『流しのOOJA~VINTAGE SONG COVERS~』インタビュー

10周年イヤーのMs.OOJAが語る、名曲カバー集に込めた想いと原点 「長く歌うことが自分の人生だと思っている」

 2020年2月16日、メジャーデビュー10周年イヤーに突入したMs.OOJA。その活動の一つとして8月26日にリリースされるのが、至極の歌謡曲12曲が詰まったカバーアルバム『流しのOOJA~VINTAGE SONG COVERS~』だ。幼い頃から歌謡曲に親しんできたというMs.OOJAは、このアルバムにどんな思いを込めているのだろうか。そして10周年を迎えるにあたり、どんな気持ちを抱いているのだろうか。彼女の“今”を、真っ直ぐな言葉で語ってもらった。(高橋梓)

Ms.OOJA「流しのOOJA〜VINTAGE SONG COVERS〜」全曲Teaser

「女性が強くて自立している曲が多い」

ーー約3年ぶりのカバーアルバム『流しのOOJA』の発売、おめでとうございます。改めてコンセプトをうかがわせてください。

Ms.OOJA:ラジオの仕事で札幌に通っているんですが、その時によく行くミュージックバーがあるんです。レコードをかけてもらいながらお酒を飲むのがすごく好きで。そこで流れていたのが、日本の歌謡曲やニューミュージックと言われる70〜80年代の音楽。聴いているうちに大好きになり、札幌のバーでゲリラ的に行うライブ『流しのOOJA』を始めました。気持ち的には“流し”として、キーボードと2人、ほとんど即興で歌謡曲のカバーをやるライブです。今回のアルバムはそこから派生したものです。

ーーどうして今のタイミングでリリースされたのでしょうか。

Ms.OOJA:歌謡曲を聴きながら、飲んで歌うのが楽しいなって思い始めたのが3、4年くらい前からなんですが、その思いをやっと形にできたのが今でした。あとは、年齢的なこともあったりだとか。今まで70曲以上の様々なカバー曲を歌わせていただいているんですが、辿りついた場所がこの歌謡曲。今だからこそ歌える曲だと自分の中では思っています。

ーー収録曲を見ると、OOJAさんが生まれる前の曲もありますね。

Ms.OOJA:一番新しい曲で1996年発売の高橋真梨子さんの「ごめんね…」なのですが、その頃私は中学生くらい。もちろんこの曲を知ってはいましたが、当時聴いていたのは小室(哲哉)さんの曲で、歌謡曲は大人が聴く音楽だと思っていました。でも、歳を重ねてきた時に、歌謡曲が沁みるようになってきたんですよね。時代じゃなくて、世代で聴くものなんだなと感じました。

Ms.OOJA「ごめんね・・・」Short Music Video(from 「流しのOOJA〜VINTAGE SONG COVERS〜」

ーーその中でも、1曲目の「フライディ・チャイナタウン」(原曲:泰葉)が第1弾の配信シングルとしてリリースされました。ファンの方からの評価も高い曲ですが、この曲とご自身のどんな部分がフィットして好評価に繋がったと思われますか。

Ms.OOJA:ライブの方の『流しのOOJA』で「フライディ・チャイナタウン」をやると、めちゃくちゃ盛り上がるんですよ。お客さんも喜んでくれるし、自分も歌っていてとても楽しくて。自分の声にもすごく合っていると思います。

 この曲は、歌謡曲だけどすごく新しい。オシャレでカッコいい曲で、今歌っても何の遜色もないくらいの曲です。もちろん有名な曲ではありますが、知る人ぞ知る名曲ですよね。私はカバーの選曲をする上で「聴く人に改めての発見をしてもらいたい」という思いがあったので、「フライディ・チャイナタウン」はそこにもピタっとハマった感覚があります。それに歌謡曲カバーというと、しっとりしたイメージがあると思うのですが、そこもいい意味で裏切りたいな、と。

Ms.OOJA「フライディ・チャイナタウン」Lyric Video

ーーTikTokのダンスも拝見しましたが、すごくかっこよかったです。

Ms.OOJA:今回振り付けを作ってもらって「踊ってみた」的にやったんですけど、誰も真似してくれないんですよ(笑)。私のファンは大人な方が多いので、家で密かに踊ってくれてるとは思うんですけど……。動画を撮って踊るのはハードルが高いのかもしれませんね。そんな中、実は泰葉さんご本人が踊ってくれて…! 嬉しかったです。

ーーすごい! ご本人公認なんですね。他にも素敵な曲がたくさん詰まっているカバーアルバムですが、ご自身のオリジナル曲を歌う時にはないものを感じたりもするのでしょうか。

Ms.OOJA:感じますね。特に今回の歌謡曲は世界観がすごくしっかりしているというか。女性が強くて自立している曲が多いんです。それが色っぽいというか、大人っぽいというか。その世界観に入って歌えるんですよね。オリジナル曲以上に「演じる」という感覚があります。ボーカリストとしての新しい自分を見ることができました。

ーー歌のテクニック的にも意図的に使い分けてらっしゃるんですか?

Ms.OOJA:意識するというよりも、自然に引き出される感じなんですよね。オリジナル曲は、自分で世界観を作っています。歌詞を書いても、曲を作っても、今の自分が作る曲なので等身大なんですよ。それに対して、カバー曲はドラマみたいな感じ。台本があって、その役を演じてるという感覚。歌に入り込む以外に余計なことを考えなくていいんです。「ここはこういうテクニックで歌う」と考えるんじゃなくて、自然にそう歌ってしまう作曲技法になっているというか。もちろんシンガーソングライターさんもいましたが、当時の曲は作曲家がいて、作詞家がいて、プロの歌手がいて。プロたちが集まって曲を表現するという良さをすごく感じます。

ーーそこからインスパイアされたこともありそうです。

Ms.OOJA:原曲を聴くと、皆さんある意味自由に歌われているんですよね。レコーディングも今みたいに音程やリズムを直すことがない、録りっぱなしの状態なわけです。ちょっと曖昧な部分があったりすることもあるんですけど、それは自分らしく自分なりの解釈で歌っています。原曲を聴く中で「歌ってもっと自由でいいんだな」と思いました。当時の歌手の方はなんでこんなに魅力的なんだろうと考えた時に、自由な幅があって、不完全なものだからなのではないかと感じて。「きっちりしすぎているのも魅力がない」、「歌ってもっと自由で楽しいものでいいんだ」と気付いて、歌うことを楽しもうと思いました。私の根本にある「歌が好き」という軸も改めて感じさせてもらいました。

ーーアルバムに収録されている曲への思いを、1曲ずつお聞きしてもいいですか。

Ms.OOJA:まず「フライディ・チャイナタウン」は20代の子がカラオケで歌っていたのを聴いて、「なんてカッコいい曲なんだ」と魅了された曲です。一言でいうと、カッコいい女になれる曲。「真夜中のドア/Stay With Me」(原曲:松原みき)は、歌謡曲を好きになるきっかけになった曲です。『新・BS日本のうた』(NHK BSプレミアム)に初めて出演した時にリクエストをもらって、「こんなかっこいい曲あるの!?」と驚きました。「異邦人」(原曲:久保田早紀)は友だちのお母さんのお店に行くと、そこのカラオケで誰かが必ず歌っている曲(笑)。でも、全然聴き飽きないし、歌い飽きないんですよね。大ヒットした意味が分かりました。次の「夏をあきらめて」はサザンオールスターズの曲ですが、研ナオコさんがカバーされました。研さんのアンニュイな歌い方がすごくセクシーで、楽曲としてカッコいいと思います。

 私のカバー曲で一番聴かれているのって、中西保志さんの「最後の雨」なんですね。自分でも歌った時にすごく盛り上がりを感じて、ハマったと思った曲なのですが、次の「ごめんね…」はそれと同じ感覚がありました。多くの方に広まると確信している曲です。「Woman〜Wの悲劇より〜」(原曲:薬師丸ひろ子)はすごく儚げなボーカルを表現していて、私の中では挑戦している曲です。カラオケでめっちゃ歌います(笑)。「つぐない」(テレサ・テン)は、お酒に一番合う曲。「さよならの向う側」は宇崎竜童さん、阿木燿子さんペアの楽曲で、山口百恵さんの最後の曲ですね。プロの楽曲とプロの歌手というのをすごく感じられる曲です。

 次の「想い出のスクリーン」(原曲:八神純子)は、DNAに刻み込まれた曲。物心つく前にこの曲を聴いていて、ずっと記憶になかったんですが聴いたら全部歌えたんですよ。歌詞もメロディも全部覚えていて、すごく不思議な感覚でした。「難破船」は、正直カバーするまでしっかり聴いたことがありませんでした。でも、ファンの方から歌ってほしいとコメントをいただいて。加藤登紀子さん原曲で、中森明菜さんがカバーされていますが、キーがものすごく低いんですよ。だから実は私はキーを半音くらい上げていて。深いところからブワッと歌うのが好きです。次も明菜さんの「駅」。この曲を歌おうと決めた時に『新・BS日本のうた』の出演が決まって、その時にプロデューサーさんが選曲してくれたのがこの曲。すごい偶然だし、運命的なものを感じました。最後の「シルエット・ロマンス」(原曲:大橋純子)は、2013年にリリースした『30』に収録されているものです。この頃はまだ昭和歌謡にそこまで惹かれていない時で。「シルエット・ロマンス」はすごくカッコよくて、大人っぽい歌謡曲の特徴を表現していて、ちょっと戸惑いながらカバーした記憶があります。今聴くと「ちゃんと歌ってるじゃん」と思うんですけど、あの頃はなんか照れくさいような、大人っぽい歌詞に戸惑っていた記憶があります。「まだまだ若かったな、私」って(笑)。

ーー贅沢な解説、ありがとうございます! ある意味、OOJAさんの歴史が詰まっている1枚なんですね。

Ms.OOJA:はい、「ここまで歌えるようになったぞ」と。今回のアルバムの選曲で、実は外した曲がいくつかあるんです。それは、「この曲を表現するにはまだ私は若すぎる」と思ってしまった曲たちなんですけど。歌謡曲は家族で車に乗っている時によく聴いていたのですが、父が好きだったのが桂銀淑さん。今回も桂さんの楽曲を入れるか迷いましたが、まだちょっと早いかな、と。この先、挑戦する機会があれば今回選曲しなかった曲も歌いたいですね。

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