キーパーソンが語る「音楽ビジネスのこれから」 第14回

CENTRO鈴木竜馬氏が語る、デジタル時代の360度ビジネス「YouTuberがリリースするのは亜流、とは全然思わない」

こういうタイミングだからこそ、エンタメに出来ることがある 

ーー2019年から2020年にかけては、chelmicoのブレイクがありました。

鈴木:chelmicoはまだブレイクとは言えないと思います(笑)。ただ、いい感じで火種が少しずつ大きくなってきてはいます。が、それでも2年は我慢の時期を経験しましたね。彼女たちはCENTROでマネジメントして、メジャーレーベルは<unBORDE>にはなります。そもそも<unBORDE>も、闇雲に新人にサインしていくというのではなく、一緒にやると決めたアーティストをじっくり売っていこうという選択集中型なんですよ。あいみょんだって、ここまで来るのに2年半かかりましたし。ただ、chelmicoを含め、この子は良いって思うスタッフがいれば、どんなに時間がかかっても諦めないことは大事で。ただ、<unBORDE>で稼いでくれてはいても、マネジメント(CENTRO)としてはライブにどれだけ人を呼べるかがビジネスになるので、時間がかかったという印象はあります。やっぱりライブのキャパは一足飛びにはいかないんだ、って(笑)。そこはレーベルとマネジメントで違う時間軸を体験している気はします。

ーーパッケージの売り上げやライブ動員など、人気に火がついたという指標は色々あると思います。その中で鈴木さんはどの指標を重要視しますか?

鈴木:フェスやライブでの動員はビジネスに直接的に影響してくるので肌感としては非常に重要視していますが、YouTubeの再生回数と言うのはわかりやすいですし、これからもっと評価基準としてのプライオリティーは高まっていくと思います。海外に向けてという意味でも一番簡単に使えるインフラだし、YouTube Musicも始まって、これからどんどん面白いことになっていくと思っています。これまでは音楽=MVみたいな世界だったかもしれないけど、我々のようにマルチにやろうと思っている人にとっては、使い勝手の良いフォーマットにもなると思っています。

 そういう意味でも、<unBORDE>時代から変わっていないのは、ビジュアルの大切さですね。音楽だけで語れる素晴らしさを否定はしないし、自分でもそういう感動もあります。ただ、音楽に寄り添ったビジネスをやると決めた時には、画として様になること、エンタテインメントとして何か訴えかけるビジュアルを持っているアーティストをやりたいとは常に思っています。否定ではないけど、僕の場合は音源だけでジャッジをしたり、サインするっていうことはあまりしないですね。

ーーchelmicoも、二人のあの雰囲気が人気のきっかけにあるとも言えますし。

鈴木:やっぱり可愛いというのは重要で、僕を含め、お客さんの心に引っかかる部分も多いと思います。今後は画と音を合わせて買っていく時代がさらに加速していくと思うし、CENTROとしてもそういう火種を探していますね。

ーーバンドで言えば、FIVE NEW OLDともマネジメント契約を結んでいます。

鈴木:FIVE NEW OLDは先日マネジメント移籍をしてきたばかりで、まだ所属レーベルを決めていないんですけど、CENTROで一番海外での成功体験を持っているのは彼らなんですよね。アジアツアーを回って、タイではすでにスーパースターですからね。<トイズファクトリー>の頃も、中国でオフィシャルに音源配信はされていないんだけど、5箇所程度まわって各地で500から600人は集めてしまう。over seasを体現している彼らとスタッフからは、僕らも習うところは多いですね。

ーービジネスの面で見ると、投資から回収までの期間が長くなると思います。そこにも従来のレーベルとの違いが出てくるのでは?

鈴木:それは大変ですよね。音源の制作も昔に比べたら、比較的リーズナブルにできることはあるとはいえ、こういう時代に差し掛かり、やっぱり薄利多売でロングテールなものを狙っていかざるを得ないので。最初の原資のかけ方は潤沢ではないから、一歩間違えると怖いなとは思います。トライもいっぱいしたいけど、さすがにどれもこれも手を出すわけにはいかない。サブスクやYouTubeの回転数で長い目で見たとしても、PL(損益計算書)はどこで切ればいいのか。会社としては、2年後にこれ100万回まわるから(投資しよう)っていうわけには中々いかない。デジタル=身軽なように見えて、そう言った難しさがありますね。

ーーover seasという意味では、海外に音源やYouTubeが突き抜けていくと、回転のあり方も変わってきますよね。

鈴木:結局そこに求めてしまうというか、まさに戦略上リンクはするんですよね。日本は、約1億2〜3000万程度の人口です。Amazon Prime Music、Apple Music、Spotify、LINEMUSIC他で1000から2000万の日本のシェアの取り合いといったら、やっぱり海外に出て行く必要を感じてしまいます。実際、海外のアーティストはビジネスとしてもそこで成功していて、例えば韓国はもちろん、タイやインドネシアでも数千万〜億単位で(再生数を)回している人たちはいっぱいいるわけで。ただ、英語力や発信力の問題もあると思いますが、日本のアーティストにはいないんです。本当はそこに行けた方が圧倒的に夢もあるし、マーケットとしての可能性もある。CENTROには、そこで活躍できるであろうアーティストを集めていって、あとはどう道筋を立ててあげられるのか。当然、ワーナーのグローバルのインフラを使える強みもあるから、ワーナー所属のアジアのアーティストと何かをやりたいなどとも思うし、こっち側も対応できうるアーティストを用意しておく必要がある。そのアーティスト作りをCENTROでやりたいし、まさに今作りかけている状況です。

ーー今後は、CENTROからワーナー全体にそういう変化が波及していくことも考えられますか。

鈴木:そこは波及していかなければならないと思いますね。ワーナーミュージック・ジャパン自体のスタッフ数は200人弱で、世界3大メジャーと言われながらも、ソニーやエイベックスのような巨大空母と比べるとかなり小さい規模感で回しているんです。クルーザー的に小回りがきくというメリットもあるけど、巨大空母はひとつのエンジンが止まっても動き続けることができる。今後利益の上がりも薄くなると考えると、早いうちから分母の数字を大きくしていくことが重要になってくる。僕らが約2年間で見えてきたものが安定してきたら、きっと別のものを見つけていくと思いますし。簡単なことではありませんが、ワーナーと言うクルーザーに何かが起こった時、そこを補填できるサブエンジンの様な立場にもならなければいけないな、と。

ーー世界的に言えば、音楽業界全体の売り上げは伸びていますがーー。

鈴木:でも、そろそろ頭打ちですよね。僕も対外的には業界のロビー活動含めてそう言ってきましたし、この3、4年はバブルを迎えていますが、世界的に見ても天井までいききっていると感じますね。一方、YouTubeはわからない。音楽とは別の次元でビジネスが成長を遂げていますから。

ーー日本は、まだ伸びしろがあると思いますか?

鈴木:もう少しはあると思います。意外と早く(サブスクリプションサービスの)登録者数も増えたみたいですし、業界想定よりも、約1年ぐらい早く1000万人を突破するところまでは。個人的には、マーケティングの観点から言ったらZOZOなど、音楽のプラットホームだけでなく、会員数的にも優良な顧客を持つプラットフォームでも音源の配信はやったほうがいいと思っています。ZOZOにしたって、Amazonにしたって、そこのインフラで音楽をちゃんと聴いてもらえるようにした方が、シェアの取り合いよりもグロスで伸びてくる可能性がよっぽどあると思うけど、そもそもクルマも何も借り放題や使い放題のサブスク時代に、僕らの業界はどこか振り切れないていない印象もある。PayPayを見習えばいいんですよね(笑)。一度やるって決めてから、今では日本全国どこにでもありますから。あくまで余談ですが、昨年夏にWANIMAの故郷凱旋で熊本でも奥の方の天草に行った時、そこの個人タクシーでも使えてびっくりしたのを覚えています(笑)。我々の届けるものも、時代に合わせてもっともっと多くの人に届けられる機会があるんじゃないかと日々考えています。あとは、実行あるのみですね!! こういうタイミングだからこそ、エンタメに出来ることがある。そこを真摯に考えて。CENTROとしても、業界としても乗り越えていけたらと思います。

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