リアム・ギャラガーが辿り着いた円熟の境地 『MTV Unplugged (Live At Hull City Hall)』で知らしめたボーカリストとしての底力
ああ、やっぱりこの人は、なによりもまず素晴らしいボーカリストなんだな、と。改めてそう感じた。音楽以外のゴシップめいた話題が多すぎて忘れがちだが、彼は決して自分の原点を忘れていない。リアム・ギャラガーの『MTV Unplugged (Live At Hull City Hall)』は、この希代のボーカリストの底力をとことん知らしめる、感動的な作品だ。
2019年8月3日、英キングストンのハル・シティ・ホールで行われたMTVアンプラグド・ライブ。リアムは自身の2枚のソロアルバム『As You Were』(2017年)『Why Me? Why Not.』(2019年)からの楽曲に加え、Oasis時代の名曲も歌っている。当日は全14曲が演奏されたが、リリースされるのはそこから11曲をセレクトしたもの。そのうちの1曲「Greedy Soul」は日本盤CDのみに収録されるボーナストラックだ。
ドリュー・マコーネルを中心としたツアーバンドに、女性コーラス隊と24人編成のストリングス・オーケストラ「アーバン・ソウル・オーケストラ」が加わった大所帯。会場はロックには一見そぐわない、100年以上もの歴史をもつ由緒正しいクラシカルなホールだが、そんな肩の凝りそうな状況でも臆せず、まっすぐ小細工なく大らかに歌い上げるボーカルのスケールの大きさは、昔から変わらないリアムの魅力だ。この時点ではまだリリース前だった『Why Me? Why Not.』からの新曲「Now That I've Found You」「Gone」といった楽曲の瑞々しい新鮮さはどうだろう。湧き上がる大歓声は、いかに彼が未だ英国で絶対的な支持を受け続けているかを示している。
やはり聞き物はOasisの楽曲だ。丁寧に噛みしめるように歌うリアムに対して、「オレたちの歌だ」とばかりに会場を挙げての野太い声の合唱が熱い。5曲中4曲で元Oasisの創設メンバーだったポール・“ボーンヘッド”・アーサーズが加わっているのも嬉しいが、2001年以来18年ぶりのライブ披露となった「Stand By Me」など選曲も興味深い。なかでも、もともと兄ノエル・ギャラガーのボーカル曲だった「Sad Song」を、初めてリアムがライブで歌ったのは感慨深い。そこにはノエルに対するリアムの言葉では言い尽くせない思いが溢れている。
Oasisは1996年8月に一度だけ『MTVアンプラグド』に出演しているが、そのときリアムは喉の不調で直前に出演をキャンセル、ノエルが急遽代役で全曲を歌った。今回リアムが取り上げた「Some Might Say」や「Cast No Shadow」は、その時に演奏された曲だ。そのパフォーマンスは大好評で、Oasis及びノエルの評価を大きく高めたが、自分抜きのOasisが絶賛されたことで、リアムが兄に対して名状しがたい屈折した思いを抱いたことは想像に難くない。