流血するハリウッドを離れたポスト・マローンの再出発、『Hollywood's Bleeding』を聴いて
歌詞に目を向けると、今作のリードシングルであるM17「Wow.」において、ポスティは「飽きたからまたヒットを作っちまったよ」とうそぶく不敵さを見せつけている。このあたりはヒップホップマナーに忠実なセルフボーストといった感じだ。M2「Saint-Tropez」も同様にアンアポロジェティックでありながら、ここでヴェルサーチと並んで登場させているブランドがアバクロンビー&フィッチというあたりが、テキサスで育った彼らしい。また、ビルボードのシングルランキング“Hot 100”において、現時点で49週連続ランクインしている人気曲のM12「Sunflower」に違った彩りを与えてくれたのも、『Hollywood's Bleeding』の見逃せない功績の一つといえよう。映画『スパイダーマン:スパイダーバース』の挿入歌として話題となったスウェイ・リーとの同曲が、その前に配されたSZAとのM11「Staring At The Sun」と対で聴かれることを想定しているのは明白だ。
さて、冒頭で触れたとおり嫌気がさして離れたLAはハリウッドのことを、ポスティは表題曲で「吸血鬼が巣食う場所」と表現している。また、ハリウッドと同じくらい彼が辟易しているのが、どうやらインターネットのようだ。M13「Internet」はインタールード的な短さの曲ながら、インスタントな愛が溢れるインターネットと距離を置くスタンスを打ち出している重要曲だ。もとはといえば「White Iverson」がインターネット経由で人気を博し、ハリウッドでスターとしての地位を確固たるものにしたポスト・マローン。M14「Goodbyes」で本人が言うように、サヨナラを言うことが必ずしも得意でない彼が、その両者に別れを告げているのがこのアルバムだと捉えることもできる。拠点を移し、来し方を見つめ返す彼の視線は、自身(Myself)に向く。そう、きっとここが彼の再出発点なのだ。デビューアルバム『Stoney』収録の「Congratulations」で自らの成功を“前祝い”していたポスティは、3年後にその成功を現実のものにした。例えば今から3年後にも、彼は我々を、今の我々には想像もつかないような場所に連れて行ってくれるのではないかと期待が持てる。
■奧田 翔
1989年3月2日生まれ、宮城県仙台市出身。会社員、ライター。ポスト・マローンとスウェイ・リーの「Sunflower」は毎朝の二度寝のテーマソング。
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ブログ『Genius & Cortez』
■リリース情報
ポスト・マローン「ハリウッズ・ブリーディング」
価格:¥2,200(税抜)
01. ハリウッズ・ブリーディング
02. サントロペ
03. エネミーズ feat. ダベイビー
04. アレジック
05. ア・サウザンド・バッド・タイムズ
06. サークルズ
07. ダイ・フォー・ミー feat. フューチャー、ホールジー
08. オン・ザ・ロード feat. ミーク・ミル、リル・ベイビー
09. テイク・ホワット・ユー・ウォント feat. オジー・オズボーン、トラヴィス・スコット
10. アイム・ゴナ・ビー
11. ステアリング・アット・ザ・サン feat. シザ
12. サンフラワー(スパイダーマン:スパイダーバース)with スウェイ・リー
13. インターネット
14. グッバイズ feat. ヤング・サグ
15. マイセルフ
16. アイ・ノウ
17. Wow.