クロイ×ハリー、ジョン・レジェンド、テヤナ・テイラー……クリエイティビティにあふれた新譜R&B5作
母として、妻として、アーティストとして成長を遂げたテヤナ・テイラー渾身の大作!
Teyana Taylor 『The Album』
先行シングル2作品を前回ピックアップしたテヤナ・テイラーが、待望のフルアルバムを6月19日の“Juneteeth”(奴隷解放宣言を祝うアメリカの祝日)にリリースした。(ケラーニ、キアナ・レデ、ブランディ……2020年を彩る女性R&Bシンガーの新譜5選)
アルバムは、テヤナが第一子を自宅のバスルームで早期出産した際に、夫であるプロバスケットボーラーのイマン・シャンパートがかけた実際の911コール(ゴシップサイトTMZがリークしたもの。プライバシーとは一体……)。で幕を開け、「A」「L」「B」「U」「M」の5つの「スタジオ」で構成される(それぞれEP盤として配信リリース)。全23曲1時間17分の大作だ。
愛のかけらを組み立てる「A」、セクシャルな要素の強い「L」、気高く自信に満ちた女性を打ち出す「B」、犠牲を伴った無償の愛への葛藤を表した「U」と、それぞれのスタジオが異なるテーマを持っており、それらを総括するラストのスタジオ「M」に着地する。
さまざまなムードの楽曲が存在するが、一貫しているのは1990年代~2000年代前半のR&Bへのオマージュとなるサウンド。音楽以外でも同時期のカルチャーから着想を得たメイクアップコレクションをコスメティック・ブランドM·A·Cとコラボレーションしたりと(日本でも一部店舗で限定販売中)彼女の愛はよっぽど深いようだ。
Blaque「808」をサンプリングし、ティンバランド&ミッシー・エリオットとともに“チキチキサウンド”を蘇らせた「Boomin'」や、ミュージック・ソウルチャイルド「Just Friends (Sunny)」を用いた「Friends」など、その他にもクレジットこそないが、R&Bファンが思わず反応してしまう細かいフレーズの引用が散りばめられている。中でも話題を呼びそうなのは、エリカ・バドゥの人気曲「Next Lifetime」を本人を招いてリメイクした「Lowkey」。すでに恋人のいる主人公が、新たな男性と叶わぬ恋愛感情を互いに抱いてしまう(だから来世=Next Lifetimeで会いましょうというオチ)。原曲のストーリーに忠実なディープソングとなった。
現在第二子を妊娠中のテヤナは、エリカ・バドゥに助産婦を務めてもらい自宅出産を予定しているそう。母として、妻として、そしてアーティストとして。ハーレムに咲くバラはさらに逞しく、美しくなるだろう。
ただいま色んな意味で話題No. 1! R&B道をひた走るオーガスト・アルシーナの新作
August Alsina『The Product Ⅲ : State of Emergency』
女優のジェイダ・ピンケット・スミスと、数年前に「夫ウィル・スミスの公認のもとでの恋愛関係」にあったことを告白し、世間をザワつかせているオーガスト・アルシーナ。
最初は噂を否定していたジェイダだったが、自身がMCを務めるトーク番組『Red Table Talk』で夫のウィルを招き、当時は実質的に夫婦関係が破綻していたことを強調しつつも、オーガストとの関係が事実だったと公認。その際にジェイダが用いた「entanglement=もつれ」という言葉は瞬く間にゴシップワードとして広まっており、今年の流行語のひとつとして台頭中だ。
さて話を主役に戻すと、そんな騒動の1週間前にリリースされたオーガストのアルバムは、EPを除いては実に5年ぶり。深刻なメンタル面の不安定(それを支えたのがジェイダだったとされている)が時間を要した理由だったが、音楽面でのクオリティはデビュー時から変わらず安定している。
地元ニューオリンズをタイトルに冠した「NOLA」や、チョップド&スクリュードを用いた「Rounds」と、冒頭から南部仕様のストリートソウルがひしめき、出世作の「I Luv This Shit」を手掛けたプロデューサーチーム・The Exclusivesとの「Perfect Strangers」や、「自分を信じれないときにも頼れる相手が必要なんだ」という歌詞が例の件を思い出さずにはいられない「Work To Do」など、スロウ~ミッドも充実した内容に。
曲数が多くて通し聴きするのに体力はいるが、そのクリエイテビティには感服するばかり。一連の騒動も逆手に取ったオーガストは今月に入ってからリック・ロスをフィーチャーした新曲、その名も「Entanglement」を発表。R&B人生を地でいくような、正直者のタレントだ。
蒸し暑い夜にじっとり聴きたい、濃厚な大人向けベッドソング集!
Ro James『MANTIC』
ドイツ生まれでニューヨーク育ち。叔母がロージー・ゲインズ(初期New Power Generationに参加したプリンス・ファミリーの歌姫。)という由緒正しき血筋を持つロー・ジェイムス。
ウィリー・ハッチ「Brother's Gonna Work It Out」を下敷きにした2015年のシングル「Permission」がヒットし、BJ・ザ・シカゴ・キッドやルーク・ジェイムスらと並ぶ実力派ソウルシンガーとして人気を集めているが、新作アルバム『Mantic』は、その面目躍如とでも言うべきセクシーなR&Bが大洪水。
D・マイルがプロデュースした「Rain」を始め、「You」で聴かせる塩辛い地声はまさにプリンス節そのもの。極めつけはイントロがプリンス「Let's Go Crazy」風、本編でZappの「Computer Love」とAudio Two「Top Billin'」を力技で掛け合わせるという「Be Mine」。プロデュースを手掛けたサラーム・レミの手腕が光る、オーバー30はイチコロ必至のキラーソングだ。
所属レーベル<ByStorm Entertainment>の仲間であるミゲルと共演した「Too Much」、ブランディーと幻想的に絡む「Plan B」など豪華ゲスト陣に対する立ち振る舞いも見事。最近のR&Bはちょっと軽くて……という人にこそ聴いてほしい、蒸し暑い夜が似合う濃厚なベッドソング集。日本での知名度アップも期待したい。
◾️Yacheemi / ヤチーミ ダンサー / DJ / ライター / タコ神様。 国内~ジャマイカでダンスバトルでの入賞を経験後、 ヒップホップ・グループ「餓鬼レンジャー」 にマスコットとして加入。3密のナイトクラブを中心に年間100本近くのステージに立つ傍らで、地上波TVにも幾度か出演。またR&B音楽にまつわる座学や執筆活動も行うなど、独自のフリースタイル・グルーヴ道を歩む七変化系男子。