SiM、縦横無尽に突き進む5thアルバムの根底にあるものとは 音楽性の全面開放で露わになった、究極の“SiMらしさ”
昨今、情報の流動化とともに、あらゆる“流行り”の入れ替わりがますます速まっている。それは、CDからデジタル配信・ストリーミングサービスへの移行をはじめ、リスニング環境の変化が著しい音楽全般には大いに当てはまることだ。TikTokなどの普及も相まって、流行がどこから生まれるかもわからない。そんな中、特にレコード時代、CD時代とサバイブしてきた“ロックバンド”に求められることは何だろうか。もちろん時代の最先端にサウンドやリリース形態を合わせていくことは、多かれ少なかれ必要なことである。しかし、それ以上になぜ音楽をやっているのか、バンドの核を形成するものは何なのか、といったところに改めて立ち返ることが非常に大切になってきていると思う。その核の部分に1点集中して楽曲が研ぎ澄まされていくこともあれば、ルーツを軸にしてますます自由に音楽性を開花させていくこともあるだろう。SiMの4年ぶりのフルアルバム『THANK GOD, THERE ARE HUNDREDS OF WAYS TO KiLL ENEMiES』は、後者をとことんまで押し進め、ロックバンドとして新たな扉をこじ開けた凄まじい作品になっている。
まず、アルバムを聴いて心底驚いた。パンク、レゲエ、ハードコア、ヒップホップ、ダブステップ、ドラムンベース、インダストリアル、ヘヴィロック、メタル、R&B、ソウル、スカなどなど......全13曲のベクトルはかなりバラバラで、内包するジャンルを並べ出したらキリがない。SiM史上最も潔いメロディックパンク「BASEBALL BAT」から、ロカビリー「BLACK & WHiTE」、そしてヴァイキングメタルからグランジまでを接続するような「YO HO」もある。1曲の中での展開も目まぐるしく、ごった煮というより劇薬のような強烈なインパクトを持っていて、アルバム自体どのような形で着地するのか、聴き終わるまで全く予測もつかない。だが、それは散漫だという意味では一切なく、むしろアルバム全体は不思議な統一感に彩られており、SiMが今リリースすることの必然性に満ちているのだ。
そもそもSiMは、フロントに立つMAH(Vo)のむき出しな獰猛さを音楽化してきた傍ら、自身のオリジナリティや役割を自覚し、シーンの中でどのような存在であるべきかというバランス感覚に非常に長けたバンドであった。今作はそうした俯瞰の目線を度外視し、好奇心のままにやりたいことを詰め込んだようなアルバムだが、その縦横無尽な自由さこそが、ハードコアパンクとレゲエを融合させたSiMのミクスチャー精神にしっかり共鳴している。混沌としていること自体が、SiMの個性としてアルバムの軸になっているのだ。すなわち、今作でバンドは方向転換して変わったのではなく、根っこに持っていた音楽性と精神性を全面開放したことで、純粋なる“本来の姿”を手に入れたと言っていい。
そして、前述した統一感の決め手になっているのが、MAHの歌。前作『THE BEAUTiFUL PEOPLE』で確立された、メッセージ性も含めた歌ものとしての強みを活かし、カオティックな展開からメロディアスなサビへの繋ぎが各曲の聴きどころになっている。逆に言えば、歌への確信をここまで深めることができているからこそ、様々な要素を組み込んでも軸がブレないのだろう。「HEADS UP」のスカ調の展開から〈wa da da dang〉というコーラス、間奏の強烈なブレイクダウンから開放的な歌メロまで一気に繋げてしまう思い切りも、SiMの新たな持ち味になっている。