EP『Angel』インタビュー
ちゃんみなが明かす、コロナ状況下で得た“創作活動の気づき”「自分の物差しが壊れていたら何も作れない」
ブラックカルチャーにはしっかりリスペクトを示したい
ーー今は社会全体が散らかっているというか、現状を完璧に整理できている人はいないと思うんです。作品とは別の話ではありますが、自分を取り巻く環境に対して感じることはありますか?
ちゃんみな:自分が考えている、行動しているだけで十分だと思っていたので、社会に向けた発言は基本的にはしたくないんです。でも、Black Lives Matterに関してはSNSで唯一発信したんですよね。
ーーご自身の音楽ルーツを考える上でも、避けては通れない問題だったということですよね。
ちゃんみな:私はブラックミュージックと深い繋がりのあるラップという音楽を、今日本でやっているという責任感を持っていたから。ブラックカルチャーから影響を受けて今の私があるので、そういうところにはしっかりとリスペクトを示したいな、と。ただ、それ以外のところでスピーカーにはなりたくはないというか、2020年は色んな問題が起きていて、それを考えはしても自ら首をつっこむべきではないなと思っています。
ーーなるほど。作品の話に戻しますが、同時期に制作された「As Hell」もプレイヤー的、当事者的な感覚で作ったのでしょうか。
ちゃんみな:そうなんですけど、ここまで堕ちるのかって(笑)。これは私が立ち直る時のプロセスでもあるんですよ。堕天使のように落ちるとこまで落ちるというか、そこまで行きたいっていう感覚が表れているのかもしれません。あと「As Hell」は『エクソシスト』がモチーフになっているんです。主人公のリーガンは清楚で可愛らしい女の子なんですけど、悪魔に取り憑かれて最初に口にした言葉が「Fuck me」で、歌詞のフレーズもそこから取ってます。
ーー映画からはどのようなインスパイアを受けましたか。
ちゃんみな:やっぱり罪がない人が無差別に悪魔に襲われていくところですね。リーガン本人ではなくて、悪魔を払おうとした牧師様が悪魔と一緒に堕ちるんですけど、彼女自身はそのことを全く覚えていないんです。悪魔に取り憑かれていたとはいえ、周りを傷つけたことも、救ってくれた牧師様のことも知らない。本当はそれが一番悪なんじゃないかって思うんです。そういう善悪が矛盾している物語も、私自身にも置き換えられるなって。私も知らないことは無視してしまうので、そこは自分の残酷なところだと思いますし、少しリーガンと重ねた部分もありました。
ーー善悪が曖昧になっているような感覚は作品全体に共通することかもしれませんね。「Very Nice To Meet You」は恋愛における三角関係のようなシチュエーションを描いていると思うのですが、〈相手を間違えたね〉というフレーズなどに、ちゃんみなさんらしいブラックユーモアも感じました。
ちゃんみな:この曲、男性は怖いって言いますね(笑)。一番わかりやすいシチュエーションだと思いますし、嫉妬や欲望みたいなものが見え隠れしている感じが好きで気に入ってます。でも、女性の方は共感できるかなって思います。〈Very nice to meet you〉〈相手を間違えたね〉と言いたくなるというか。
(“雨”の意味は)端的に言うと神の不在
ーーたしかにドラマチックな場面が出てくる曲ですね。そして「Rainy Friday」へと続きますが、この曲は唯一海外のプロデューサーを迎えて制作されていますね。ちゃんみな:昨年『note-book』を作りにLAに行った時に出会いました。年齢も27歳くらいですごく若いんです。向こうから声を掛けてくれたんですけど、「こういうの作っているんだけど今度一緒に作ろうよ」みたいな感じに言われて。海外のプロデューサーの方が声をかけてくれることはたまにあるんですけど、彼みたいにグイグイくることは珍しいんですよ。音を聴いたらすごく良くて、その後に「日本に旅行に行くからやろう」って言ってくれたのと「俺は愛があればやる」というタイプですごく波長が合ったんです。今回初めて一緒に作ったんですけど、今後メインのプロデューサーの一人になっていくんじゃないかなって気がしています。
ーー今後のキーパーソンになりそうな方なんですね。曲自体はロマンチックなテイストでもあるんですけど、この流れは「Very Nice To Meet You」からの主人公の視点の変化でしょうか?
ちゃんみな:そうですね。
ーー「Very Nice To Meet You」には〈ほらこないだの金曜日/忘れもしない君の/彼といたよ一晩中〉というフレーズがありますが、この金曜日と「Rainy Friday」の金曜日はーー。
ちゃんみな:同日です。
ーーなるほど、そう考えるとより深いですね。
ちゃんみな:「As Hell」も最後に雨の音を入れていて、「Angel」にも〈また雨の夜にはおいでください〉という歌詞があったりと、雨というキーワードが全ての楽曲に共通しているんです。
ーー雨というのは、この作品においてどういう位置づけですか。
ちゃんみな:端的に言うと、神の不在です。神様がいないから助けがこない状態と言うんですかね。〈また雨の夜にはおいでください〉には、「また悪事をしにぜひ来てください」という意味合いもあるので、すべてはAngelだけが知っているっていう。この歌詞に対してみんながどう解釈するのか、私自身も受け手の気持ちを想定して作っていないので、一人一人に「聴いてみてどんな気持ち?」って質問していきたいです。
ーー全てが繋がっているんですね。それと今回はシンガーとして、歌唱面にも磨きがかかっていますね。ヒップホップやR&Bがベースにあると思いますが、日本語の歌として歌詞の解像度が高まっているというか。
ちゃんみな:「Angel」に関しては叫びに近い感覚でしたけど、「Very Nice To Meet You」「Rainy Friday」、「As Hell」はそれぞれ言葉のニュアンスをいつも以上に気にしながら録りました。
ーーボーカリストとして幅が広がった感覚はありますか。
ちゃんみな:自分ではあまりわからないんですけど、ボイトレのりょんりょん先生(佐藤涼子)は上手くなったって言ってくれます。私のことを自分の娘みたいに接してくれるんですけど、常に「あんたは女豹でいなさい」って仰っていて。私が少しでも女豹じゃなくなると、「女豹でしょ!」ってしつけをしてくださるんです(笑)。あと「オーバーに演じる」ってよく言われるんですけど、それにすごくインスパイアされています。
ーーなるほど。この4曲通して言えるのは、過酷なことを歌っていても聴き手はパワーをもらえる気がするんです。ちゃんみなさんは、そういう音楽の力を考えることはありますか?
ちゃんみな:もちろんあります。音楽の力は歌手を目指していた時、言ったら1歳半の時から確信していて。音楽には魔法があって当たり前だろって思っています。
ーーその音楽の力を自分の中から生み出すこと、ご自身が納得するものを引き出すのは大変ではないですか。
ちゃんみな:それが大変ではないんですよね。逆にそれしかできないのかもしれないですが。特に今回は呼吸するように作り終えた感覚があるので余計にそう思います。ただ、いつもと違う作品をリリースした後にどういう気持ちになるのか、次の作品のイメージはまだわからないですけど、これから自分の中で何が起こるのかは楽しみでしょうがないですね。