和田彩花が発する“言葉”の魅力ーーとらわれていた概念から解放してくれる存在に

和田彩花が発する“言葉”の魅力

 10月9日にYouTubeで公開されたあやちょの初ソロ曲「Une Idole」は、彼女自身の作詞、主にフランス語で歌われています。そしてその内容が「私はアイドルだけど、誰のものでもないし、偶像崇拝しないで」とこちらが一方的に押し付けてきた幻想をバッサリ斬ったものと知り衝撃を受けました。

【和田彩花】 Une idole 【MUSIC VIDEO】

 好きなアイドルを目の前にしたとき、私はいつも「はー、この人が本当に同じ世界に存在する奇跡……」と畏怖の念に震えてしまいます。けれど、他者を崇め奉りすぎてしまうと、その人自身ではなく自分の中の幻想を信じていることになり得るのです。

 アイドルの語源は「偶像」だけれど、あやちょは繰り返し「私もあなたと同じ人間なんだよ」と言います。

 ハロー!プロジェクト在籍時の彼女は、常に大勢の観客の前でステージに立つ、まさにスターでした。そして、今のあやちょは、ストリートで活躍するミュージシャンやアーティストと共に制作し、芸術への共通理解を持った人々の前で、物理的にも精神的にも直接声の届く、距離の近い場に出演しています。彼女の活動を通して、“あやちょもまた私たちと同じこの世界に生き、同じ問題に直面している一人の女性なのだ”と改めて気付かせてくれました。

Wada Ayaka NEWTOWN2019 LIVE PERFORMANCE

 キャンバスの表側と裏側を同時に見ることはできないように、アイドルもまたプロデューサー、観客、アイドル自身が作り上げたイメージ像の裏側に、アイドル個人の気質があるように思います。あやちょはグループ卒業をきっかけとして、学んできた歴史を味方に「女がだから、アイドルだから」という固定概念に対して「言わなきゃどうしようもない」とキャンバスを裏返し、活動再開のメッセージを「だから、私は口にする/私の未来は私が決める/私は女であり、アイドルだ、」 と掲げました(公式HPより)。

 エドゥアール・マネが衝撃的題材を描き19世紀フランスの美術界に革新をもたらしたように、「アイドルの解釈の幅を広げる」と言ったあやちょは、アイドルの歴史そして女性の歴史を、一つ先の段階に進めてくれるかもしれません。自分で選んだ道を歩む25歳の女性の美しさが、同時代を生きるすべての女性をエンパワメントするものになるでしょう。

※記事初出時、一部表記に誤りがございました。訂正の上お詫びいたします。

■松村早希子
1982年東京生まれ東京育ち。この世のすべての美女が大好き。

<雑誌連載>
『Rocket』コラム「きみは89番目の星座」
『TRASH-UP!!』コラム「東京アイドル標本箱」

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