『magic moment』インタビュー

Wakanaが語る、“歌い続ける”強い意志 『magic moment』を通して聞くソロシンガーとしての現在

 歌声を途切れさせたくない、音楽を鳴り止ませたくないという気持ちの表れだろう。2008年1月にKalafinaのメンバーとしてデビューしたWakana。約10年後の2018年3月にKalafinaとして最後のステージに立ち、同年10月にはソロでのライブツアーを開催。2019年2月にシングル『時を越える夜に』でソロデビューを果たした彼女は、同年3月に全11曲中6曲で作詞を手掛けたソロ1stアルバム『Wakana』を発表。その後11月に5曲入りのEP『アキノサクラ EP』を挟み、11カ月という短いタームで早くも2ndアルバム『magic moment』を完成させた。ソロデビューから1年で2枚のアルバムというのはかなりハイペースだ。ソロシンガーとして精力的に活動する彼女の“今、現在”の思いを聞いた。(永堀アツオ)【※インタビュー最後にプレゼント情報あり】

「夢って、ちょっとずつ更新されていくものかなとも思うんです」


ーーかなりのハイペースですよね。

Wakana:そうですね。2ndアルバムが出ますって発表した時に、多くの方に早くない? って言っていただいて(笑)。でも、私自身は早いという実感はなかったし、(全11曲中)7曲も歌詞を書いたっていう感覚も全然なかったんですね。気づいたらそうなっていたんです。本当に2019年からいろいろなことを経験させてもらって、とてもいい時間を過ごさせてもらっているなと思っています。

ーー2枚目はどんな作品にしたいと考えてました?

Wakana:実は今回のアルバムは、昨年の11月の1stEP『アキノサクラ EP』と12月のライブとで、すべてつなげたコンセプトにしたいと考えていたんです。だから、最初にEPを作る際にコンセプトを“マジックアワー”にしようと話をして。

ーーどうして“マジックアワー”=「日没直後の空が美しく見れる薄明の時間帯」に? 

Wakana:空がすごく好きなんです。最初はいろんなコンセプトを考えていて、“宇宙”とかも出てきたんですけど、(話が)大きすぎる! となって(笑)。“マジックアワー”に決めた時に、そのコンセプトは果たして広い意味で考えられるのか、それとも、狭めて考えられるのかと思って。空のことだけになってしまうようなイメージがあったけど、EPを作り終えた時に、ひとつひとつのものや出来事にはいろんな瞬間があって、いろんなストーリーがあるんだろうなって思ったんです。たとえば恋に落ちる瞬間も“マジックアワー”だし、ひとつひとつの瞬間がつなぎ合わさってるんだなって思えたので、そこからアルバムのコンセプトをもっと細かいところにいって、“マジックモーメント”にしようと。

ーー時間ではなく瞬間になったわけですね。

Wakana:はい。ひとつひとつの瞬間にしようって決めたんです。それで、12月のライブも「瞬間」を楽しんでほしいっていう気持ちで『瞬き』というタイトルにしたんです。ライブのMCでは、『CDという形で音楽を聴いてもらう時間も、ライブという目の前で音楽をお届け出来る時間も、両方大切にしていて、どちらにもそれぞれの瞬きがある』というお話をさせてもらって、そこからこの2ndアルバム『magic moment』にすべてをつなげていこうと思ったんですね。昨年の夏くらいからいろいろ考えていたことが、2020年最初の作品として出すことができるのはとてもうれしいです。

ーーアルバムにはEPのリード曲「アキノサクラ」のアコースティックバージョンと、EPの1曲目「eve」に歌詞がついたロングバージョン「breathing」が収録されてます。EPはアルバムのプロローグというイメージですか。

Wakana:そうですね。『アキノサクラ』の時はとくに“マジックアワー”寄りでしたね。ジャケットも夕焼けの写真なんですけど、自分の中でそういう空の瞬間をすごく大事にしてたんだと思います。MVはジャケットのような都会の空ではなくて、もっと開けた天を仰ぐような広い空をイメージして場所を選んでいただいたんですね。監督とも相談して、ノスタルジックな雰囲気で、人がいればいるほど寂しくなってひとりになれる、そういうイメージを撮ってほしいという話をして。EPの1曲目に入っている「eve」は夜明け前みたいな気持ちを込めてて。このアルバムの前日のようなイメージもあったので、EPから聴くと、「同じだ、あの曲だ」と思っていただけたらうれしいなって。

ーー“生まれた”感がありますよね。

Wakana:ありがとうございます。そう、生まれたんです。どちらかというと、生まれ変わるみたいな感じですかね。地上でも水中でも空でも、生きるものに必ず起きている現象が、心臓が動き、鼓動が高まっているということ。それとともに、息をすることは必ずしていることだと思うんですね。息をするやり方が違っても、みんな生きている中でやっていることだと思ったので、「breathing」というタイトルにしました。たとえ場所が変わっても、自分の生きるという思いが変わらなければ、そこで生きていけるという思いですね。なので、この曲は、11曲目の「magic moment」まで聴いた時に、もう一度「breathing」に戻れる、そういう気持ちで表題曲の「magic moment」をアルバムの最後に持ってきました。

ーー表題曲にはどんな思いを込めてますか。

Wakana:SIRAさんが作ってくださった曲がすごく幻想的で、霧や雲の中を泳ぐような歌だなと思いました。歌詞はいつも、メロディに導いてもらうことがとても多くて、今回もこの曲から受ける印象で書いたんですけど、プリプロの時に日本語で仮で書いておいたんです。この曲はその時の歌詞とほぼ変わっていなくて。〈いつから夢も見ない大人になったの?〉っていうところがキーワードになっているんですけど、つまらない大人を想像した時に夢を見ない人なのかなって思ったんです。だから、どんなことにも挑戦できるような楽しくいられるような人でいたいという思いと、〈最後の場所は決めたよ〉っていうのは、生まれる時の場所は自分で選んできてるとは言っても、記憶がないものなので、だったら記憶を作る場所に行こうっていう気持ちなんですね。それは前向きな意味で、自分が次に進むステップ、この身体で燃え尽きる最後の場所を決めるっていう感じですね。なので、旅立ちっていうか、もっと燃え上がろう、飛び立とうっていう気持ちです。

ーーとても情熱的に〈掴んで離さない夢〉と歌っていますね。出会いや別れを繰り返しながらも、それでも諦めずに何度も再生して、夢に向かって、さぁ行こう! っていう気持ちにさせられます。

Wakana:私にもどうしても忘れられない夢があるなと思って。そういうものって皆さんきっとあるんじゃないかなって思います。その人自身が描く夢があれば、きっとそこに到達できるはずだし、そういうものは、心のどこかっていうよりも腕とかにからんでくるから、いつも見えてるんじゃないかなって。私自身がその夢にちゃんと向き合わないかぎりは、掴んで離してくれないんだろうなと思います。

ーーWakanaさんの腕にからんでる夢って何ですか。

Wakana:私にとっての夢は、歌手として歌い続けることです。それはずっと変わらなくて。Kalafinaの時からずっと歌い続けることを“目標”にしていて。それはいつしか“夢”になっていると思うんですけど、夢って、ちょっとずつ更新されていくものかなとも思うんです。もしかしたら壮大な夢を持っている方もいて、ずっとその夢を追いかけている素敵な人もいると思う。でも、よく小説とかで、その夢を果たした時に燃え尽きてしまったっていう表現があるけど、それってどんな瞬間なんだろう、すごくキツイだろうなって思うから、夢はつねに更新されていくべきなのかなって思っていて。だから、『magic moment』に込めているすべての瞬間を音楽に変えていけたらいいなというのも、ひとつの夢ですね。みんなに感じてもらえたらいいなっていう夢。そういうものがライブでもあり、CDでもあり、いろんなところで伝わってくれればいいから、私自身は変わらずに音楽を愛す人間でいたいし、音楽に愛される人間でいたいなって思います。でも、もちろん変わっていかなきゃいけないんですよね。いろんな部分で成長していきたいし。だから、すごく難しいことではあるんですけど、2月でソロデビュー1周年なので、そういうこともいろいろ考えた1年間だったなとは思います。

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