キーパーソンが語る「音楽ビジネスのこれから」 第14回
CENTRO鈴木竜馬氏が語る、デジタル時代の360度ビジネス「YouTuberがリリースするのは亜流、とは全然思わない」
圧倒的にマルチに対応していかないと、ビジネスとして勝てない
ーーCENTROで内包するレーベル<etichetta>もover seas戦略のひとつですか。
鈴木:<etichetta>は、他社も含めた往年のレーベルの概念とは全然違っているんです。アーティストのデジタル配信もするんですけど、所属するのはミュージシャンだけである必要もないとも思っていて。海外のフォトグラファーやクリエイターも何人かエージェント契約を結ぶ予定です。例えば、僕の古くからの友人にBrianCross(B+)という古くはDJシャドウのアルバムカバーや、妊娠中のローリン・ヒルのポートレイトを撮ったり、スヌープ(ドギードッグ)や最近ではカシマワシントンのカバーやサンダーキャットのMVも手掛けているフォトグラファーがいるんですけど、彼がアジアでも仕事がしたいというから、じゃあエージェントしましょうっていう流れで。<etichetta>は、ある種のマルチブランドみたいなものだと考えていて、今後も多方面のクリエイターをエージェントしていけたらと思っています。とは言え、音楽を背骨にしたアーティストも勿論排出していきます。ただ、基本の考え方がデジタルに寄り添っている場合が多いと。まだ発表はこれからになりますが、YouTubeを、むしろYouTubeのみを上手く活用して世界に対して強烈な再生数を誇っているアーティストも近々ローンチ予定です。
ーーねおのようなインフルエンサーも所属しています。彼女は、先日<etichetta>からデビューしたばかりの新しい存在ですよね。
鈴木:彼女に関しても、最初は音源を作る予定はなかったんです。ただ、良い機会に恵まれて、本人出演の広告をやることになったこのタイミングで、楽曲もあわせて配信することになりました。そうしたらやはり、彼女の持つパワーは凄くて。デビュー曲が配信直後にLINEMUSICでいきなり1位になった。当日はデイリーでも確か3位だったかな? 彼女からは、見習うところも本当にいっぱいあって。ねおを含め、Youtuberやインフルエンサー的な人って根本的にみんな毎日ルーティーンを欠かさず、いろんなことをアップする。ねおに至っては、YouTube、Twitter、Instagram、TikTokなど、いろんな媒体を駆使して朝から晩まで何かを発信しているんです。その世界でも弱肉強食で生きていると考えると、すごく真摯にメディアやファンと向き合っていて、努力を重ねていることが伝わってきます。だからこそ「YouTuberなんか」みたいな風には絶対に言えないし、我々もそこにはリスペクトを持って向き合わなければいけないなと思いますね。
ーー先ほど、<etichetta>はマルチブランドというお話がありましたが、彼女自身もモデルやインフルエンサーとしての活動に加え、AbemaTV『恋する♥週末ホームステイ』の企画でMV監督を担当したり、シンガーとしてデビューするなど、多岐にわたる活動が特徴的です。
鈴木:やっぱり、セルフプロデュースでSNS時代を生き抜いてきた発信力のある子は、何をやったら世間に届くのかっていうセンスを本能的にわかっているんですね。今回彼女自身の作品では別の方(SEPの瀬里くん)にMVを撮ってもらいましたが、今後は映像方面での可能性ももちろんあるし、<etichetta>として何をやっていけるのかは考えますね。
ーーそういうマルチなアーティストを擁するレーベルを運営する上では、スタッフの側にもこれまでとは異なる視点が必要ですよね。
鈴木:そこはもう本当に大事なポイントだと考えていて。スタッフが圧倒的にマルチに対応していかないと、ビジネスとして勝てないとは思っています。だから、CENTROのスタッフはみんなセクションを跨いで全部経験するように心掛けています。タイアップ事業のスタッフにもA&R的なことやらせてみたり、マルチな人材をどんどん育てていって、それが次世代のマルチタレントを生み出していく。次の時代がきた時、いくら日本とは言えど残念ながらフィジカルマーケットだけではビジネスとして難しくなってくると思います。たまたまこのタイミングではありますが、コロナウイルスの影響でライブやイベントが中止になった時点で、フィジカルの複数買いみたいな一つのカテゴリーがなくなる。今までギリギリで耐えてきたものが、その一発で揺らぐわけじゃないですか。そうなってくると、こっち側がその意識をちゃんと持って臨まないと、もう勝っていけないのかなって。もちろん音源だけでやっていく人もいると思うし、それを否定する気持ちはまったくないですが、僕が新しくビジネスとしてカテゴライズしていく領域は、そういうことを考えていきたいですね。
ーーそれはある種、レーベル機能とマネジメント機能を融合した何かですね。
鈴木:そうですね。もちろん、レーベルで培ってきたことは無駄では無いわけで。そう考えると、YouTuberがリリースするのは亜流なこと、みたいには全然思わないですよね。自分がマルチな考えを持っていれば、俳優・菅田将暉くんが歌うことを否定できない時代なわけで。彼は音楽が好きで、気づいたらあいみょんや石崎ひゅーいくんと自然と仲良くなって、コミュニケーションを取っている。そんな垣根のない時代だとすると、どこで何が起こるかはわからないですよね。誰がどういうアーティストポテンシャルを秘めているのかも。今になって改めてすごいと思ったのは、これがジャニーズ事務所さんがやってきたことなのか、と。菅田将暉くんもそうですけど、ジャニーズ事務所さん以外のタレントさんも結局マルチになってきている。だからこそ、インフルエンサーが、クオリティの高い音源も出していたって別に問題はないわけです。ねおには発信力があり、その力で音源が届いて、世の中を楽しくできさえすれば。ただ、やるんだったらかっこいいことやろうよって、ブランディングとしてはね。
ーーなるほど。
鈴木:きゃりー(ぱみゅぱみゅ)の立ち上げの時に近いかもしれないですが、YouTuberやインフルエンサーの中でも、音楽が大好きっていう子たちには、それを発信できる場を提供したいという思いがあります。それって今の時代の流れにもすごく合っていると思うんです。我々が築き上げてきた根本にあるレーベルのリリースがあり、そして米津(玄師)くんら以降のボカロPを含めたDTMで音楽を作る人たちの時代を経て、次のマーケットとして可能性を感じるのはYouTuberやTikToker。彼らの中で音楽リテラシーの高い人たちとは何か一緒にやりたいという気持ちを、必然的に持ち始めています。そういう気持ちは向こうからもやってくることもあるから、我々としても今年もYouTuberがひとつのキーワードだとは思っています。もちろん、音楽だけでなくクリエイティブなことであれば様々な形で取り組んでいきたい。eスポーツも然りです。
ーー動画ではふざけているように見えるけれど、裏では努力を重ねている。そんなギャップもYouTuberたちの魅力かもしれません。
鈴木:そうですね。中には、音楽の話をするとすごく詳しい子もいて。ねおも、MixChannelやTikTokで自分がいいなと思った曲をリップシンク動画に使っていて、それがサブスクでも上位に上がってくる。彼女にはそもそもの選曲眼が備わっている上に、どの曲が最適なのか、死ぬほど掘り倒しているんですよね。そういった音楽に対するリスペクトがあって、同時に僕らとの共通言語も持っているような人とは何かできたらいいなとは思います。