GO 三浦崇宏が語る、ヒップホップと“言語化力”の関係 「くそったれな現実を逆転させる力がある」

三浦崇宏、ヒップホップと言語化力の関係

 社会のあらゆる変化と挑戦にコミットすることをミッションとし、多くの企業の広告から事業開発までを手掛けるThe Breakthrough Company GOの代表で、PR/CreativeDirectorの三浦崇宏氏が初の著書『言語化力(言葉にできれば人生は変わる)』を上梓した。

 三浦氏はこれまでにAKB48やSEKAI NO OWARIのMV企画、AK-69やONE OK ROCKのPR企画、さらにはケンドリック・ラマーの黒塗り広告など、数多くのアーティスト仕事でも話題を集めてきた注目の人物。本書では彼が実際に体験したことを引き合いに出し、人生や仕事において「言葉を最強の武器にする方法」がわかりやすく綴られている。加えて本書ではラッパーのパンチラインがたくさん引用されているのも印象的だ。自らをヘッズと称するほど日本語ラップ好きな三浦氏は、ヒップホップからどのような影響を受け、世間を動かすクリエイティブを生み出しているのか。ヒップホップと言語化力にはどのような関係があるのか。たっぷり語ってもらった。(猪又孝)

言葉ひとつで人生を一発逆転した 

ーー本書にはRHYMESTERやKダブシャイン、KREVAなど、ラッパーのパンチラインがたくさん引用されていますが、三浦さんがヒップホップにハマったきっかけから教えてください。

三浦崇宏(以下、三浦):中学生の頃ですね。当時はSMAPやDREAMS COME TRUE、あとTKサウンドが全盛でした。でも僕は結構スノッブというか、J-POPは聞かねえぜ、みたいな変な奴だったんです。そんな中、一部の不良たちがヒップホップを聴き始めて。最初はヒップホップもバカにしてたんですよ。不良がイキってる音楽でしょ、みたいな感じで(笑)。でも、聴いてみたら、それまでのJ-POPが空気感とか感情を言語化する程度でとどまっていたのに対し、ヒップホップは社会に対するメッセージとか自分の日常の不満を歌っていた。それがすごく新鮮だったし、文学的に思えたんです。それ以来ヒップホップが好きになりました。

ーー最初に聴いた作品は?

三浦:RHYMESTERだったと思います。中3だったから15歳。ということは1999年だから……。

ーーアルバム『リスペクト』ですかね。

三浦:それです。あとはキングギドラの『空からの力』とか。「なんだ、この日本語の可能性に賭けてる感じは」とすごく衝撃を喰らいました。日本語とかリリックに興味があったんで、RHYMESTERやTHA BLUE HERBを中心にKREVAやケツメイシ、RIP SLYME、般若といろいろ聴いてました。

ーー加えて、本書にはFORKや呂布カルマが『フリースタイルダンジョン』で繰り出したパンチラインの引用も出てきます。MCバトルも好きなんですか?

三浦:『フリースタイルダンジョン』って、仲間がけっこう関わっていて、会場に招待してもらえるようになったんです。社会人になりたての頃に、忙しくて一度ヒップホップから離れていた時期があるんですけど、『ダンジョン』を機に「ラップって今こんなに進化してるんだ」と感じて、そこからまたシーンを追うようになりました。

ーーMCバトルの大会なども観に行かれるんですか?

三浦:こないだ『戦極MCBATTLE』の会場に行きました。あと『UMB(ULTIMATE MC BATTLE)も行きます。

ーー今はMCバトルのシーンの方が面白い?

三浦:それはないですね。音源とバトルは別物として見てます。サッカーでいえば、フットサルとワールドカップみたいな。ワールドカップにはワールドカップの素晴らしさがあって、路地裏のフットサルにはフットサルの素晴らしさがある。技術が高くて、完成度が高くて、お金が儲かるのはワールドカップかもしれないけど、サッカーとフットサルに優劣はない。それこそ今は、Creepy NutsのR-指定とBAD HOPのT-Pablowが両方を行ったり来たりしているのが面白いし、音源だけでやっている方も素晴らしい。一方、バトルで頑張っていつか音源を出したいと思って沸々としている人達も素敵だと思います。どちらも自分の言葉に責任を持とうとしてる、自分の言葉で人生を一発逆転できると思っている。そこにすごくシンパシーを感じます。

ーー本書には「言葉は人生を突破するヒントになる」とも書かれています。

三浦:僕は言葉ひとつで人生を一発逆転した男だと思っているんです。クリエイティブディレクターも、PRも結局言葉で世界の見え方をガラッと変える仕事なんです。自分の人生としても『パラサイト』という映画を観て、なにひとつ違和感を感じないほどのクソ貧しい家で育ちましたから。今では経営者として会社員の頃の何倍も稼いでいるし、言葉で一発逆転という意味ではある意味ラッパーだぞっていう。

ーー物事の考え方にもヒップホップからの影響がありますか?

三浦:めちゃくちゃあります。そもそもヒップホップというもの自体が、持たざる者の文化じゃないですか。アメリカではレコードを買えなかった、楽器を買えなかったブラックの少年たちが壊れたレコードをかけてその上で喋り始めたのがラップになった。もちろん、貧しくはないけど、現代日本においては金がないとは別の地獄があるんですよね。宇垣美里は「人には人の地獄がある」と言いましたが、それぞれの地獄や逆境があって、それを言葉で跳ね返すように生きてる。日本のヒップホップにも、くそったれな現実を言葉の力で逆転させる力がある。そこにものすごく魅力を感じているし、広告も一緒なんです。AとBとC、どれも商品は一緒である。でもBを売らなきゃいけない。差別性がない状況を言葉一発で逆転させるわけだから。言葉一発で状況をひっくり返すっていう部分では、かなりヒップホップの影響を受けて仕事をしていますね。

ーー本書では「言葉は過去の意味を変えうる」とも書かれています。それもヒップホップ的な考えからくるものじゃないかと思いました。

三浦:そうですね。RHYMESTERは〈持ってる奴に持ってない奴が たまには勝つ唯一の秘訣 それがK.U.F.U. 工夫〉(「K.U.F.U」)と歌ったし、THA BLUE HERBは〈未来は俺等の手の中〉と歌った。その通りで今は何も持ってなかったとしても言葉によって自分の未来を信じることができる。言葉はコスパがいいですしね。資源ゼロだし、タダだし。

ーークリエイティブディレクターやPRの現場で、他にヒップホップに影響された部分はありますか?

三浦:僕の書くコピーって、日本語ヒップホップの影響を受けていて、何を書いても必要以上に熱くなってくるんです。これはよく言われるし、文体がひとつしかないから僕、若い頃にコピーライターになれなかったんです。クリエイティブディレクターってオーケストラで例えると指揮者なんです。広告業界はコピーライターからクリエイティブディレクターになる人がいちばん多くて、イメージ的にはコピーライターはバイオリニストだと思ってください。オーケストラの花形。僕はPRマンからクリエイティブディレクターになってるんです。PRマンはイメージ的にはティンパニーです。端っこ。誰もやりたがらない。

ーーでもティンパニーも重要ですよ。20分の曲で一発ドン! みたいな見せ場が来るじゃないですか。

三浦:まさにその通り。電通や博報堂の大型のプレゼンって2時間とか話すんです。最初に営業が挨拶して、そのあとクリエイティブ部門が時間をかけて説明して、最後余った5分で「PRは三浦から」って言われてちょっと喋るみたいな。本当ティンパニーなんですよ、最後にドーン! って。そこからいろいろ工夫して成り上がって、今のポジションに就いたんですけど、コピーライター的な言葉の器用さは僕にないんです。繰り返し繰り返し鼓舞する、みたいな文体しかないんで。そこは特殊かもしれないですね。

ーーでも、その文体自体がヒップホップからの影響だと。

三浦:そうですね。こないだ一緒に仕事している人から「三浦さんって、相手をその気にさせるのが天才的に上手いですよね」って言われたんです。これはすごく誉められたなと思って。「GO」でやった広告は、たとえばケンドリック・ラマーの黒塗り広告とか、女性向けファッション誌『SPUR』の生理用品を街に貼り出す広告とか、漫画『キングダム』は日本一のビジネス書として打ち出すとか、反対意見が来そうな企画が多いんです。それでも世の中でやる意味があると思うからクライアントさんがお金を出してくれるわけですけど、それってつまり「相手をその気にさせるのが上手い」と。悪く言えばそそのかし。良く言えば鼓舞する。チャレンジしよう! やってみよう! 踏みだそう! っていう。それがプレゼンにおいても、言葉遣いにおいても上手いんだと思います。それは完全に日本語ヒップホップの影響だと思います。

ーー言葉でエンパワーメントする。

三浦:そう。とにかく背中を押すっていう。「行ってこい!」って送り出す。

ーーもしくは「みんなでやろうぜ!」とか(笑)。

三浦:そう(笑)。でも、お金を出してるのはクライアントなんですけど(笑)。

ーー本書では「自分の言葉を生み出すときはサンプリングすることが多い」と書かれています。今日の会話でもリリックなどを引用されていますが、「これは面白いリリックだ」と思うとメモるんですか?

三浦:メモります。メモらなくても頭に残るものもあるし。

ーーリリック帳ならぬメモ帳を持っていたり?

三浦:スマホのメモ機能を使ってます。「名言メモ」みたいなのがあって、僕の場合ノンジャンルなんです。たとえば、最近だと『1Q84』を読んだんで「説明しないとわからないことは説明してもわからない/村上春樹」と書いてある。あと、AIで営業をサポートする会社を作っている方と、さっき打ち合わせしていたんですけど、その方が「僕がやりたいことは、人に期待することと期待しないことを分けることなんです」と言っててすげえ面白いなと思って早速メモしました。

ーーメモはたまに見返すんですか?

三浦:ほぼ見返さないんですけど、メモることで記憶できたり、思考の整理ができてるんです。他には「アップルは反抗し、IBMは答えを出し、ナイキは熱く語り、ヴァージンは啓発し、ソニーは夢を見て、ベネトンは抵抗する。つまり、ブランドとは名詞ではなく、動詞だ/ジャン=マリー・ドリュー」というのもメモってある。その下には「スキルよりもスリルがある方に勝負は転ぶんだよ」って書いてます。これはFORKの言葉ですね。

ーー『フリースタイルダンジョン』でのパンチラインですね。

三浦:あと、僕、毎年、「Best Contents of the Year」っていうのを勝手につくっていて。小説、ライブ、音楽、映画、いろんなもののランキングをつけてるんです。去年最大の後悔は、般若の日本武道館ライブ(『おはよう武道館』)で、最後の最後、「あの頃じゃねえ」が始まる前に仕事で出ちゃったことっていう。去年の後悔1位です。

ーー反対に最高だった1位は?

三浦:RHYMESTERの30周年記念ライブat 新木場スタジオコーストです(『KING OF STAGE VOL.14 47都道府県TOUR 2019』追加公演)。本当最高でした。30年を振り返る内容で、リリースが新しい曲から始めて、最後は「耳ヲ貸スベキ」まで持って行くんです。その過程で1曲1曲について宇多丸さんがメチャクチャ長く解説するんです。曲が5分だったら、その曲について5分喋るっていうくらい解説する。あのライブはめちゃくちゃ良かった。総合1位です。

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