欅坂46「避雷針」に漂う不可解な空気とは何なのか 『ベストヒット歌謡祭』のパフォーマンスを振り返る

 真っ暗な大阪城ホールに、雷の落ちる轟音が響き渡った。センターステージで横たわる平手友梨奈がむくりと起き上がる。その向こう側、メインステージに隊列を組んだメンバーたちがもぞもぞと動いている様子が映る。その隊列は、神妙な面持ちで平手をメインステージへと引き摺っていく。まずそれだけで、女性グループのステージとしても、年末のテレビで流される映像としても、異様な光景であることは間違いない。

欅坂46『風に吹かれても』(通常盤)

 先週放送された『ベストヒット歌謡祭2019』において、欅坂46が地上波初披露した「避雷針」のことである。これまでのライブで何度も披露されてきた曲だったため、この光景自体はファンにとってはいつものことだったかもしれない。当然、はじめて観た視聴者は驚いたことだろう。しかし、この日の彼女たちの表情や踊りの切れから、ファンでさえもいつも以上の何か凄みに似たものを感じ取っていた。

 この曲は、世の中の常識や世間の声に傷つく〈君〉を守ろうとする主人公の気持ちを描いた楽曲だ。主人公が心を閉ざしている様子を表す”遮断機”、ただ過ぎていく時間を象徴する”時計の針”、悪意から〈君〉を守る”避雷針”……というように、針や線が曲全体の共通のモチーフとなっているため、メンバーはセンターを睨みながら指差して針を作り、列になって境界を表現したりする。主人公の抑えきれない気持ちがドロドロと漏れ出たような荒れ狂うベースの演奏や、繰り返しの少ない詰め込み型の歌詞など、溢れ出んばかりの楽曲側の熱に対して、舞台上で見せるメンバーたちの表情はむしろ冷たい。そのコントラストが、ステージ上に不可解な空気を生んでいる。

欅坂46 『避雷針』Short Ver.

 センター平手は、踊っているか踊っていないか、よく分からない動きが目立つ。たまにリズムに合わせたかと思えば、舞台を彷徨ったり、後ろ向きに歩いたりしている。非常に難解なパフォーマンスだと思う。しかしながら、終盤でV字型にフォーメーションが変化し、軽やかなステップを踏みながら鋭い眼光を覗かせると、マイクは会場に起きた歓声を拾い上げた。いわゆるアイドルダンス的なカタルシスはないものの、観る者を引き込む何かがこの曲にはある。敵に立ち向かうヒロインの剥き出しの攻撃性を浴びせられるような、そんな趣の楽曲だ。作詞した秋元康は、この曲の歌詞を”手紙”のように書いたと語っている。

 「たとえば、普通の女の子がこれだけ有名になると、言われなき中傷とかに傷ついたりすることも多いじゃない。ネットに書かれたりして。そういうものに対して、気にしなくていいんだよっていう意味を込めて……たとえばそれが”僕”という言葉で書く場合は僕自身でもあるし、応援してくれるファンのことでもあるし、スタッフのことでもあるんだけど、それが〈悪意からの避雷針〉になるよっていう。「避雷針」の頃って、みんなネットのことが気になったり、傷ついた時期だと思うんですよね。だから、”避雷針”という言葉を使って(欅坂46へ向けて)”手紙”を書こうかなと思ったんですよね」(『今日は一日”秋元康ソング”三昧』(NHK-FM)より)

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