SHE’Sは今、ますます代替不可能な存在にーーストリングス＆ホーンとの二度目の共演が証明したバンドの本質

　さらにこの日はベースの広瀬臣吾がアコースティックギターを持ち、服部と生音のアンサンブルを聴かせたアコースティックコーナーも実現。4人でキャンプファイアーを囲んで親密に息を合わせるような「フィルム」、さらにはホーンを加えた「月は美しく」では、ジャズやカントリー、さらにはエキゾなムードも漂わせ、これまでのSHE’Sにはない一面も見せてくれた。このブロックまでがシンフォニーとしてのチャレンジを丹念に編んだタームとすると、後半はエモーションを漲らせたアップチューン「Time To Dive」、ホーンが華々しくビックバンド的なムードを高める「Sweet Sweet Magic」、会場を踊らせるばかりでなく、「お邪魔しまーす」と言い放ちながら井上が客席に降り、通路で歌う場面に大いに沸いた「Dance With Me」と、演奏は確かさを保ちつつ、自分の中から溢れる何かに自然に従う井上の人間力が存分に発揮された。そして彼が自由に振る舞えるのはメンバー3人の演奏の自由度と力強さが増しているからだ。

　本編ラストの「The Everglow」。なぜ「いつまでも色褪せないもの」に「The」をつけるのかと少し謎に思っていたのだが、時間と共に変化することに抗わず、それでもこの一瞬に灯る「Everglow」を音楽で鳴らすこと。ストリングスとともに地上を離陸し滑空するような速度を生み出す演奏にはミュージシャンとしての願いが溢れていた。改めてストリングスとホーンとの共演がこのバンドにとって必然であることを実感したが、それはある料理人の料理を食べたら、他の同じ料理では物足りない感覚にも似た、生きていく上での栄養と刺激――そんな感慨が残った。SHE’Sは今、ますます代替不可能な存在になっている。

（写真＝MASANORI FUJIKAWA）

■石角友香
フリーの音楽ライター、編集者。ぴあ関西版・音楽担当を経てフリーに。現在は「Qetic」「SPiCE」「Skream!」「PMC」などで執筆。音楽以外にカルチャー系やライフスタイル系の取材・執筆も行う。

■セットリスト
『Sinfonia “Chronicle”＃2』
12月3日（火）中野サンプラザ

1.Over You
2.Un-science
3.Beautiful Day
4.パレードが終わる頃
5.Masquerade
6.Just Find What You'd Carry Out
7.Getting Mad
8.Your Song
9.Clock
10.Ghost
11.Letter
12.フィルム
13.月は美しく
14.Time To Dive
15.The World Lost You
16.Sweet Sweet Magic
17.Dance With Me
18.The Everglow