内村イタル率いるゆうらん船が示す“僕らの世代”ーーアカデミズムとインディロックの融合が進む2020年代の潮流
内村イタルを中心とする5人組・ゆうらん船の1stアルバム『MY GENERATION』が素晴らしい。エレクトロニクスを導入し、タイトル通りにシカゴの盟主であるWILCOの音響寄りの作品を連想させる「Chicago,IL」、オートチューンを用い、近年のDIRTY PROJECTORS的なR&B/ヒップホップへの接近を感じさせる「鉛の飛行船」という先行配信の曲を聴いた時点で期待はかなり高まっていたが、フォーク/カントリーをベースとしたポップなソングライティングと、DTMによる作り込みが見事に融合した傑作に仕上がっている。本稿では内村のこれまでのキャリアと、ゆうらん船のメンバーの多彩な活動から、彼らの世代の面白さを紐解いてみたい。
1994年生まれの内村がミュージシャンとしてのキャリアをスタートさせたのは、中学時代に組んだバンド「葡萄園」から。くるりの『さよならストレンジャー』に収録されているアヴァンギャルドな小曲から名前を付けたこのバンドは、内村の小中時代からの友人であり、後にゆうらん船のメンバーとなる伊藤里文(キーボード)、永井秀和(ピアノ/葡萄園ではドラム)の3人で結成。高1の冬に出場したイベント『ヨコハマフッド!』で一部関係者から称賛を浴びたものの、内村以外の2人が受験の道へ進み、活動は頓挫していた。
その後、一人でもミュージシャンの道を志した内村は、2012年の「閃光ライオット」に出場し、審査員特別賞を受賞。2014年に「内村イタル & musaasaviband」名義でセルフタイトルのミニアルバムを発表した。本作にはプロデューサー的な立場として、現在藤原さくらの活動にも関わるayU tokiOこと猪爪東風(ギター、コーラス)、後にYogee New Wavesに加入するJAPPERSの上野恒星(ベース)、東京藝術大学音楽学部作曲科に進学した永井秀和らが参加。シンガーソングライターとしての内村の才能が伝わる好盤に仕上がっていた。
それでも、内村の「バンド」に対する想いは、もっと言えば、「葡萄園」に対する想いはずっと心の内で燻っていたのだろう。2016年に内村と伊藤に加え、Gateballersの本村拓磨(ベース)、Wanna-Gonnaの砂井慧(ドラム)を迎えて、ゆうらん船を結成。伊藤の留学、藝大を卒業した永井の加入、伊藤の帰国を経て、「葡萄園」の3人が再び集結し、ツインキーボード編成へと移行すると、昨年は『フジロックフェスティバル』の「ROOKIE A GO-GO」に出演するなど、徐々に実績を残しながら、遂に1stアルバムの完成へと至ったのである。
ゆうらん船のメンバーの中でまず最初に注目したいのが、内村とは小学校時代からの友人である永井秀和(名前は「しゅうわ」と読む)。個人でも作編曲家・アーティストとして活動し、「STRANGE COMPOSER」を名乗る彼は、東京フィルハーモニー交響楽団による文化庁主催事業「文化芸術による子供の育成事業」での校歌の編曲、「初音ミクシンフォニー2018-2019」への編曲家としての参加、「日本の伝統的な楽曲を親しみやすく編み直すことをコンセプトにしながら、クラシックの枠に捉われない新しい世界観を世界に向けて発信するプロジェクト」として、N nullsを結成するなど、幅広い活動を展開。ゆうらん船ではベーシックの作曲こそ内村が担っているものの、和音の使い方などは永井のアイデアも大きいように思われ、バンドにアカデミックな要素を持ち込んでいると言えよう。
近年は藝大出身の音楽家がポップミュージックの世界で活躍する例が増えていて、近い世代の作曲科の先輩という意味では、米津玄師「海の幽霊」、「馬と鹿」、「パプリカ」(米津玄師バージョン)の編曲協力にクレジットされている坂東祐大の名前が浮かぶ。ここ10年のアメリカのインディシーンを振り返ると、オーウェン・パレットやニコ・ミューリーといったクラシック畑出身の音楽家がポップミュージックの発展に寄与してきたが、それに近い流れが日本で起きていると言ってもいいのかもしれない。なお、永井はもともとジャズやフュージョンのファンでもあるようで、『MY GENERATION』でのプレイからは、その要素も感じられる。