舐達麻、聴き手を熱狂させるリリックの神秘性ーー覚悟と信念、そして発露する叙情と哀愁

 煙はまた、炎の終わりでもある。火をおこし、何かを燃やし、最後に現れる現象としての煙。その集大成としての儚さは、日本人の心を魅力的にとらえて離さない。舐達麻は、ここ十数年の国内ラップミュージックの結実として、行き先を示す煙のごとくどこかを向いている。

 振り返れば、ある時からヒップホップはラップミュージックと呼ばれるようになり、様々なジャンル内ジャンルを生み、リスナーは散らばっていった。ブーンバップ、ギャングスタラップ、ポエトリーラップ、ジャジーヒップホップ、トラップ、エモラップ。MCバトルブームもあり、リスナーの数は着実に拡大しつつも、ジャンルごとの分断が起こり島宇宙化していた最近のシーンにおいて、ここで舐達麻はそれぞれをつなぐ存在として絶妙なポジションに立ったと言って良いだろう。確かに、BUDDHA BRANDがシーンの中心にいた頃のヒップホップは、時を経て、今やBAD HOPへ、Creepy Nutsへ、ゆるふわギャングへ、あらゆる方面へと進化を遂げジャンルを拡張していった。しかし舐達麻の音楽は、サンプリングをベースにしたトラックでありながらもトラップ以降の低音を重視したサウンドメイキングが見られ、ブーンバップ/トラップという二極化・二項対立を崩す作風として機能し始めていないだろうか。新しいけれど古い、古いけれど新しい、という彼らのカラーは、多様化したラップミュージックが積み重なってきた2020年だからこそ、その意義を発揮し、新たな方向を示唆している。

「オレは手段は/厭わない/時が流れ儚いが/立ち止まらない/時の流れは/とめどない/想い紙に/託し/数々の名シーン/積もる歴史」(「FUTURE」より)

FUTURE / 舐達麻 (prod.SAC)

 以前、彼らがあるインタビューで「常にスランプです」と語っていたのが印象に残っている。膨大な量のトラックからインスピレーションに適うほんの一握りのものだけをセレクトし、リリックを書きまくり、筆を走らせては捨て、ひたすらにストイックに創作を続ける。苦しみの中からしか創作は生まれない。「BUDS MONTAGE」でBADSAIKUSHは「実力は努力の数/見れば分かる奴と奴」と吐く。その覚悟と信念は、多くの人の胸をうつ。

 「FLOATIN'」のリリックを聴いてほしい。

「登る煙と思惑/するんだろ楽/ひたすらに巻く 殴るよう書く/叩き出す額/派手に転がる/考えてる夜/下向くことなく/喜怒哀楽/悲しみの数/繋ぐリーガル/空が気になる/導きを待つ/派手に転がる/いらねえ警察/達麻の傑作」

舐達麻 / FLOATIN' (Live Version) @新宿BLAZE 2019.12.19

 そして、私たちは知っている。煙は最後、私たちの前から消えていくことを。残される香り。余韻。記憶。「BUDS MONTAGE」のMVは、煙の中で佇むメンバーを捉えたカメラが引いていくショットで幕を閉じる。煙が今たゆたう間に、私たちは、彼らの動きをきちんと見届けなければならない。今唐突に終わり、いなくなってしまうかもしれない彼らの刹那的な瞬間を、私たちは強烈な煙に咳き込みながら、記憶に刻んでおかなければならない。

「完全燃焼/無理矢理/燃やして行きつく先/即座に/青天井/限界はなく/満開に咲く/濃厚な煙から/出る言葉/花開く」(「FUTURE」より)

■つやちゃん
文筆家。化粧品のブランドマーケティングに携わる一方で、
様々なカルチャーにまつわる論考を執筆。
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