PizzaLoveが明かす、「アイマユウタ」から1stアルバム『Young Pepperoni』に至るまで “リアル”を追求するスタンスも

PizzaLove、1st ALに至るまで

 “YouTube発のギャグラッパー”というイメージだけでPizzaLoveを捉えているなら、彼の1stアルバムとなる『Young Pepperoni』は、そのイメージを覆す作品になるだろう。確かに先行してYouTubeにアップされた、パチスロをテーマにした「隣のGOD」はじめ、このアルバムの前半部は、彼が所属するユニット・Tajyusaim Boyzでの楽曲や、ソロとしてリリースされた「寿司買う。」などの、コミカルであったりある種の“ダメ人間”ぶりが押し出され、彼のこれまでのイメージを踏襲してる。しかし後半での「諦めましょう」や「親父の歌」などでは、自らの生い立ちやメッセージをしっかりと伝えるスタンスが顕著になり、これまでのPizzaLove像を塗り替える作品性が強く印象に残る。その意味でも“これからのPizzaLove”を期待させるに十分な、密度の濃いフルアルバムだ。(高木"JET"晋一郎)【※記事最後に読者プレゼント情報あり】

自分のリアルな部分を形にしている気持ちが強い

ーーいろいろなインタビューですでに語られていますが、このサイトには初登場ということなので、まずPizzaLoveさんがラップを始めたきっかけからお伺いできればと。

PizzaLove:始めたのは3年ぐらい前ですね。Lil Pumpとかに憧れてラップを始めました。影響を受けた理由は、曲ももちろんなんですけど、MVの内容やインスタのストーリー、SNSでアップされる生活ぶりもありましたね。その生活に憧れたし、「もしかしたら俺もワンチャン出来んじゃね? いけんじゃね?」と思って。それまでは全く音楽の経験も無かったし、SNSやYouTubeで何かを発信することは全くしていなかったんですけど、なんかそう思ったんですよね。その時はやってることはパチンコしかなかった、というくらい(笑)

ーー「しかなかった」はヤバいですね(笑)。どれぐらいの頻度でギャンブルを?

PizzaLove:表現としておかしいかもしれないですけど、週8とか週10って感じですね。

ーー“Eight Days A Week”というか“一週間に十日来い”というか(笑)。

PizzaLove:朝から並んで負けて、 昼に誰かに土下座してお金を借りて、夕方に1回リベンジ! みたいな。そういう日々を繰り返してましたね。

ーー『賭博黙示録カイジ』や最近話題の『連ちゃんパパ』みたいな話になりそうなので、Lil Pumpに話を戻すと、PizzaLoveさんがYouTubeにアップした「寿司買う。」はLil Pump「Gucci Gang」のオマージュ的な部分がありますね。

Pizza Love "寿司買う。" 【MUSIC VIDEO】

PizzaLove:多分、最初に書いたリリックは「寿司買う。」じゃないかな。最初にYouTubeにアップしたのは「I`m Juggler」だったと思うんですが、作ったのは「寿司買う。」の方が先だったはずです。

ーー その意味では、曲を作り始めた時から、制作と発表は直結していたというか。

PizzaLove:曲を作ったら周りの友達に聴かせて、「ウケんだけど!」って言ってくれたら、そのまま発表に繋がるって感じかもしれないですね。

ーー最初期の時点から、夢や理想といった「大きなことを語る」のではなく、「半径100メートルの世界」を歌っていますね。

PizzaLove:とにかく「リアルなことを歌いたい」って気持ちなんですよね。「寿司買う。」も、俺のリアルがそういう感じだからあの内容になって。だから「ギャグを歌いたい」って気持ちでは実はないんですよ。笑ってもらえたら嬉しいし、楽しんでくれれば最高なんですけど、自分としてはあえて「ギャグラップをやっている」っていう気持ちはなくて。それよりも、自分のリアルな部分を形にしてるって気持ちの方が強いんですよね。

ーーそういったリアリズムは、LB-RUGさん、M.A.Gさん、脱退されましたがYoung SEXさんと結成されたTajyusaim Boyzでも顕著ですね。個人的な印象ですが、Tajyusaim Boyzのライブを見た時に、「リボで買う。」のフックをお客さんが合唱してる光景にすごくカルチャーショックを受けたんですよ。個人的にはあの曲は、金銭の貸借から発生する搾取の究極系を歌にしていると思うんですね。バズった曲だからこそ、みんなが盛り上がるっていう部分は当然あると思うけど、そういう経済体制や政策、経済的搾取構造に対して、もう開き直って笑うしか、歌うしかないっていう、やけくそのペーソスやニヒリズムも感じて。しかも、それを生まれた時から不況下にいる世代の子達が合唱してるっていうのは、物凄い光景だなって。

リボで買う。 / Tajyusaim boyz (LB-RUG,Young SEX,M.A.G,PizzaLove) - official Music video

PizzaLove:まあ、他には無い曲ですよね。「聴いて元気になりました」っていう人もいるし、「俺も借金まみれだったけど頑張ってます」みたいなリアクションもあって。とにかく曲を聴いて元気になってくれれば嬉しいですね。

ーーヒップホップだと「昔は俺も借金まみれだったけど、今はラージに稼いでる」といった話が多いですよね。しかしTajyusaim Boyzは「現在進行系で借金を抱えている」ことを明言したのが、新しさだったのかなって。

PizzaLove:ホントに、現在進行形でみんな困ってますからね(笑)。

ーーその意味でも若いリスナーが共感したり共鳴するのは、「成功物語の途中を見ている」っていう部分なのかなって。

PizzaLove:いつかは成功したいですからね。借金全額返済は一つの夢なんで(笑)。

ーーYouTubeの再生回数などを見ると、着実にステップアップを果たしているように思います。

PizzaLove:応援してくれる方々のお陰で、やり始めた頃よりは少しずつ良くなってきてるとは思いますね。始めた頃みたいに呼ばれてもノーギャラってことは無くなったし、今は地方にもライブで呼んでもらえるようになって。「めちゃくちゃ稼いでる!」って感じでは正直ないし、いつもギリギリなんですけど、少しずつ良くはなってますね。

ーーYouTubeで公開され、今回のアルバムにも収録されている「アイマユウタ」ではご自身の電話番号を発表されていますが、あの番号にブッキングの連絡はあったりしましたか?

Pizza Love - 「アイマユウタ」(Official Video)

PizzaLove:結構あったんですよ! いつも通り、面白半分に掛かってきた電話かと思って、「もし~も~し」とかふざけて出たら「PizzaLove さんのお電話ですか? 実はブッキングの件でお電話して……」みたいな、超真面目な電話で、「ヤベえ、なんか外しちゃった……」という時もあったり(笑)。

ーーマイク・ジョーンズが自分の電話番号を曲に織り込んだり、サイプレス上野がラジオで電話番号を発表したり、自分の住所をプリントしたグッズを作ったりという前例はありましたが、YouTubeで発表するというのは新鮮でしたね。

PizzaLove:未だに「YouTube見て電話しました」って掛けてくる人も多いし、実は、いまこのインタビュー中にも掛かってきてますね。多い時は最高で1000件ぐらい掛かってきたんじゃないかな。一分おきぐらいに、携帯がフリーズするぐらい掛かってきてたんで、途中でカウントするのは諦めました(笑)。やっぱり最初はほとんどふざけて掛けてくるんですよ。「あ、ホントに出た!」みたいな(笑)。でも10分ぐらい話してるとみんな真面目な話をしてくれたり、中には人生相談をしてくれる人もいて。今回のアルバムも、「アイマユウタ」を見て電話を掛けてきてくれた人の話から膨らんでいったんですよね。

ーーその経緯を少し具体的に教えてもらえますか?

PizzaLove:中学生の女の子から電話が掛かってきたんですよ。俺も「オイッス」みたいな感じで出て、向こうも「PizzaLoveだ!ウケる!」みたいな反応で。それで「いつも見てます。元気もらってます」みたいな始まりだったんですけど、少しシリアスな話になっていったら、その子のお父さんは色々問題がある、と。それで「私もPizzaLoveさんみたいに明るく振る舞いたいんですけど、どうしたらいいですか」って聞かれて。そこで俺も、ウチも母子家庭で、母ちゃんがシングルマザーで育ててくれたんだけど、それまでは似たような境遇だったんだって話をしたんですよね。ウチの父親も母ちゃんをぶん殴るし、家にもお金を入れない、愛人も作ってて……って。それで、その女の子と話をしたあとに出来たのが、「親父の歌」だったんですよね。そういう相談を受けたなら、自分もそういう境遇だったことをちゃんと書いた方が良いのかな、そして曲を通して、その子にメッセージを伝えられたらいいな、と思ったんです。だからこの曲は自分の生い立ちでもあるんですけど、同じような境遇にあった人や、女性や子供に対する暴力へのメッセージでもあるんですよね。

PizzaLove - 親父の歌【Official Video】

ーーこのアルバムの後半、「諦めましょう」以降の曲は、今までPizzaLoveさんが発表してきた曲とは違う感触のある楽曲が中心になっていますね。そこではシビアさであったり、シリアスさ、ポエジーさなどが中心になっています。このアルバムは「キャラクター的な面白みが評価されるPizzaLove」は前半などで形にはなっているんだけど、全体としては「人間:PizzaLove」という感覚を覚える。だから、「キャラクターとしてのPizzaLove」で全部を押し切らなかった部分も非常に興味深くて。

PizzaLove:さっき話した電話の件も含めて、去年一年でガラッと人生が変わったんですよね。色んな経験もさせてもらったし、その中で、伝えたいことがたくさん増えてきて。だから、笑ってもらったり、ハッピーな気持ちになってもらいたいっていうのは当然あるんですけど、同時にそれ以外にも表現したいことが多くなってきて、それが今回のアルバムになっていったというか。

ーーそれも自分にとってのリアルを追求したということですね。その意味でも、ラッパーとしての、表現者としての自覚が増したが故に、こういった作品が生まれたのかなって。

PizzaLove:そうかもしれないですね。だから自分のYouTubeチャンネルも、MVや音楽をアップするだけにしてて。

ーーいわゆるYouTuber的なアプローチはやめたと。

PizzaLove:新型コロナの自粛期間には、エクスクルーシブとしてMV以外の映像をアップしてるんですけど、以前みたいなおもしろインタビューとか、コミカルな動画だったりはもうアップしないと思いますね。やっぱりやりたいことが変わってきてると自分でも思うし、アーティスト活動に専念したいっていう気持ちもあって。

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