「コロナ以降」のカルチャー 音楽の将来のためにできること

ジェイ・コウガミ氏に聞く、コロナ以降の音楽エコシステム 配信&ライブビジネスから考える課題と今後

トラヴィス・スコットの成功から考える、オンライン上でのマネタイズ

 今年4月、米ラッパーのトラヴィス・スコットは人気オンラインゲーム『フォートナイト』とコラボし、ゲーム内でイベント『ASTRONOMICAL(アストロノミカル)』を開催。複数回に渡り実施されたこのバーチャルイベントには、全世界から約2700万人以上が参加したと報告され大きな話題となった(参照)。

Travis Scott and Fortnite Present: Astronomical (Full Event Video)

 トラヴィス・スコットと『フォートナイト』の成功を受けて注目したいのは、コロナ以降、バーチャル上でのアクションによる広告や収益も重要になっていくのではないか、という点だ。果たして、これらは新たなエコシステムとして期待できるのか。課題なども含め、ジェイ氏は以下のように語る。

「トラヴィス・スコットと『フォートナイト』の成功例は、世界の音楽業界にとっても衝撃的な出来事でした。そして、新たな課題や可能性も浮き彫りにしてくれたと思います。音楽業界は、これまでバーチャルライブで稼ぐ仕組みを作ってきませんでした。バーチャルライブやオンラインイベントは、今後スタンダード化が進むはずです。そして、メジャーレーベルと契約するアーティストにとっても、バーチャルライブに参入するため、著作権の保護や収益化の仕組み作りは重要になっていきます。収益化を考える際、トラヴィス・スコットのような大物アーティストばかりに目が行きがちですが、ニッチなジャンルのアーティストも、すでに多くの成功事例を残しています。人気アーティストの手法をコピーするのではなく、自分たちのファンに最適な仕組みを作ることがアーティストにとって大切です。また一方で、音楽業界は、バーチャルライブで投げ銭やチケット以外でのレベニューシェアシステムの構築を早急に作らなければなりません。具体的には、投げ銭の分配、著作権収入、バーチャルグッズ関連のライセンス(IP)からの収入です」

 確かに、オンライン上でのアクションは目まぐるしいスピードで発展していく。ここ日本でも、LDHとサイバーエージェントがタッグを組み、定額動画配信サービスをスタートさせるというニュースがアナウンスされたばかり。少し前には東方神起をはじめとするSMエンターテインメント所属アーティストがNAVERのV LIVEを用いた『Beyond LIVE』に出演し、AR技術とリアルを融合させたパフォーマンスを見せてくれた。実際のライブやイベントが本格的に再開されることを願いつつ、今後は現実以上のリアルを体感できるオンラインの世界に対応していく術も、私たちは身につけていくべきなのかもしれない。

 では、バーチャルをはじめ、オンラインの世界ではどのようにマネタイズを考えていくべきなのだろうか。ジェイ氏は具体例を挙げながら、そこから先の可能性についても答えてくれた。

「マネタイズを考えた場合、プラットフォームをどれだけ柔軟に併用できるか、がカギになります。例えば、ライブ配信の場合、チケット制を導入しつつ、地域限定公開にするツールを組み込めば、海外の特定の地域のファンにリーチができます。同じように、時間帯で分けて配信もできますし、プラットフォーム毎にテーマを変えての配信も可能です。さらに中長期的に見た場合、収益化に繋がるのは音楽ストリーミングです。特に著作権を自分で持てるインディアーティストであればチャンスは広がるでしょう。マネタイズを実現する仕組みとプラットフォームの掛け算で、組み合わせの可能性はさらに増えていきます」

これからのライブビジネス全体の見通し

 5月中旬、Live Nationはコロナの影響を受けはじめた1-3月期の業績を発表。約8000本以上のライブやフェスが影響を受け、その内の80%、約6500本が延期、1500本が開催中止になったと報告した(参照)。日本では、スポーツや演劇含め、5月いっぱいまでで15万3000本が中止、被害総額3300億円と伝えられている(参照)。

 6月19日よりプロ野球が、7月4日にはサッカーJ1リーグがそれぞれ無観客などの対応を取りながら開幕される。音楽ライブ/イベントに関しては、政府や団体がライブハウスなどにおけるガイドラインを発表してはいるが、明るい展望を期待できるかは難しいところだ。

 とすると、やはり先述したトラヴィス・スコットなどを例に、2020年以内はバーチャルや有料での無観客ライブの配信は今後ますます需要が伸びていくだろう。ジェイ氏も、「現状、多くのアーティストのバーチャルライブや無観客ライブ配信からの収益では、リアルなライブやフェスの一部の損失を補完できても、売上は越えられません。リアルでもバーチャルでも、イベント開催と収益化の仕組みや目的を見直すことが、新しいエコシステムに繋がります」と述べている。

 さらに、ライブビジネス全体の見通しについても、段階的なライブイベントの再開、チケットなどの完全電子化も、今後必要なポイントだという。

「ライブビジネス全体の見通しですが、2020年は大型ライブやツアー、音楽フェスの開催はほぼ不可能ではないでしょうか。2021年実験的に再開するとは思いますが、収益面の回復はまだ遠い。ようやくフルキャパシティでの開催が可能になり、売上も回復に向かうのは2022年。そして、成長軌道に乗るのは2023年からと思われます。それでもライブ再開への需要は高く、小規模なライブから徐々に再開は始まっていきます。短期的な課題は、ソーシャルディスタンスの制約の中でイベントを安全に開催することです。そのためにも、会場運営者やプロモーター間での情報やノウハウの共有が重要になります。また、ライブビジネスとチケットビジネスのデジタル化は必須です。例えば、電子チケットや電子決済の導入、オーディエンスのデータベース構築、プロモーション用ツールの拡充などです。デジタル化は、運営コストを下げることにも繋がります。これらのツールは、サブスクで導入できますので、検討してみてもいいと思います。さらに、チケットノルマのようなリスクを背負う制度を廃止したり、バンドや従業員との契約書をしっかり作るなど、旧態然のやり方を変えることも重要です」 

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