ALIが明かす、『BEASTARS』にも通じるアイデンティティの葛藤と音楽に対するピュアな気持ち

ALIが明かす、アイデンティティの葛藤

 東京・渋谷発の多国籍ミクスチャーバンド、ALIの1stシングル『Wild Side』と、彼らの1stフルアルバム『ALI』の2タイトルが同時リリースされる。

 『Wild Side』に収録された同名リードトラックは、板垣巴留原作の人気TVアニメ『BEASTARS』のための書き下ろし主題歌。擬人化された肉食獣と草食獣が共存する世界を舞台に、全寮制の学校「チェリートン学園」に通う動物たちの群像劇である『BEASTARS』は、「種族の違い」が引き起こす差別や偏見が描かれており、人間社会の中に隠され、誰もが見て見ぬ振りしている「真実」について赤裸々に歌うALIの「Wild Side」は、そんな世界観に寄り添いつつも強烈なメッセージソングとして聴き手の価値観をグラグラと揺さぶる。スウィングジャズをベースにした強靭なバンドグルーヴ、英語と日本語がミックスされた歌詞など、新人バンドとは思えぬポテンシャルの高さにただただ圧巻されるばかりだ。

 ALIは、LEO(Vo)、JUA(Rap)、ZERU(Gt)、LUTHFI(Ba)、KAHADIO(Dr)、ALEX(Per)、YU(Sax)、JIN(Key)といった、日本やヨーロッパ、アジア、アメリカ、アフリカなど様々な国にルーツを持つメンバーの集合体。島国であり、他国に比べて同一民族の割合が全人口の大多数を占める日本に暮らす彼らもまた、差別や偏見に晒されたり、アイデンティティの葛藤に悩んだりした(する)こともあるのではないか。バンド結成の経緯や、音楽的バックグラウンドはもちろん、「Wild Side」やTVアニメ『BEASTARS』で描かれているそうしたダイバーシティについてのトピックも、LEO、JUA、ZERU、KAHADIOの4人にぶつけてみた。(黒田隆憲)

左から、LEO、JUA、KAHADIO、ZERU

ALIが考える「東京っぽさ」のルーツ

ーーまずは皆さんのルーツや、音楽的なバックグラウンドを教えてもらえますか?

LEO:僕は母がスペインとイギリスのハーフで、父親が日本人です。出身は渋谷で、今までいろんな音楽を聴いてきました。ブルーズやジャズ、レゲエ、ソウル、ディスコなどブラックミュージックが中心ですが、ロカビリーやガレージロックも聴いてきたし、The BeatlesやThe Rolling Stonesなんかも大好きです。特に影響を受けたのは、ニーナ・シモンとボブ・マーリー 、それからジム・モリソンは、20歳の頃にパリのペール・ラシェーズ墓地までお墓参りしたくらい好きですね。

ーー音楽的にはバラバラな三人ですけど、何か共通点のようなものを感じますか?

LEO:例えばジャズでいうとチェット・ベイカー、ブルースでいうとリトル・ウォーターが好きなんですけど、今あげた人たちってみんな矛盾したものをどこかに抱えているんですよね。モーツァルトにしても、あんな美しい曲を沢山書いているのに「俺の尻をなめろ」なんて曲名にしてしまうところとか(笑)、そういう聖人君子ではない「人間らしさ」に魅力を感じているのだと思います。

ZERU:僕は父親がガーナ人で母親が日本人です。父がもともとレゲエのドラマーで、ボブ・マーリーやピーター・トッシュらの曲を3歳くらいから自然と耳にしていました。中学生、高校生の頃になると、周りがヒップホップやR&Bを聴いていたのもあり、自分でもその辺りを掘るようになって。それから小中高とキリスト教の学校へ通っていて、そこでコーラス隊に入って歌うなどしていましたね。

 20歳くらいでようやく楽器に触れるようになって、ギターを始めたのが21歳。今、30歳なのでギター歴9年くらいですね。とりあえずジャンルにこだわらず、いろんな音楽をコピーしてきました。ハードロックからファンク、ジャズ……そこからジョージ・ベンソンやパット・メセニーが好きになって。ただ、フュージョン系のギターは難しいからまだ習得中です。他にもジミヘンのワウギターや、カルロス・サンタナのラテンテイストも好きで、それをALIの音楽にどう組み込んでいくかが自分の課題です。

JUA:僕は日本とフランスとカメルーンの血が混じっています。生まれはハワイですが、その後すぐ東京に来て5歳まで住んで、学校に入るタイミングで京都の小さなフランス学校に入学しました。中学を卒業し、高校時代はフランスで過ごしてまた東京に戻って今に至ります。音楽は、父親がラッパーということもあり、小さい頃からヒップホップを浴びるように聴いてきました。Camp Loやグールー、ナズあたりが特に好きでしたね。あとは、父親がよく流していたシャーデー。基本的にはスムーズな音楽が好きなのだと思います。ちなみに僕は23歳で、バンドの中の最年少です。

LEO:最年長の俺が33歳で、ちょうどJUAとは10歳離れています。この年齢差もALIの音楽性に影響を与えていると思いますね。

KAHADIO:僕はオランダ、スペイン、日本、それから最近分かったんですが、イタリアの血も入っています。ただ話せるのは日本語だけ(笑)。好きな音楽はマイケル・ジャクソン一択ですね。僕は28歳なのでリアルタイム世代ではないんですけど、母親がマイケルの大ファンで、5歳の時に「スリラー」のDVDを見せられて衝撃を受け、そこからずっとマイケルを聴いています。

ーーなぜドラムを叩こうと思ったのですか?

KAHADIO:なんでだったんだろう(笑)。ずっとマイケルの歌に合わせてムーンウォークとかやってたんですけどね。小学生の時にオーケストラをやる機会があって、それで打楽器をやったのがきっかけかもしれない。リズムが好きなんですよね。

ーー好きなドラマーは?

KAHADIO:自分、ですね(笑)。自分以外だと、いるかなあ……。

(一同笑)

KAHADIO:2人思いつきました。1人がジョン・ボーナム、もう1人がスティーヴ・ジョーダンです。最初はボンゾに夢中だったんですけど、自分のグルーヴって黒いのかなと思うようになってからは、ジョーダンが好きになりました。ロックもソウルも両方叩けたら最高かな、と思うけど、まあ叩けちゃうんで自分が一番好きなんですよ。

ーー(笑)。バンド結成はLEOさんが持ちかけたそうですね?

LEO:前からこの3人のことは知っていて。他にもいろいろサポートをやっている人たちなので、その繋がりでYU(Sax)やALEX(Per)、LUTHFI(Ba)、JIN(Key)が入ることになって今の8人編成になりました。俺自身、今まで色んなバンドを渡り歩いてきたけど、本当に長く続けられるバンドが欲しいなと。俺は今、「WACKO MARIA」というブランドの旗艦店「PARADISE TOKYO」で働いているのですが、デザイナーの森(敦彦)さんが音楽の師匠で。森さんからアナログレコード でいろんな音楽をたくさん聞かせてもらっているうちに、ヒップホップやファンク、ラテンのテイストをミックスした音楽がやりたいと思うようになったんです。中でもファンクが持つ「メッセージ性」が大事だと思っていて、それと人々を喜ばせるリズムのバランスは考えていますね。

ーー曲はいつもどのように作っているのですか?

LEO:俺たち全員セッションが好きなので、そこから作っていくこともありますが、まずはみんなでアイデアを持ち寄り、それを一旦壊して再構築していくことが多いかもしれない。そうすることで、毎回フレッシュな気持ちで取り組めるし、遠くにいけると思うんです。そこがALIの好きなところかな。みんな演奏家としてとても優秀なんですよね。だから毎回新鮮だし「面白いね!」って思える。すごくいい状態だと思います。

ーー以前のインタビューで、自分たちのことを「東京っぽい」とおっしゃっていましたが、それはどんな意味があったのでしょうか。

LEO:東京って、戦争中に空襲で一度ぶっ飛んだじゃないですか。その後グワーっと立て直していった時に、江戸時代から脈々と続くオリジナルなものを残しつつも、洋楽もK-POPも宗教でもなんでも新しい文化をどんどん取り入れていったと思うんです。そういうオープンな姿勢が日本の素晴らしいところというか。寛容性や多様性を持っていたからこそ、焼け野原になってもここまで発展したんですよね。

 僕らの両親は80年代、90年代に、すっごい遊んでいた人たちで、その頃の話を聞くとシンプルに「いいなあ」って思います。時に90年代はインディ〜オルタナティブが生まれた時代。それまで歌謡曲が主流だった邦楽シーンにヒップホップやインディロックが台頭してきて。日本映画もこの頃からグッと面白くなっていくんですよね。そういうカルチャーが俺の考える「東京っぽさ」で、ALIはそれを受け継いでいると思っています。

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