ジェイ・コウガミ氏に聞く、コロナ以降の音楽エコシステム 配信&ライブビジネスから考える課題と今後

ジェイ・コウガミ氏に聞く、コロナ以降の音楽エコシステム 配信&ライブビジネスから考える課題と今後

 コロナ禍における音楽文化の現状、そしてこれからについて考えるリアルサウンドの特集企画『「コロナ以降」のカルチャー 音楽の将来のためにできること』。第10回は「コロナ以降の音楽におけるエコシステム」というテーマのもと、音楽ストリーミングやフィジカル面における展望、ライブビジネスの見通しなどを中心に、今後音楽はどのような”新しい様式”を組み上げていくべきなのかをデジタル音楽ジャーナリストのジェイ・コウガミ氏に話を聞きながら考えていく。

 5月25日、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が全面解除され、企業や店舗など、これまで自粛していた多様な業種の経済活動が再開した。だが、こと音楽に関しては、感染予防の観点から引き続きライブやイベントの中止・延期を余儀なくされ、CDなどのフィジカルの流通も様々な面で影響を受けている。その反面、配信ライブを中心としたオンラインの動きは活性化。「新しい生活様式」が推奨される中、今後、配信などにかける比重はより大きくなっていくのではないかとも予想される。

コロナ以前〜以降における音楽ストリーミングサービスの動向

 まずは音楽ストリーミングサービスから見ていきたい。5月にユニバーサルミュージック・グループが発表したQ1(1-3月期)の業績を参考にすると、同時期での音楽ストリーミングの売上高は昨年度より16.5%増、CDを含むフィジカルは1.4%減、ダウンロードにいたっては26.1%減とある。本稿執筆時点では、緊急事態宣言期間にあたるQ2(4-6月期)の報告は出ていないが、Q1の数字を見る限り、その差はより顕著になるのではないか、と予想できる。

 ユニバーサルミュージック・グループの業績報告を受けてジェイ氏が執筆した記事では、これらの数字の結果により「人気アーティストのライセンスビジネスの成長が期待される」とある。記事公開後の状況も踏まえ、コロナ以降の動きをジェイ氏は以下のように語る。

「ユニバーサルミュージック以外にも、日本を含むソニーミュージック、ワーナーミュージックのメジャーレコード会社は、1-3月期の売上高が伸び、3社とも音楽ストリーミングの売上が好調でした。一方、CDビジネス、ダウンロード、ライブグッズ販売関連の事業はいずれも低下。これらの売上低下は、2020年末まで続くと思われ、2021年にようやく回復に向かうと思われます。ストリーミングが好調な理由は、海外のレコード会社の多くは、サブスクリプション中心の戦略に重点を置いているからです。ですので、今後もサブスクリプション需要が伸びれば、売上も伸びていくと予測されます」

 また、ジェイ氏は「各レコード会社はサブスクリプション以外の低迷を補完するため、今後は売上を持続できる分野に注力するのではないか」と続ける。

「例えば、海外ではアーティストグッズをD2C(消費者に対して商品を直接的に販売する仕組み)で販売する手法や、CDとバンドル販売する手法が増えました。今後日本でも、ツアー開催時以外にグッズを販売する手法が増えると思われます。また、著作権に関するライセンスビジネスも急速に変わってきていますので、注目しておきたい領域です。特にバーチャルライブや、動画配信などに該当するライセンスモデルは旧態然のものが多く、現状の音楽環境に適していないことも多々あります。こうした領域から取りこぼしをなくそうとする新しいサービスが今、積極的に動いています。新規ビジネスを作ることも大事ですが、現状の課題を解決することにもビジネスとして大きな価値があります」

 CDなどフィジカルの発売が延期となる一方、音楽ストリーミングサービスでのヒット曲が相次いだ。日本でも瑛人「香水」、YOASOBI「夜に駆ける」など、すでにリリースされていた楽曲がTikTokやYouTubeにてバズを生み、劇的にその再生数を伸ばしていった。ジェイ氏のコメントにもあるように、今後もSpotify、Apple Musicなどのサブスクリプションサービスを利用する音楽リスナーが増えていくことを想定した場合、そこに活路を見出そうとするアーティストが増えていく可能性は十分にある。

 ちなみに、配信などを通じて得られるアーティストへの対価については、毎年なんらかの形で問題提起がなされている。過去、テイラー・スウィフト、トム・ヨークらは自身のカタログをSpotifyなどから引き上げ抵抗を示したこともある(現在では多くのアーティストがオンライン上で音源を解禁していることから、ある程度の和解と改善がなされたのが伺える)。コロナの影響により自宅で過ごす時間が多くなり、YouTubeなど広告型の無料音楽サービスを使用するユーザーは増加したが、サービス自体からの収益は年々減少傾向にある。コロナ以降、それらを踏まえた上で、アーティストに対価が還元される仕組みを、いま一度見直すべきではないか。音楽配信におけるアーティストへの還元システムやその動きについてジェイ氏は次のように語る。

「還元率と還元システムは、常に世界のインディーズ音楽業界団体や、インディーレーベル、アーティスト界隈で改善に向けた議論が行われています。特にコロナ以降には、ストリーミングからのロイヤリティ還元率をアーティストやクリエイター寄りに変えるよう、業界団体やアーティストたちが声を上げています。イギリスでは5月に、音楽ストリーミングの分配問題を指摘する“#BrokenRecord”キャンペーンという動きが起こりました。これは、アーティストやレーベルがストリーミングサービスを運営する企業に、分配サイクルを速める提案や、公平な分配システムの導入を提言する動きです。

 同じような議論は、ライブ動画配信の収益分配でも起きています。一方、日本ではこれらの課題に対して問題提起さえも起きていないのが現状です。議論を始めるには、ストリーミングの構造と分配の仕組みを深く理解し、現状を改善する代案のシステムを提案する必要があります。日本でも、分配率に不満があるのは理解しますが、代案を作れないと議論も始められないでしょう。まずはアーティストやマネージャー、レーベル含めて音楽シーン全体で、ストリーミングを深く理解することが重要課題です」

 一部ではコロナの影響により音楽ストリーミングが減少したと報じられていたが、ビルボードが報じた米ニールセンミュージックによるMRCデータのレポート(参照)によれば、外出規制(ロックダウン)に突入後、リスナーは「より新しい音楽を欲している」こと、「音楽サブスクリプションサービスやマーチャンダイズを通してアーティスト投資を前向きに捉えている」ことが判明している。消費者の気持ちを丁寧に理解したアクションが求められる中、コロナ以降、音楽ストリーミングサービスはどのように展開していくべきなのだろうか。

「5月以降、音楽ストリーミングの再生傾向は、一時の減少から立ち直り、増加に向かい始め、2-3月のロックダウンが始まって以降、音楽ストリーミングの利用方法が激変しました。通勤、通学、ジムや運動時、モバイルでの再生が無くなり、自宅での再生や、TVやゲーム機での再生が伸びています。家族で併用する使い方も増えました。巣ごもり消費が生まれ、サブスクリプションの需要が急増したので、利用者数も伸びています。これらの変化に伴い、聴かれる音楽の種類も変わりました。例えば、コロナ以降はカタログや旧譜の再生が伸びていて、音楽サブスクリプションは確実にさらなるマス化が進んでいる。音楽エコシステムの中心である音楽ストリーミングとサブスクリプションの存在価値が、業界内でさらに高まっています。音楽企業は2020年内に、サブスクリプション向けの戦略を見直す必要があるでしょう。しかし、コロナの影響で景気低迷が始まれば、音楽消費の萎縮が起こる可能性があります。そうならないために、レコード会社や音楽出版社はストリーミング利用者が求める音楽視聴に最適化した提案を、スピード感持って展開することがまず重要。音楽需要を伸ばす取り組みを続けるためには、スピードが大事なのです」

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