Mrs. GREEN APPLE、「フェーズ1完結」が示すものとは? 音楽雑誌『MUSICA』編集長・有泉智子による寄稿文

 7月8日、初のベストアルバム『5』がリリースされて祝福ムードに湧く、まさにその当日の夜21時、新曲「Theater」のMusic Video公開直後に突如「活動休止」を発表したMrs. GREEN APPLE。この活動休止は、今回のベストアルバムをもってバンドがフェーズ1、つまり第1段階を完結したことにともなって設けられたもの。言い方を変えれば、これまでのフェーズ1とこの先に展開するフェーズ2とを明確に区切るために、バンド自身が意図的に打ったピリオドだと言っていい。発表と同時にメンバーのSNSアカウントも停止するなど、そのやり方は徹底されている。

Mrs. GREEN APPLE - Theater

 活動休止を発表するということは、アーティストにとってデメリットとなることも多い。もしかしたら、休止というニュースで世間にインパクトを与えられるとともに、次のアクションの際に「活動再開」という花火を打ち上げることができるメリットがあるんじゃないかと思う人もいるかもしれないが、人の心理はそんなに簡単なものでもない。どんな性質のものであれ休止発表というのは少なからずファンにショックを与えるし、熱心なファン以外のライト層においては、一度インプットされた「休止」という情報のインパクトは意外としぶとく残り続けるものだったりもする。にもかかわらず、敢えて活動休止発表をすることを選んでまでMrs. GREEN APPLEが「フェーズ1完結」を強く宣言し、その上で来たるフェーズ2へ臨みたいと考えたのは何故だったのだろうか。

 2013年にバンドを結成、インディーズデビューとメジャーデビューを同じ2015年に果たしている彼らは、今年でデビュー5周年。今回のベストアルバム『5』がBillboard 総合アルバムチャートやオリコン週間合算アルバムチャート、あるいはLINE MUSICの週間アルバムチャート等で1位を獲得し7冠を達成したことからもわかる通り、Mrs. GREEN APPLEのキャリアはいたって順調だ。YouTube上の映像コンテンツの総再生回数は約3億9,000万再生に上り、ベストアルバムにも収録された「インフェルノ」は6,000万再生を突破(同曲はBillboard JAPAN HOT Animation の2020年上半期チャートでも、LiSAの「紅蓮華」、Official髭男dismの「イエスタデイ」に続き、3位にランクイン)。ベストアルバムのリリース前、昨年の12月から今年の2月にかけては、東京・神奈川・大阪・名古屋で計7公演にわたるアリーナツアーを全箇所即日ソールドアウト、のべ8万人を動員する形で成功させている。特に10代のリスナーが多く、彼ら彼女らにとって音楽へのひとつの入口の役割を果たしているバンドであることも特徴のひとつとして挙げられる。

Mrs. GREEN APPLE - インフェルノ(Inferno)

 メンバー自身が様々なインタビューでこの5年間を「爆速だった」と振り返っている通り、彼らはデビュー以来とても精力的に、とてもハイペースでリリースを繰り返し、活動を行ってきた。だからこそ突然の活動休止はファンに大きな衝撃を与えたわけだけど、とはいえ、ミセスのすべての作詞・作曲・編曲からコンセプトの構築までを担うバンドの首謀者・大森元貴の中では、「デビュー5周年にベストアルバムを出してフェーズ1を完結させる」ということは、かなり初期の段階から構想として思い描かれていたことだったのだろうと思う。

関連記事