石井恵梨子のチャート一刀両断!
初登場1位WANIMA、2位再浮上ヒゲダン……両者の躍進から実感する“チャートの定説”の変化
そして今週の1位はWANIMA。前作に引き続き2作連続の初登場1位です。タイトルの『COMINATCHA!!』は“Coming At You”を縮めたヒップホップ用語。ボーカルKENTAの発語の速度と滑舌の良さは、彼のルーツにラップ/ヒップホップがあることから来ていますし、バンドのロゴやアルバムのジャケットがラスタカラーなのは、やはり彼らのルーツにレゲエも入っているから。WANIMAがシンプルなロックバンドなのは事実ですが、その音楽は決してロックの血だけで作られているわけではありません。
メジャーからの2作目となる本作は、得意なパンクだけでなく“こういうWANIMAもあるのか”と思わせることを意識しながら作ったそうで、まったりしたレゲエ、ストリングスを入れた美しいバラード、遊び心たっぷりの短いダンスチューン、ロカビリー風のビートが新鮮な曲など、お馴染みのWANIMA節を次々と更新していく内容。それでいて真摯なメッセージは一貫しているから、テレビで見る“元気!”のイメージは表面的なものに過ぎないと気づくはずです。私自身WANIMAには何度も取材していますが、これだけ真面目に音楽と向き合って、辛いこと苦しいことを歌にしているのに、明るさばかりが独り歩きしているバンドって珍しいですよね。ちゃんと聴かれて、届けばいいなと思います。
ちなみにWANIMAのセールスは初週で7.3万枚。第1週だけを見ればヒゲダンと僅差。そして、ここからが重要なのですが、両者はサブスク解禁済のアーティスト。いくらでも聴き放題の状況下にありながら、それでもパッケージを手にしたいと考えたファンの数が数字に直結しているのです。なかには生まれて初めてCDを買った層も少なくないでしょう。
CD世代をファンに持つアーティストは強い。先ほど書いたチャートの定説も怪しくなってきました。売れる音楽のかたちが変わっていくのと同様に、パッケージの意味や価値も、どんどん変わり続けています。
■石井恵梨子
1977年石川県生まれ。投稿をきっかけに、97年より音楽雑誌に執筆活動を開始。パンク/ラウドロックを好む傍ら、ヒットチャート観察も趣味。現在「音楽と人」「SPA!」などに寄稿。