舐達麻、聴き手を熱狂させるリリックの神秘性ーー覚悟と信念、そして発露する叙情と哀愁

 勢いが止まらない。

舐達麻『GODBREATH BUDDHACESS』

 ストリーミングやMVの再生回数は驚異的な伸びを見せている。ラップミュージックのリスナー以外からも評判を聞くようになってきた。明らかに彼らのファッションや風貌を真似た若者も目につきはじめている。舐達麻は今、埼玉・熊谷から四方八方へ、その影響力を拡散し始めている。サグライフを文学的なリリックで表現するただならぬクルーがアンダーグラウンドから現れた、という意味ではどこかゼロ年代初頭のMSCの登場を彷彿とするも、あの時を遥かに超えるスケールになってきている。いま、そこかしこで人は言っているに違いない。「なぜ舐達麻はこれほどにバズっているのか」と。

 ドラマティックな様式美。覚悟と信念、そして男同士の契りというテーマ性。そこから発露する叙情と哀愁。並べていくと、確かに舐達麻の作品には日本人の愛する要素が凝縮されている。

BUDS MONTAGE / 舐達麻(prod.GREEN ASSASSIN DOLLAR)

 舐達麻とは、煙である。彼らはいつも、煙のように佇んでいる。

 満を持してリリースされた新曲「BUDS MONTAGE」でも、煙たい魅力は次のようなリリックによって綴られ、空気中を漂う。私たちは次々に咳き込む。鼻の奥をつんとつかれる。眼の奥が酸っぱく刺激される。思わず涙腺が熱くなる。

「手にSMOKE/災いや偽りはいらない/音に浸かるこの旅/言い訳は聞かない/BACKROLL APHROGANG/煙に巻き頂き/吹いた神の息吹/GODBREATHの導き」

 もちろん煙とは大麻のモチーフとしてある一方で、時に煙は――数々の映画や舞台芸術において重要な役割を果たしてきたように――幻想的で不穏な雰囲気を生み、神秘性を纏い我々の世界を漂い霧散していく。彼らは、ロマンティシズムの極地へ向かう煙のように美しくたゆたうリリックを数多く披露してきた。アウトローかつ退廃的なムードは、時に過剰な不穏さをも演出する。例えば、本格的なブレイクのきっかけになった「100MILLIONS(REMIX)」において、DELTA9KIDはこう綴っている。

「一途な思い自由壊したとしても/話すな手を/犬には秘め事/シラフじゃ嫌気さすモノクロの世界/時間は奪えど心は奪えない/強く抱きしめるこんな美しい夜は/二度とは来ないかもしれないから」

100MILLIONS (REMIX) / 舐達麻(prod.GREEN ASSASSIN DOLLAR)

 そしてまた、煙は抽象性の象徴でもある。つかみどころなく、曖昧な境界を行き来し私たちの空間に染みわたっていくもの。言葉と意味を一義的につなげるのではなく、様々な想像力を巡らせられるよう綴られた“哲学的”と称される彼らのリリックは、抽象芸術のごとく解釈が受け手に委ねられる。意味を伝えるだけのせせこましい言語なんて捨ててしまえ、とでも言うかのように、リリックは紡がれていく。思えば2015年の時点で、彼らは次のように歌っていた。

「濃い煙巻かれ/ネガティブはゴミ箱に放る/目と鼻の先映った景色に/感覚と感情センス一絞り」

「周る針告げる終わりが始まり/置き去りの返事不安と安堵/繰り返し過ぎる空白と格闘/誘惑の末路避け決める覚悟/善と悪も消えて急ぐ解決」(「契」より)

舐達麻「契」

 アウトローで退廃的なリリックが醸し出す不穏さ・神秘性。一義的な理解を拒み様々な解釈の余地を受け入れる抽象性。舐達麻のこの“煙のような”魅力は、サグライフに立脚したリアリティに共感・崇拝する層にとどまらず、アート志向の強いラップミュージックリスナーからも広い支持を獲得していった。つまりは、俗に言うヤンキーとオタクの双方がその魅力に制圧されたことになる。マーケットがついてきた。気付けば、皆が咳き込んでいた。

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