ビリー・アイリッシュが現代、そしてコロナ禍を生きる中で 「my future」に込められたメッセージ

ビリー・アイリッシュ「my future」の意味

フィニアスとの強い信頼関係で確かな自信を抱いた2019年のビリー・アイリッシュ 

 2019年、最も飛躍を遂げたミュージシャンといえば、ビリー・アイリッシュに他ならない。1stアルバムである『When We All Fall Asleep, Where Do We Go?』とリードシングルの「bad guy」が世界的な大ヒットを記録し、『第62回グラミー賞』では主要4部門(年間最優秀レコード、年間最優秀アルバム、年間最優秀楽曲、最優秀新人賞)を制覇し計5冠を受賞するという快挙を成し遂げた。その波はこの日本にも届き、(残念ながら延期となってしまったが)待望の単独来日公演は、横浜アリーナという大会場でありながらチケットの争奪戦を巻き起こすに至っている。

 とはいえ、ビリーは現在18歳。制作において絶大な貢献を果たし、今や世界的プロデューサーとなった兄のフィニアスも22歳という若さだ。この目まぐるしく、そして絶大な成功が大きなプレッシャーとなって降りかかり、あるいは"世間"に傷付けられてしまうことで調子を崩してしまっても決しておかしくはない。ビリーがリスペクトを惜しまないジャスティン・ビーバーは、まさにそうして人生を狂わされた一人だった(だからこそ、今の彼は、一人の先輩としてビリーを強くサポートする姿勢を明らかにしている)。

 だが、ビリーの最大の武器はフィニアスとの強い信頼関係にある。一人では抱え込んで増幅してしまうネガティブな感情も、二人で分かち合うことで、無理なく正面から向き合うことが出来るのだ。

 2019年11月に全世界同時配信リリースした「everything i wanted」は、2018年にビリーが「(夢の中で)自殺したにも関わらず、親友にも、ファンにも見捨てられてしまう」というショッキングな悪夢を見たことをきっかけに兄妹で書いた楽曲を原曲として、アルバムリリース後、改めて着手して完成に至った楽曲である。歌詞やMVでは、その悪夢にビリーが苦しむ様子が描かれており、ネガティブなテーマを扱った楽曲のように感じる人も多いかもしれない。しかし、本楽曲のコアとなるメッセージは「でも目が覚めると、あなたがそばにいる(But when I wake up, I see you with me.)」という言葉にある。これから先、どれほどネガティブな出来事が起きたとしても、フィニアスがいる限りはきっと大丈夫だ。成功を踏まえた上での、ある種の所信表明のようなメッセージが本楽曲には込められていたのである。そして、それは過去作において、自己嫌悪や鬱といったネガティブなテーマを扱ってきた自分自身に対する決別のようなものだと言えるかもしれない。

Billie Eilish - everything i wanted

「今の自分が出来ること」を自覚し、より強くメッセージを発信する存在へ

 「everything i wanted」以降、ビリーは自分が広く声を届けられる存在であることを自覚し、より強くメッセージを発信していくようになる。3月より行われたツアー内で上映する映像として制作され、5月にはインターネット上にも公開された「Not My Responsibility」というショートフィルムでは、服装や体型を批判する、あるいは一見して褒めているようで実は間接的に他者を批判するような人々に対して「私という人間を決めるのは誰?」と問いかけ、「私たちが自分という人間を決める。私たちがその価値を決める。(We decide who they are. We decide what they’re worth.)」と宣言する。

 また、5月25日に発生したジョージ・フロイド氏の死亡事件をきっかけに改めて巻き起こった黒人差別への反対運動である“Black Lives Matter”についても最初から支持を表明し、さらにアンチテーゼ的に生まれた“All Lives Matter”というスローガンを発する人々に対して、激しい怒りを噴出させながら、明確な抗議のメッセージを発信している。

 もちろん、服装や体型に対する批判や、人種差別の問題自体は現代の負の面を象徴する極めてネガティブなトピックである。一方で、今のビリーはそれらの問題と正面から向き合い、自らの手で少しでも良くしようと考え、実際に行動するというポジティブな状態にある。成功を手にし、ネガティブな感情もコントロール出来るようになり、そして18歳を迎えた今の自分には、昔よりもずっとずっと、出来ることが増えているからだ。

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