「次世代レーベルマップ」Vol.2
SUPER BEAVER、sumikaら所属レーベル<murffin discs>志賀正二郎氏が語る、“日本語のメッセージ”を大切に歩んだ軌跡
バンドシーンを引っ張り、ライブハウスの“今”を担う気鋭のレーベルを取材する連載「次世代レーベルマップ」。第2回は、SUPER BEAVER、sumika、マカロニえんぴつ、Czecho No Republicといったバンドが所属する<murffin discs>より、レーベルの立ち上げを担い、現在はレーベルヘッドを務める志賀正二郎氏を迎えた。立ち上げ当初から現在に至るまでの経緯、自身の音楽遍歴や未来に向けた眼差しなどを語ってもらうことで、変化の激しい時代の中で信念を貫き、シーンを賑わすバンドを多数輩出する<murffin discs>ならではの特色をしっかり感じられるインタビューとなった。なお、次回からは、<murffin discs>内のレーベル<[NOiD]>代表・永井優馬氏、<TALTO>代表・江森弘和氏と3回連続で迎える予定だ。(編集部)
レーベル立ち上げ〜現体制に至るまで
ーー今の仕事に就かれるまでの経緯からお伺いしてもいいですか。
志賀正二郎(以下、志賀):もともと僕自身もバンドをやってまして、とあるインディーズレーベルにアーティストとして所属してたんですけど、当時の社長に「お前、裏方の方が合うな」ってズバッと言われて。特性を見抜かれたのかわからないですけど、それが転機になって裏方に回りました。それから今の会社(株式会社エッグマン)の社長に誘われて移ってきたっていう経緯があります。
ーーそこから<murffin discs>はどうやって立ち上がったんでしょう?
志賀:移ってきてからはライブハウスのブッキングも並行してやってたんですけど、社長からは「レーベルやりたいよね」と当初から話をされていたので、そこで<murffin discs>が立ち上がって。カッコいいなって思う音楽を発信するレーベル作りを始めようと思ったんですけど、最初は鳴かず飛ばずで全然上手くいかなかったんですよね。
ーーきっかけを掴んだ瞬間はいつだったんでしょうか。
志賀:Czecho No Republicの前身バンドにあたるVeni Vidi Viciousと出会った時ですね。社長がブッキングしてeggmanに出演してたんですけど、すごくカッコいいなと思って。その周りにはちょっとしたシーンもできていて、そこにThe Mirrazもいたので、彼らを絡ませたら面白いんじゃないかと思って、The MirrazとVeni Vidi ViciousのスプリットEP(『NEW ROCK E.P』)を2007年に出したんですよ。それがノンプロモーションだったけど1,000枚すぐに売り切れちゃって、「なにこれ、すごい!」と思いました。それでレーベルもいい感じになるかもなって。
ーーたしかに当時の感覚からすると、Czecho No RepublicやThe Mirrazって新しい感性を持ったバンドたちでしたよね。具体的にはどういうところに惹かれたんでしょうか。
志賀:例えば海外でいうとThe Libertinesみたいな、生意気な雰囲気で、0点か100点のライブしかできないようなロックバンドっているじゃないですか。そういう感じがあったんですよね。0点か100点しかないけど、それを見たいが故にファンがいっぱいライブハウスに来ていて。100点のライブを見た時の感動はスタッフ側にも伝わってきていましたし、そこをどんどん追求していきたくなりました。
ーーさらに所属アーティストの幅が広がっていったのはいつ頃でしょうか。
志賀:2011年に永井(優馬)が<[NOiD]>を立ち上げたことで広がった気がしますね。僕はもともとオルタナティブロックがすごく好きで、NUMBER GIRLとかMO'SOME TONEBENDERを通ってきたので、いわゆるJ-POP、J-ROCKにそんなに触れていなくて(笑)。そこで、eggmanで働きながらSUPER BEAVERやsumikaの前身バンドをブッキングしていた永井から「レーベルをやりたい」っていう話が持ち上がって<[NOiD]>ができて、間口が広がったと思います。
ーーそこから2016年に<TALTO>が立ち上がる流れに繋がっていくんですね。
志賀:そうですね。もともとうちのアーティストと、<TALTO>を担当しているエモさん(江森弘和)が前の会社でマネジメントしていたアーティストがよく一緒にツアーを回ってたんですね。エモさんとはすごく息が合って、同じようなアティチュードを持ってる人だなと思って毎週飲みにいって意見交換していたんですけど、エモさんが前の会社を辞めるっていう話になったので、「じゃあうちに来てもらえないですか?」って誘ったんですよね。それで<TALTO>が立ち上がって。僕が東京カランコロンやSAKANAMONをすごく好きだったっていうのも大きいです。
ーー体制が整ってきたことで、<murffin discs>はどんな特色のレーベルになっていると感じますか。
志賀:最初に立ち上がった<mini muff records>はオルタナティブロックの趣向が強い印象です。<[NOiD]>は比較的J-POP寄りなバンドが多くて、<TALTO>はJ-POPなんだけど癖強め、みたいなジャンル分けが勝手にされていったというか。それぞれ担当者の色がちゃんと反映されてると思うんですけど、レーベル全体としてはオールジャンル網羅になってきているかもしれないですね。
ーーおっしゃる通り、決して音楽性を限定しないことが<murffin discs>を特徴づけていると思うんですけど、ご自身が理想としていたり、憧れていたのもそういうレーベルだったんでしょうか。
志賀:僕が本当に好きだなって感じていたレーベルは、日本コロムビアの<TRIAD>っていうレーベルで。THE YELLOW MONKEYとかTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTとかクラムボンがいたので、それくらいカッコいいバンドを輩出しているレーベルを目指していた部分はありますね。あと、<Ki/oon>にもギターウルフからL'Arc-en-Cielまでいたので、それくらい幅広いレーベルがカッコいいと思ってました。
「年齢関係なくいいバチバチがちゃんとある」
ーー志賀さんから見て、<murffin discs>の所属アーティストに共通するものって何だと感じますか。
志賀:表現するジャンルは多岐にわたるんですけど、メロディが際立ってるバンドが多いなと思います。レーベルでの暗黙のルールがあって、英詞のバンドはやらないんですよ。僕が日本語詞のバンドに影響されたっていうのも大きいんですけど、日本語のメッセージ力を大切にするバンドがいいなって思っているので。
ーーまさにそれは自分も感じてたところで、歌や言葉でしっかりとメッセージを伝えるバンドが多いですし、それを際立たせているのがグッドメロディだと思うんですよね。
志賀:ありがとうございます。歌詞についてはアーティストと話し合ったりしていますね。ただ、スタッフの話を聞き過ぎてアーティストが失敗するのはよくないじゃないですか。あくまでスタッフはアドバイス程度というか、アーティスト自身が決めてジャッジするのが一番いいと思うんです。乱暴な言い方になってしまいますが、もし仮に成功しなくても、自分たちの責任だってことははっきり分かるわけですから。たぶん自分たちでディレクションできないバンドは、これからダメになっていくんじゃないかと思うし、アーティスト自身がちゃんと考えないといけない時代に来てるんじゃないかなって。
ーーそういった意味では、どのように時流と対峙しながらやってきたと感じますか。
志賀:あんまり時代の流れを汲んでる感じはしてないですね。それこそSUPER BEAVERとかsumikaって、流行とは関係ない音楽だと思うんですよ。ひたすらグッドミュージックをやっている感じなんで、流行にとらわれてる気はあんまりしなかったです。Czecho No Republicとかも時代の流れに乗ってたわけではないので、自分たちが好きだからひたすらやってきた印象の方が強いかもしれないです。
ーーフェスブームの中でも、しっかりライブハウスに根ざして集客を上げていきましたよね。
志賀:そこは単純にフェスに誘われなかっただけだと思います(笑)。でも、自分のライブでしっかりお客さんをつけてから誘われようねっていう想いは脈々と繋がってきているので、ライブハウスをすごく大切にしているというか。自分たちのライブをしっかり作り上げてから、大きな舞台で披露しないと、結局フェスでもお客さんを掴めないんじゃないかなって思うんですよね。
ーーバンドの地力を養うということですよね。
志賀:はい。新人バンドを育てなきゃいけないからこそ、まずは先輩バンドが揺るがないことも大切だし、そこが崩れちゃったらレーベル自体が崩れると思うんで。オーディション(『murffin AUDITION』)が始まったのが2014年で、初回はAmelieが優勝しているんですけど、状況のいいバンドが増えてきたからこそ、そういうアーティストに影響を受けた新人バンドもどんどん出していって盤石の状態にしていきたいっていう狙いもあったんです。バンドって人間なんで解散も起きるし、やっぱり状況が悪くなる時が少なからずあると思うんですよ。だから次々ちゃんと育てていかないと、いつか上の世代のバンドがいなくなった時にどうするんだっていう話もあるので、そうなる前にどんどん新しい才能は発掘しなければなっていう感じですね。本当はヒップホップとか打ち込み系とかボカロのアーティストもやってみたいんですけど、オーディションでのうちのスタッフの意識として、最終的にメロディがいいバンドにフォーカスされるんだなっていう感じはしましたね。一昨年はosageとなきごと、去年はSherLockが選ばれてますけど、やっぱりメロが強いっていうのが一致してるというか。
ーーなるほど。でも、なきごと辺りを聴いていても、言葉の感覚とともにメロディも更新されてきている感じがしました。
志賀:本当にそうですね。彼女たちはちょっと天才肌なんで、あの言葉のチョイスはなかなか出てこないなって思います。メンバーにも言ったことがありますよ、「こんな歌詞書けないわ。まともじゃないわ」って(笑)。
ーー(笑)。そうして個性の強い新人がいることで先輩バンドの良さも立ちますよね。
志賀:実は年に1回、レーベルの全アーティストを集めた新年会をやるんですよ。いわゆる新人バンドが先輩たちにご挨拶する場ですね。オーディションから入ったアーティストは何を話していいのか分からず緊張しますよね。でも先輩から声をかけてもらって色々と有難いお話をいただいている感じです(笑)。ちょうど今の30代中盤くらいのアーティストって、対バンの打ち上げとかで音楽論にすごく熱中してるというか、生真面目にやってきているところが出るんだなって思いますね。でも、そうやって先輩たちが音楽に厳しいのは、下の世代にも一番勉強になってると思いますし、シビアに考えて音楽やってるから今の地位があるんだっていうのを目の当たりにできるのは、いいことなのかなって。この間も事務所で、先輩バンドが後輩バンドのメンバーに「今回すごくよかったね」って声かけて、楽曲のフィードバックとか意見交換をしっかりやっていて。褒めるところはちゃんと褒めるし、「もうちょっとこうした方がいいんじゃない?」みたいにアドバイスしているのも見たりします。先輩同士もいいライバル関係ですし、年齢関係なくいいバチバチがちゃんとあると思いますね。