おかもとえみが語る音楽の“隙間”と“微熱感”、同世代女性や自身と向き合って感じたこと

おかもとえみ、同世代女性へのメッセージ

 フレンズのボーカリストとしても精力的に活動中の、シンガーソングライター・おかもとえみによる1stアルバム『gappy』がリリースされる。

 前作のミニアルバム『ストライク!』からおよそ4年ぶりとなる本作は、EVISBEATSやillmore、PARKGOLFなど、かねてより親交を深めていた気鋭のトラックメイカーのほか、赤い靴やmabanua、さらには堀込泰行など、彼女が敬愛するプロデューサー、アーティストが多数参加。アルバムタイトルが意味するように、隙間のある音像が聴き手の想像力を自由自在に反映させつつも、濃密なサウンドスケープを全編にわたって展開している。個性あふれるクリエイターらによる多彩なトラックが並んでいるが、不思議と統一感に貫かれているのも印象的だ。

 フレンズで見せる、明るくて清々しい“えみそん”(おかもとえみの愛称)から一転。「諦め」や「絶望」とその先に微かに見える「希望」を歌う彼女の歌詞は、人生最初のターニングポイントに立つ同世代の女性は特に、共感するところが多いのではないだろうか。

 アルバムの制作エピソードや、今年で29歳を迎える彼女の今の心境など、率直に語ってもらった。(黒田隆憲)

一人で聴く音楽は音の隙間や間を大切にしているものが多い


ーーソロ名義のアルバムとしては、ミニアルバム『ストライク!』から4年ぶりとなりますよね。その間、フレンズはもちろん、他アーティストとのコラボなど、活動の幅を広げてきた印象があります。

おかもと:はい。THEラブ人間のベーシストを卒業して、最初はソロになろうと思って。もともとエレクトロっぽいサウンドやR&Bが好きだったので、まずは自分でトラックを作ってリリースしたのが『ストライク!』だったんです。その後すぐにフレンズを結成して、「次はいつソロを出そうかな」と考えているうちに気づいたら4年経っていました(笑)。で、今回久しぶりにソロを出すにあたって、「おかもとえみにしか出来ないことって何だろう?」と考えたときに、以前のエレクトロ感やメロウな感じをさらに追求しつつ、私の色をより濃くしてくれるような方たちと一緒に出来たらいいなと思って、今回は様々なトラックメイカーさんにお願いしました。

ーーフレンズは他のメンバーもソロ活動をコンスタントに行なっているし、えみそんさんもアルバムのリリースこそなかったものの、ボーカリストとして多方面でフィーチャーされるなど、フレンズ以外の活動も色々されていましたよね。

おかもと:そうですね。『ストライク!』に収録された曲の中で、EVISBEATSさんにアレンジしていただいた「HIT NUMBER - EVISBEATSとPUNCH REMIX」がいろんな人に聴いていただく機会があったみたいで。それまではTHEラブ人間のベーシストとしてバンド界隈にいたのが、それまであまり関わりのなかったクラブ界隈で曲を流してくださることが増えたんです。そこからオファーを頂くことが多かったみたいですし、実際フィーチャリングしていただいた楽曲はどれもカッコよくて、毎回新鮮な気持ちでやっていましたね。

おかもとえみ /『HIT NUMBER - EVISBEATSとPUNCH REMIX』Music Video

 ほかにも、例えばillmoreくんとは大分のイベントに遊びに行った時、たまたま出会って意気投合して。そこから「思い出す (feat. おかもとえみ)」(2018年)という曲でコラボすることが決まったりしていました。

ーー今作『gappy』も、そういった中で知り合ったトラックメイカーが多く参加されていますよね。

おかもと:TSUBAMEさん、illmoreくんもそうだし、卓球仲間のパーゴル(PARKGOLF)もそう。それに、私の活動が大きく広がっていくきっかけを作ってくださったEVISBEATSさんには、今回も絶対に参加していただきたいと思っていました。

 それと以前、吉澤嘉代子ちゃんのバンドでベースのサポートをやらせてもらった時に、赤い靴の神谷(洵平)さんがメンバーにいて。ドラムがすごい方だなと思ってびっくりしたんですよ。とにかくグルーヴ感が心地よくて。それで今回、神谷さんにはillmoreくんが作った楽曲「remind」のプロデュースをしてもらったんですけど、illmoreくんのエレクトロ調の楽曲に対して生楽器を使ったものすごく面白いアプローチをしてくださいました。

ーー確かに、アルバムの最後に収められこの「remind」は、他の楽曲と比べて異色な仕上がりですよね。

おかもと:私は赤い靴の「Let it die !」という曲が大好きで。おもちゃ箱をひっくり返したようにカラフルで、全ての楽器が粒立って聞こえてくるような、すごく密室的かつキラキラした印象があるんです。そんな雰囲気のアレンジにしてもらいたいなと思ってリクエストを出したら、すぐに理解してくださったんです。おもちゃ箱というより、宝石箱をひっくり返したような、素敵なアレンジにしてもらいました。本当にいろんな音が散りばめられていて、何回聴いても新しい発見があってすごく嬉しかったです。

 神谷さんだけでなく、今回プロデュースしてくださった方たちは、どなたも私自身が思いつかないようなトラックを作ってくださって。自分の中にある新たな面をたくさん引き出してもらったなと思っています。

ーーアルバムを作る上で、何かコンセプトやテーマはありましたか?

おかもと:タイトルの「gappy」には、「隙間が多い」という意味があって。自分が一人で聴く音楽は音の隙間だったり間だったり、そういうものを大切にしていることが多いんですよね。人と人との関係性もそうで、「詰まってない感じ」というか、せわしなくないほうが好きで。今回のアルバムも、そういう隙間や間を大切にした、聴いている人の心の染み入ってくるような作品になったらいいなと思って作りました。曲によって共感してもらったり、泣いたり笑ったりしてもらいたいなと思いつつ、全体的にはメロウでゆったりした時間が流れているというか。

ーーなるほど。

おかもと:今ってスマホをいじったり、SNSなんかをしている時間が多いじゃないですか。もちろん私自身もそうなんですけど、たとえば夜、駅から家まで歩いて帰る間は、そういう情報から一旦離れて何気ない日常の風景を感じられる貴重な時間だと思うんですよね。普段、情報が多いからこそ、自分自身が「休まる場所」になっている。今回のアルバムも、誰かにとってそういう「休まる場所」になったらいいなという気持ちもありましたね。

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