A3!「Home」に宿る“始まりの存在”としての決意 春組メンバーの個性生かす園田健太郎の手腕

 そんななかで今回リリースされた「Home」は、「居場所」や「家族」などのテーマを強く感じさせる楽曲となっている。ミドルテンポの曲は、明るさに加え、より優しく、やわらかなメロディが印象的だ。そして、「Home」というタイトルや〈きっと「いつか」の「どこか」で巡り合えたなら僕らは家族になれる〉という歌詞に見られるように、春組のメンバーが一つになっていくさまを描いており、メッセージ性も強い。

 両親を亡くし、親戚の家を転々としながら、居場所を見つけられずに生きてきた佐久間咲也。自由奔放で、周囲との合わせ方を知らない碓氷真澄。劇作家になりたいと思い続けながら、家計を支えるために夢を後回しにし続けてきた皆木綴。夢中になれることを見つけられずに生きてきた茅ヶ崎至。生まれた国を離れ日本にやってきた、訳ありらしきシトロン。それぞれが寄る辺なさを抱えた5人が、不器用ながらぶつかり合い、助け合っていくことで、自分たちの居場所を手に入れていく。そんな彼らの試行錯誤の関わり合いが、〈言葉の裏 視線の奥 隠しきれない想いすらも受け止めよう〉という詞につまっている。

 〈僕らはまだ それを知らない 独りじゃないそんな毎日を〉。決して順風満帆ではないが、歩き続けていれば芽吹くときがくると信じる芯の強さと、これから楽しいことが起こるようなワクワクした予感は、春組のナンバー全体に通底するものだ。そしてそれは、少しずつ明るく、あたたかくなっていく春という季節にも似ている。

 まっさらな状態から5人が作り上げた、春組というホーム。その功績がもたらしたものは、実は彼らの居場所だけではない。春組の活躍があったことで、崖っぷちだったMANKAIカンパニーは夏、秋、冬組へと続く足がかりを得て、より大きくなっていく。

 2018年にユニットの新テーマとして発表された「春ですね。」では〈春は始まりの季節〉、〈春は再会の季節〉と歌われている。『A3!』の物語が続いていく中で、いつも軽やかに4組の先陣を切る春組は、春の季節と同じく、輝かしい始まりの存在といえる。そんな彼らの道のりを、園田健太郎が手がけた花開くようなメロディは、より華やかに彩っていくことだろう。

■満島エリオ
ライター。 音楽を中心に漫画、アニメ、小説等のエンタメ系記事を執筆。rockinon.comなどに寄稿。
Twitter(@erio0129

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