SHE’Sは今、ますます代替不可能な存在にーーストリングス&ホーンとの二度目の共演が証明したバンドの本質

SHE’S『Sinfonia “Chronicle”#2』レポ

 12月3日、中野サンプラザで行われたSHE’Sの『Sinfonia “Chronicle”#2』。2018年の5月から約1年半の時を経て、同じ会場でSHE’Sがストリングスとホーンを迎えたライブを行うという現実。それは単に恒例になりつつあるスペシャルライブではなく、このバンドの本質を証明する場になっていた。

 前回同様、大阪、東京2カ所での開催だが、今回はチケットが即日ソールドアウトするという期待値の高さもあり、バンドのモチベーションも内容もアップデートされていたように感じた。そもそも井上竜馬(Vo/Key)が曲想の段階でストリングスやホーンが存在し、このライブが企画的でないことは前回も実感したことだが、今回はさらに管弦が鳴っていない4人だけのアンサンブルも「シンフォニー」であることを証明する場面があった。ただ曲の熱量を届けるだけではない、瞬発力の高い井上のヒューマンパワーを確認できたことも1年半の間に遂げたアップデートだった。加えて今回のライブは3カ月連続デジタルリリースしてきたシングルをナマで初めて聴くファンも多いだろう。バンドにとってもファンにとっても新鮮な要素が多いライブだ。

 Sをト音記号、Cをヘ音記号にアレンジし、五線譜に準えたラインもライブの趣旨を表すバックドロップを背景にしたステージが暗転すると、まずストリングスとホーンのメンバー7人が位置につき、チューニングを行う。「Sinfonia Chronicle」の序章としてなんとも粋な始まりだ。そこにメンバーも登場し、アイリッシュな旋律にアレンジされたストリングスに乗って「Over You」でライブはスタート。フロント3人がアグレッシブに動き、お立ち台でアピール。しょっぱなからトップスピードのハイテンションだ。続く「Un-science」はインディーズ時代から馴染みの楽曲だが、イントロのストリングスリフに自然と心身が高揚し、曲を押し進める木村雅人(Dr)のしなやかなドラミングの進化にも思わず笑顔になってしまう。ストリングスがはけ、今度はホーンが活きる「Beautiful Day」でエバーグリーンなポップミュージックの強さも見せる。序盤からトータル11人のシンフォニーの完成度の高さに、1曲1曲を噛み締めつつ、次の曲のイントロを心待ちにしてしまう。いい意味でこれほど冷静に見ることのできないSHE’Sのライブは初めてだ。

 1曲1曲タイプの異なるレパートリーが続く中、思わず覚醒する瞬間が訪れた。3カ月連続リリースの口火を切った「Masquerade」のストリングスによるアイリッシュなイントロだ。井上の打ち込みで作られたフレーズをナマで再構築し、服部栞汰(Gt)のアコギのカッティングがエキゾチックなこの曲の持ち味であるグルーヴを強めている。R&B的な歌メロを乗りこなす井上の声も熱を帯びていく。何か一つでもタイミングがずれると崩壊するアンサンブルを全員で息を合わせ迎えたエンディングには拍手だけでなく「ブラボー!」と口にしたかったぐらいだ。

 ストリングスやホーンとのコラボレーションの必然を表現したからこそ、メンバー4人だけの演奏の必然もまた際立つ。楽曲のテイストの幅広さはこのバンドを追いかける上である種の共犯関係の楽しさも味わえるが、R&Rリバイバル的な「Getting Mad」で、バンドを始めたばかりの少年性とタフなロックバンドの色気を同時に体現したのは効果的だった。さらに4人だけで演奏した目下の最新曲「Your Song」。ピアノリフのイントロに滑り込んでくる井上の歌メロ、木村のプリミティブなビート。ピアノエモというより、もっと広範囲な洋楽をバックボーンにしたSHE’Sど真ん中のこの楽曲が、何かの影響やジャンルを想像させないぐらいただ堂々と鳴らされていたことは、2019年の終わりに彼らがたどり着いたオリジナリティを改めて示していた。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「ライブ評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる