに導いた。この曲をきっかけに、Zaytovenはトラップのトッププロデューサーに返り咲き、三連符のフロウも一気に浸透した。

Migos「Versace」

 また、この時期にはGucci Maneの周辺からもう一人の重要なラッパー、Young Thugが登場する。奇怪な高音で歌とラップの間を泳ぐスタイルは、トラップのフロウ面にFutureとMigosと共に大きな影響を与えた。Young Thugの2013年のミックステープ『1017 Thug』は一部のラップマニアの間で話題となり、2014年「Stoner」(「I feel like Fabo」と、通じるスタイルを持つ地元の先輩ラッパーの名前も登場する)でブレイク。以降、Young Thugはシーンで屈指の個性派ラッパーとしてトップを走っていく。

Young Thug『1017 Thug』

 Gucci Mane本人は度重なる逮捕により不在期間が続いたが、FutureやMigos、Young Thugらの成功により、Gucci Mane系譜のドラマティックではないトラップも市民権を獲得。トラップは多様な形に発展していった。808 MafiaとZaytovenはトラップのトッププロデューサーとなり、こうして現代のトラップビートが形作られた。

トラップミュージック史(3)多様化と全米制覇 インターネットでの隆盛の先に広がる未来に続く)

■アボかど
91年生まれ、新潟県出身・在住のG愛好家。音楽ブログ「にんじゃりGang Bang」を運営。
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トラップミュージック史【全3回】

(1)サブジャンルとしての誕生とメインストリーム進出の背景
(2)アトランタ、フロリダのムーブメントで変化したサウンドの定義
(3)多様化と全米制覇 インターネットでの隆盛の先に広がる未来

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