『けいおん!』、LiSA、ももいろクローバーZ……Tom-H@ckが引き出すアーティストらの新たな個性

新たな個性を引き出すTom-H@ckの手腕

 Tom-H@ckは、OxTとMYTH & ROIDには明確な個性があるのに対して、楽曲提供においては実に変幻自在だ。経験を重ねることで求められるものに120%で応えながら、ボーカルの魅力を何倍にも増幅させる、作編曲術を身につけている。

 たとえば、「紅蓮華」がロングヒットを続けているLiSAが2015年にリリースしたシングル『Rally Go Round』に収録された「Wake up! Sloth」では、LiSAが作詞を、Tom-H@ckが作曲・編曲を手がけている。ヘヴィロックな序盤から一転、サビではポップに展開し、まるで他人の噂話が聞こえてくるような雰囲気で言葉をまくしたてるパートがあるなど、アイデア満載の構成が実に楽しい楽曲だ。当時のライブでも盛り上がりの鉄板曲として人気を博した。

LiSA「Wake up! Sloth」

 でんぱ組.incが2016年にリリースしたアルバム『GOGO DEMPA』に収録の「破!to the Future」では作曲を担当。同曲は、でんぱ組.incというグループの持つキャラクター性がいかんなく発揮された曲として知られており、高速のBPMで繰り広げられるめくるめく展開と、どこへ向かって行くのか分からないワチャワチャ感が、でんぱ組.incの魅力をさらに輝かせている。

でんぱ組.inc「破! to the Future」LIVE Ver.

 2016年のももいろクローバーZのアルバム『白金の夜明け』に収録された、前山田健一の作詞・作曲による「愛を継ぐもの」では編曲を手がけ、アイドルシーンとアニソンシーンを牽引する両巨頭のタッグに注目が集まった。ストリングスを前面に押し出した壮大さと、次々と変化するビート、高揚感が増していくサビへの展開など、従来の枠を超えた、あらたなアイドルポップスの金字塔と呼べる楽曲になった。

ももいろクローバーZ『Momoclo Mania 2018 -Road to 2020-』「愛を継ぐもの」Day2

 さらに、今年6月にリリースされた、声優・富田美優の2ndシングル『翼と告白』に収録の「砂の世界」を作曲。作詞はMYTH & ROIDのhotaruが手がけ、編曲をZAQとRINZOが手がけるという超強力なナンバー。エレクトリックなサウンドで、どこか神秘的で和のムードも漂う。富田の憂いを感じさせる歌声の特性を、十二分に引き出した楽曲だ。

 そして、今年1月にアルバム『愛とか感情』でアーティストデビューを果たしたニノミヤユイが、8月19日にリリースする1stシングル表題曲「つらぬいて憂鬱」でも、Tom-H@ckが作曲・編曲を手がけている(編曲はKanadeYUKとの共作)。ニノミヤはアニメ『アイカツフレンズ!』で日向エマなどを演じる、声優・二ノ宮ゆいのアーティスト名義。明るく活発なイメージのエマ役とは一転、アルバムでは、胸の奥底の感情を激しく吐露するような「私だけの革命」や、傷つきながらも前に進む切なさを歌ったバラード「光なくても」など彼女自身の作詞曲も収録され、まだ十代である彼女の青く激しい感情が、卓越した歌唱力と共に表現されていた。

【ニノミヤユイ】「つらぬいて憂鬱」Music Video(Full Size )

 「つらぬいて憂鬱」は、打ち込み、スクラッチ音、パーカッション、ブラス、ピアノなど、さまざまな音がスピーディーに入り乱れる、トリッキーかつ緻密なサウンドメイクが実に彼らしい。まるで独り言をつぶやくような歌からのシャウト、耳に残るキャッチーなサビメロなど、どこを切ってもTom-H@ckの大胆不敵な笑みが顔を覗かせている。同曲はニノミヤ自身が声優として出演するTVアニメ『ピーター・グリルと賢者の時間』のOP主題歌でもあり、アーティスト=ニノミヤユイの感性に、声優としての表現力が上乗せされたように感じるナンバーだ。これは、声優・アニソン・アイドルと、多彩な経験を持つTom-H@ckだからこそ引き出すことができたものだろう。

■榑林 史章
「山椒は小粒でピリリと辛い」がモットー。大東文化大卒後、ミュージック・リサーチ、THE BEST☆HIT編集を経て音楽ライターに。演歌からジャズ/クラシック、ロック、J-POP、アニソン/ボカロまでオールジャンルに対応し、これまでに5,000本近くのアーティストのインタビューを担当。主な執筆媒体はCDジャーナル、MusicVoice、リアルサウンド、music UP’s、アニメディア、B.L.T. VOICE GIRLS他、広告媒体等。2013年からは7年間、日本工学院ミュージックカレッジで非常勤講師を務めた経験も。

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