『OLDFOX』リリース特別対談
チェリコ KAT$UO×さらば青春の光 森田哲矢が語り合う、好きなことを追求するパンクな生き方
今年結成20周年を迎えたTHE CHERRY COKE$が、9thアルバム『OLDFOX』をリリースした。アイリッシュパンクバンドとして日本で無二の存在を確立した彼らの集大成となる今作。ここには、ルーツミュージックへのリスペクトと愛情が音に注ぎ込まれ、かつさまざまな音楽性を飲み込んで独自に進化を遂げゆく、今なお現在進行形の音楽が詰まっている。〈何も恐れないその目で睨んでた未来ってそんなモンかよ〉。若かりし自分たちに語りかけたという「Daydream Believer」で歌うそのフレーズは、この先もきっと過去形になることなく鋭く自身に立ち向かってくる、強い言葉なんだろう。そうやってまさにタイトルの『OLDFOX』が意味する、海千山千のごとくしたたかで一筋縄でいかないTHE CHERRY COKE$が提示されたアルバムだ。
アルバムリリースにちなんだ今回の取材では、THE CHERRY COKE$ フロントマン・KAT$UOとバンドにゆかりあるお笑い芸人、さらば青春の光の森田哲矢を迎えて対談を行なった。かつてTHE CHERRY COKE$のMVにさらば青春の光が出演し(タイトルもまさに「〜さらば青春の光〜」という曲だった)、KAT$UOがさらば青春の光のグッズデザインを手がけるなど交流がある両者。とはいえ、普段は音楽の話やお互いの仕事に対する熱い話というのはほとんどせず、今回も音楽の話はできないかもしれないということだったが、音楽にまつわる話や、それぞれがバンドとお笑いで追い求めることについてなど、語り合ってもらった。(吉羽さおり)
第一印象は“面白い人”と“友達にはなりたくない人”
ーーおふたりは知り合ってどのくらいになるんですか。
森田哲矢(以下、森田):僕らが2013年に東京に出てきてすぐくらいだったから、もう6、7年になるんですかね。
ーー出会った当初は、お互いにどんな印象がありましたか。
森田:それは見ての通りで友達にはなりたくないタイプのーー。
KAT$UO:(笑)。
森田:こういう人たちを避けて生きてきましたから(笑)。なぜ出会わないといけないのかっていう。
KAT$UO:僕は、面白い人だなっていうのはありましたね。その頃は今ほどテレビでは見たことがなかったですけど知っていて。最初から飲みに行こうとか、そういう出会いではなかったと思うんですけど。
ーー何があってぐっと距離が近づいたんですか。
森田:なんでしたっけね。でもKAT$UOさんはよくライブを見にきてくれていたので。
KAT$UO:それまで僕は、友達がクラブとかでやってるようなお笑いライブは観に行ったことがあったんですけど、劇場でちゃんと観たことがなくて。劇場でお笑いを見るきっかけは、さらば青春の光だったんじゃないかな。
森田:ありがたいですよね。
ーー森田さんはTHE CHERRY COKE$のライブはご覧になっているんですか。
森田:じつは大阪時代から何回かライブは観させてもらっていてーー。
KAT$UO:そうなの? ライブは見に来たことないんじゃないかって、さっき森田くんが来る前に話してたんだよね(笑)。
森田:いやいや絶対にありますよ。うちのマネージャーが元バンドマンで、その対バンとかで出てはったのを何回か見させてもらっています。
KAT$UO:そうだったんだ。
森田:大所帯で、すごいなっていうか。僕の下世話な感覚では……今メンバー何人ですか?
KAT$UO:多分その当時は7人かな。今は6人で。
森田:これ、全員でギャラ割っていくらになるのかっていう。それでもこの音を奏でたいんだっていうのがわかるじゃないですか。この7人がいないとダメっていうのは、すごい覚悟やなというか。僕らの感覚としたら、割る数が少ない方がいいじゃないですか。
KAT$UO:(笑)。今は6人でよかったということだよね。
森田:ひとり減ってね。
森田「撮影現場は地獄みたいでした(笑)」
ーーさらば青春の光は、2016年のTHE CHERRY COKE$の曲「〜さらば青春の光〜」のMVに出演していますが、あれはどういうきっかけで作られたものだったんですか。
KAT$UO:曲が出来てまずさらばのふたりにMVに出てもらいたいなと思って、当時一緒に構成とかをやってくれていた方に相談をしたんです。最初にいくつかタイトルの候補はあったんですけど、タイトルもそのまま「〜さらば青春の光〜」でいこうかなって言った記憶がある。あの曲はもともとアコーディオンでMUTSUMIが加入した、新メンバーのお披露目のためのMVだったんです。まだ公には加入の発表をしていなかったんですけど、MVをいきなり出して、そこに新しいアコーディオンのメンバーがいたらかっこいいよなっていうところからはじまったもので。
森田:そうでしたね。
KAT$UO:バンドのリスタートの意味も込めて、桜咲くという歌の内容とさらば青春の光っていう名前の相性がいいよなっていうことで、ふたりに出てもらいたいなって。
森田:ただ、世の中に“さらば青春の光”っていう曲が多いじゃないですか。僕らからしたら、もう迷惑なんですよ(笑)。
KAT$UO:なるほど(笑)。
森田:大前提としては70年代の映画(1979年イギリス映画『さらば青春の光』)がある。まず映画ファンが「お前らごときがあの名作を名乗るな」と僕らのことを叩くんです。僕らとしては、この名前はピーマンズスタンダードのみなみかわさんという映画好きの先輩に「お前ら、さらば青春の光ってつけろよ」っていただいたもので、僕は映画も見たことがないんです。でも映画ファンから叩かれる、そして同名の曲があることで布袋(寅泰)ファンからも「お前らがつけるな」と叩かれると。そこにまたひとつ、新しい要素が増えたというか。
ーー実際、反響はどうだったんですか。
森田:THE CHERRY COKE$のファンの人は好意的に受け入れてくれたと思うんですよね。まあ、メンバーの前で、がっつりネタもやりましたからね。ほんと現場は地獄みたいでしたよ(笑)。
KAT$UO:このMVは、一番最後のシーンがいいんですよ。みんなで演奏して“ヘイ!”で終わるんですけど、その“ヘイ!”の後に森田くんがいきなり感情がゼロになる瞬間があって(笑)。見えちゃいけないものが見えてる感じが、いつ見ても笑えるんですよね。アウトロからちょっと様子はおかしいんだけど。
森田:撮影が朝から晩まで長かったんですよ。
KAT$UO:踊らされたりしてたしね。
森田:それで、MV撮ってる最中はずーっとこの曲が流れてるじゃないですか。いい曲ですけど、ノイローゼみたいになってくるんですよ。もうええやろ! って(笑)。
ーーそういったコラボレーションもあり、またKAT$UOさんがさらばのグッズデザインなどを手がけています。
森田:今までやってきた単独ライブを、より本格的にショーアップしようぜって決めたのが3年くらい前で。その一発目からKAT$UOさんにグッズデザインをやっていただいて。そのときは、KAT$UOさんのものと、別のものと2種類を作ったんです。でも、圧倒的にKAT$UOさんのデザインが売れて、もうひとつがいまだに在庫を抱えている状態ですね。そこからはずっとKAT$UOさんにお願いしていて、今年の単独ライブ『大三元』でも、今着ているTシャツをデザインしてもらいまして。これが大好評で。
ーー素敵ですね。デザインをする際、何か打ち合わせはするんですか。
森田:基本的にはほとんどお任せです。このTシャツは、売れに売れているんですよ。僕がお世話になっている大阪の古着屋さんの店長がライブに来てこのTシャツを買ってくれて。それを着てアメリカに買い付けに行ったら、アメリカ人が「なんだそのTシャツは」「くれくれ」と言われたらしくて。
KAT$UO:へえー。
森田:アメリカだと、この虎と麻雀牌の漢字がたまらないみたいで。アメリカでも展開できるんじゃないかなってめっちゃ言われたんですよ。
KAT$UO:入れたいワードやコンセプトだけを聞いて、あとは自由にやらせていただいてますね。この虎も、実はザ・森東(さらば青春の光が設立した会社)の“会長”(事務所で飼っている猫)をモチーフにしてるんですよ。あとはライブのタイトルが「大三元」だったので、麻雀牌を入れようとか。
森田:それでネットに出した瞬間から、欲しい欲しいという声があって。今だに通販やってないですかって問い合わせはきます。
ーー出会ったときの、こういう人とは友達になりたくないという印象から今のような付き合いになっていくとは思わないですね(笑)。
森田:わりと稼がせていただいていて、ありがたいですね(笑)。